私が通う話、場所は学園 パート⑮
ディグザムは継ぎ接ぎだらけの体をしていた。
左腕は魔獣の、右腕は魔族の、両足は獣人のもので、胴体は多種多様な皮膚で覆われている。
ディグザムのものであるのは、首から上だけだった。
私は思わず後退りをした。
驚愕と、得体の知れない恐怖から。
「…どう、して…」
「おいおい。幽霊見たような顔すんなよなぁ。テメェは俺を殺してなかったろ?」
「…そう。殺してない」
「あぁ!そうだ!納得いかねぇ!…どうして、俺を殺さなかった?」
ディグザムの私に対する感情が膨れ上がった。
その感情を何と名付けるのか、私には分からない。
「テメェが俺を殺さなかったお陰で、俺はこんな形になっちまった!!なぁ、どうして、俺を殺さなかった!?」
「…」
訳が分からない。
私がディグザムを殺さなかったからディグザムは異形になった?
誰が何の目的でディグザムをこんな体にしたというのか。
「まぁいい。お陰で俺はテメェにまた会えたからなぁ。さぁ、キリヤ。8年前の続きをしようじゃねぇか!!」
ディグザムは一瞬で私の目の前に来た。
私はかろうじてディグザムの蹴りを右腕で受ける。
「っぁ…」
「あぁ?どうしたよ、キリヤ。テメェはそんなに弱かったかぁ?ちげぇだろぉ?テメェは俺なんざ圧倒する力だったはずだぁ!!」
蹴り、拳底、魔法。
今のディグザムは規格外だ。
最高峰の肉体を得、最高峰の魔力を持った。
キメラ。
ディグザムを呼ぶならそう呼ぶべきだろう。
「…おい!キリヤ!どうして本気で掛かってこねぇ!?テメェなら一瞬だろう!?」
「っ…賢者様!手出すな!」
視界の端でヴェルトが魔術を練るのが見えて、私はヴェルトを制した。
これは私の戦いなのだ。
ヴェルトが舌打ちして何か叫んだが、今の私には聞こえない。
「…ディグザム。ごめん。あの時ちゃんと私がトドメを刺しとけばよかったんだね」
「ははっ!まぁな…唯一の救いはテメェにやっと殺されることか?」
「…何それ、全然救いじゃないでしょ…決着、着けようか」
「あぁ!当然だぁ!!」
あの8年前の時のように、私たちはお互い拳を握った。
左からの蹴りを避け、右からの拳を右腕で受ける。
代わりに小さな炎の爆弾を投げつける。
それは簡単にいなされ、お返しに風の刃が襲ってきた。
それを壁で防ぎ、ディグザムに蹴りを入れた。
お互い無言だ。
私たちの周りに結界を張ったので、周りからの音は全て遮断されている。
私はディグザムを殺す瞬間を待つ。
ディグザムは、私に殺される瞬間を待っていた。
「…さよなら」
「…あぁ、じゃあなぁ…」
終わりは呆気なくきた。
戦いの最中に用意していた糸が、ディグザムの体を拘束していた。
私は笑う。
お父さんに貰ったナイフを取り出し、ディグザムから魔力を感じる部分…眉間に突き刺した。
ディグザムは微笑み、一言呟いた。
「… 」
ナイフを引き抜き、心臓部にもナイフを刺し、引き抜いた。
ディグザムは完全に動かなくなった。
直後、ディグザムはサラサラと灰になり、宙に舞う。
結界を解き、ディグザムの灰をヘルトモルテに送っておいた。
「キリヤ!」
「姉さん!」
…ん?
姉さん?
「ぐへっ」
背後から突撃され、私は突撃してきた奴共々地面に倒れた。
突撃するのはアリスだけで充分なんですけど!
立ち上がる前に突撃してきた奴に立たされ頬を両手で掴まれた。
銀の艶やかな髪、新緑を思わせる瞳が私を射抜いていた。
「あー、ハルト君。私君のお姉さんじゃナイヨ」
「…黒の髪に紫の瞳…どこが姉さんじゃないと?」
「黒髪に紫の目なんて探したらいっぱいいるってー」
「じゃあそのナイフは」
「こ、これはー…も、貰い物だよ!うん!」
「姉さんがこのナイフを他人に渡すわけがない。貰ってから肌身離さず持ってたくせに」
「いやね、だからハルト君のお姉さんじゃないって言ってるじゃん…」
いつの間にか黒髪に紫の瞳に戻ってしまっていたらしく、いつの間にか来ていたハルトに拘束されていた。
クソ、背が高くて腹立つな!
「…おい」
ぐい、とハルトと引き離された。
間にヴェルトが入ってきて、ハルトを睨む。
「俺の女に馴れ馴れしく触るんじゃねぇよ」
「…賢者様。その人は俺の姉だ。今確認していたところだ」
「…テメェがハルト=オルディーティか。弟だか何だか知らねえがキリヤに触んな」
「…やっぱり姉さんなんだな?」
ヴェルトと話していたハルトはヴェルトの言葉を聞いて私に視線を移した。
私は苦笑いでヴェルトの背後に隠れる。
話を聞かれないようにヴェルトを引っ張り顔を引き寄せた。
「ちょ、ヴェルト!何でバラすの!?」
「いい加減家族に会いに行けよ。コイツが探してんの知ってんだろ?」
「…いやね、今更会わせる顔が無いっていうかさー。会うの怖いし…」
私が弱音を吐くとヴェルトが私を引っ張り出してハルトの前に立たせた。
「ヴ…賢者様!?」
「よくアイツの目ぇ見ろ。キリヤを恨んでる目かよ」
「…」
言われた通り目を見れば、ハルトは泣きそうな顔をしていた。
その目は、歓喜一色で。
「…姉さん」
「…どうしたの、ハルト」
私は昔と同じようにハルトの頭を撫でた。
ちょっと背伸びしてやっと届いたけど。
でも、ちゃんと成長していたことが嬉しい。
「…会いたかった」
「うん」
「ずっとずっと探してた。父さんも母さんも、アルベルト様もマリオット様も」
「…うん」
「姉さんを待ってた」
「…うん」
「…遅い…俺たちが、どれだけ待ってたと思ってるんだ…」
「ごめんね」
私はボロボロと泣き出したハルトを抱きしめた。
ハルトは私の肩に顔を埋め、しばらく泣いていた。




