私が通う話、場所は学園 パート③
学園長室を出た後、ミーナ先生の記憶を改竄し、私は孤児院に戻った。
孤児院に帰ると子供たちがわらわら寄ってきて、構って構って!と攻撃をしてくる。
子供たちの向こう側に、トーマの奥さんのエレナさんがいた。
今日は私が居ないため、彼女と他の元暗殺組織組を置いて行ったのだ。
今後、元暗殺組織組とその奥さんたちに交代
で来てもらう予定である。
エレナさんは困ったような顔で私に笑いかけた。
「シスター!」
「遊んで!」
「学校行くって本当!?」
「シスターすごーい!」
中には本当によじ登ってくるやつもいて、仕方なく私は彼らと鬼ごっこをさせられるはめになった。
子供たちを大人たちに任せ、私はエレナさんと一緒に調理場で晩御飯を作っていた。
「エレナさん、今日は1日ありがとうございました」
「そんな…私が役に立てることがあるなら何でも言ってください。ここに置いて貰ってるのに何も出来なくて悔しいくらいなんですよ?」
「え、そうだったんですか!?うーん…じゃあ色々と頼もうかなぁ…」
エレナさんは王都から少し離れた村の出身で、両親が亡くなり一人になったのをキッカケに王都にやって来ていたのだ。
なんやかんやあってトーマの奥さんになり、今はこの孤児院にトーマと共に住んでいる。
トーマと彼女の間には子供もいて、5歳と3歳の男の子と女の子だ。
孤児院の子供たちと一緒に育てられてるから、エレナさん曰わく暇なんだそうだ。
「エレナさんには今後料理を担当してもらうと思うんですけど…一人でやらなきゃいけない時も出てきますが頼めますか?」
「もちろん!キリヤさんほど美味しく作れないけれど」
「そんなことないですよ。エレナさんのご飯、私もトーマも大好きですから」
トーマの名前を出すと、エレナさんは顔を赤くして洗っていた野菜を落とした。
…トーマはエレナさんが大好きなのだ。
こちらがげんなりするほどに。
万年新婚だから、そのうちまた子供が出来るんじゃないかとヴェルトと話していた。
「き、キリヤさん!」
「いや、事実ですから」
その後、少しエレナさんをからかい、晩御飯を作ってみんなで一緒に食べた。
月日。
編入当日である。
今日はヴェルトも連れてきている。
そのヴェルトは老人に姿を変えていた。
私は魔術で髪と目を青に変えていた。
「…っ」
「笑うんじゃねぇ」
ヴェルトの老人姿に大爆笑を堪え、私はヴェルトの手を引いて校舎へ入って行く。
この間覚えた学園長室に行き、ノックした。
返事があったので中に入った。
中には学園長と壮年の男性がいた。
男性はスッと背筋を延ばし、少し長い赤髪を後ろで一つに括っていた。
腰には刀を差し、こちらを一瞥する瞳は刀と同じ色であろう、鈍色。
「よく来てくださいましたな、キリヤさん、賢者様」
「おはようございます、学園長。分かっていると思いますがこちらが賢者様です。名前はお教えすることはできませんので…」
「もちろんですとも。こちらはキリヤさんの担任になるサイアスじゃ。サイアス、こちらは賢者様と賢者様の付き人にあたるキリヤさんじゃ」
「お初にお目にかかります。サイアス=フレイムと申します」
「キリヤです。フレイム…ということは焔の貴族のフレイムですか?」
「えぇ。それでは、キリヤさんは私と教室に向かいましょうか」
私はヴェルトを置いて、学園長室を出たサイアス先生の後を追った。
学園長はヴェルトの名前を知っているが、この学園でヴェルトの名前は公表されないことになっている。
孤児院にいるヴェルトの名前は一応知ってる人は知ってるので、ヴェルトと賢者様を結び付ける者が出ないように、との配慮である。
今更遅いだろ!とか言わないでほしい。
ヴェルトの姿を知っているのはサーレスト家と王と酒場の皆様だけだから!
案外、ヴェルトは姿を隠していたらしい。
焔の貴族、とはかつて勇者を排出した貴族のことである。
その勇者は火の属性を持ち、自由自在に火を扱ったことで、焔の貴族と呼ばれるようになったのだ。
「…キリヤ、と呼ばせて貰うが構わないか?」
「はい。私のことは普通の生徒として扱って下さい。サイアス先生と呼ばせて貰いますね」
「あぁ。それとフレイムとは縁を切っているから、私をフレイム家と結び付けないで貰えるとありがたい」
「分かりました」
その後は無言で歩いた。
窓の外を見ていると、いつの間にかサイアス先生は立ち止まっていて、私は彼にぶつかった。
「うぉ!?」
「…女の子がそういう声をあげるものではないと思うぞ」
「…えーっと、すみません」
「それと…君は貴族の標的になるだろう。私のクラスはそういうクラスだ。その中でも、君はレベルが低いと思われるからな」
「…それに、平民だからですよね?」
「…それもあるだろう。私には君を守ることはできない。助けを求められても困る、ということだけ覚えておいてほしい」
「…分かりました」
なんだか、変な先生だ。
言葉では突き放しているが、目が心配そうな色をしている。
それと、どうやら私の属するクラスは総じて魔力が低いようで、貴族たちから見下されているらしい。
…先生も大変だなぁ。
先生はすぐ横の扉を開き、私を中に入れた。
どうやら教室だったようだ。
生徒数は二十人ほどらしく、空席はない。
私を見て好奇心を示す者もいれば、嫌悪を露わにする者もいた。
「…さて、噂で聞いていると思うが編入生だ。自己紹介を頼む」
「…キリヤです。よろしくお願いします」
ほとんど丸投げな先生は、私の席を示し、私はそこに大人しく座った。
先生はいくつか話をすると、さっさと出て行ってしまった。
…やる気があるのか無いのか分からない先生である。
扉を眺めていると、ふと影が出来た。
私が顔を上げれば、ピンク色の髪の少年が立っていた。




