私が通う話、場所は学園 パート②
あれから数日後、私は学園の前に立っていた。
この魔術学園はアルテルリア王国で唯一の魔術師養成学校で、魔力を持つ貴族を中心に、15歳から18歳までの子供を新入生として全世界から募っている。
平民でこの学園に入れればエリートコースまっしぐらで、魔力の多い平民はこの学園に入ることを夢見て勉強している。
ただし、入ったら入ったで貴族に虐められたりするらしく大変らしいが。
まぁ、権力者の子供に取り入って守って貰うこともできるので、多くの平民はそうやって学園生活を生き延びるのだ。
トーマも平民から学園に入り、トップを独走してきたというこの学園のOBで、私の学園編入を聞いて色々と必要な物を教えてくれた。
実は、とあるキッカケで私とトーマは仲良く?なった。
というか、共同戦線を組んだ、とでも言うのが正しいのか。
ヴェルトが大好きなトーマは、ヴェルトを救う唯一の人が私だと知り、私に色々教えるようになったのだ。
しかも、その後私がトーマとトーマの奥さんの仲を取り持ったことで、トーマに恩を売ることに成功したのである。
ふぅ、本当にトーマは役に立つからな。
この学園にはメアリアの妹のマリアナも通っており、私が転入することを伝えるとツンツンしながらも喜んでくれた。
マリアナは伯爵位の男と婚約していて、その人も学園にいるから紹介してくれるという。
メアリアが選んだ人だから実は結構楽しみにしている。
私は重たい教科書を別空間に放り込んできたので、手荷物は全くない。
…この魔法、私とヴェルトしか使えないからバレるとヤバいんだよなぁ。
私とヴェルトは魔力が神様並みなので、魔法だろうと魔術だろうと何でも使えるのだ!
ついでに、精霊術も使えるし!
他にも、私だけが使える技とか力があるけど、いつ使うのかは謎である。
私は学園の門前に立つ衛兵さんに声をかけ、学園に入った。
膨大な敷地なので、歩くのが大変だ。
…あぁ、転移陣使いたい…
しばらく歩いていると、映画に出てくるような洋風の校舎が見えてきた。
え?どんな映画かって?
まぁ、世界観に合った適当な映画を思い浮かべてください。
私は校舎に入り、歩いていた先生らしき女性を捕まえて学園長室の場所を聞いてみた。
「すみません」
「…はい?」
「学園長室はどちらでしょうか?」
「学園長室ですか?…編入生の方ですね?私が案内しますよ!」
「はぁ、どうも?」
女性はとても嬉しそうに瞳を輝かせた。
なんか、嫌な予感しかしない…
女性はこっちこっち、と廊下の先で手招きしている。
仕方なく、私は後を着いていった。
予感は的中した。
分かっていたことではあるが。
女性の名前はミーナ。
私の学年の先生で、担当は歴史学。
彼女は私が来ると聞いてとても楽しみにしていたんだそうだ。
学園長室までの道のりで、その熱い想いを語られ、私は食傷気味だった。
今はミーナ先生と共に学園長室のソファで学園長と対面している。
「シスター…いや、キリヤさん、よく来てくださいましたのぅ」
「来なくていいなら来ませんけど」
「え、ちょ、キリヤちゃん!学園長先生になんて…」
「いいんじゃよ。彼女がこうして学園に来てくれるからやっと賢者様が特別講師を引き受けてくれるんじゃ」
「へ?…キリヤちゃんは賢者様とお知り合いなの!?」
「…えぇ、まぁ」
…このミーナ先生、めちゃくちゃ私に馴れ馴れしいのだ。
精神年齢38歳の女が28歳の女性にちゃん呼ばわり…
食傷気味にもなるよね、コレ。
「す、すごいわ!あの賢者様とお知り合いなんて!!」
…トーマと似たような人種を発見した。
「それで、私はいつからこちらで学ばせて頂くことになってるんでしょう?」
「あぁ、明後日の月日からじゃよ。今日はキリヤさんの魔力と属性の測定をさせて貰おうと思ってのぅ」
「…分かりました。あぁ、一ついいですか?」
「何じゃね?」
「髪と目の色を変えたいんです。許可を頂けますか?」
月日とは月曜日のことである。
火曜日は火日となり、他は言わずもがな。
何故色を変えたいのかと言えば、この学園にはハルトがいるからである。
ハルトが覚えているかどうかは知らないが、ハルトに付き従っているだろうシルフィとルーチェは覚えているだろう。
彼らにバレればアルベルト様にもバレ、ゼスさんにもバレることは確実なのだ。
まだお父さんとお母さんを見つけれていないから、会う気になれない。
「ふむ…ご自分でやるのかのぅ?」
「いいえ。ヴェルトに頼みます」
「なるほど…キリヤさんの頼みなら断る理由がないのう。好きにして下され」
「ありがとうございます」
よし、これでバレないだろう!
「それでは、測定させて頂きましょうかの」
そう言って、学園長はソファから立ち上がるとミーナ先生を連れて隣の部屋へ行った。
私はその内に魔力調節をしておく。
最小限の魔力だけにしておいた。
これなら一般人の方が持ってるか…?
まぁいいや。
少しして学園長とミーナ先生が何か2つの物を運んで来た。
…何アレ。
一つは握力測定器のようなもの。
あの、ぎゅうって握るやつね。
もう一つはあの、体温を画面で見るやつ。
温かいところは赤で冷たいところは青で…みたいなやつ。
…こんな説明で分かって貰えたかな?
「先ずは魔力測定からじゃな。こちらを軽く握ってくだされ」
握力測定器のような物を渡された。
仕方なく軽く握る。
しばらくして数値が出された。
私の魔力量は現時点で百。
普通の学生さんで五千だから、私は桁違いに低い。
ミーナ先生が顔をひきつらせた。
学園長に促され、体温を計るようなやつの前に立たされた。
属性も調節しておいたので、多分、水の一つになっているはずだ。
ミーナ先生は難しい顔をして黙り込み、学園長は苦笑いしていた。
「…ミーナ先生、すまんが部屋の外に出ていて貰えるかのぅ?」
「…分かりました」
ミーナ先生は部屋の外に出された。
出て行ったのを確認し、学園長は部屋に盗聴、盗撮防止の為の結界を張った。
学園長は結界が張られたのを確認すると、私に向き直った。
「魔力量を偽るのは構わないんじゃが、もうちっとだけでも増やしてくれんかの?」
「…学生の平均は確か五千でしたっけ?じゃあ二千くらいでも大丈夫でしょうか?」
「…キリヤさんが編入する学年は最低でも五千なのじゃが…それなら構わないじゃろう」
「では、二千にしておきます。あ、そうそう。ミーナ先生の私に会ったという記憶を少し変えたいんですけどいいですか?」
「…まぁ、構いませんぞ」
私は魔力量を二千に調節した。
学園長は呆れたような顔で始終私と話していた。




