私が逃がす話
明日が決行なのに、キリヤがいなかった。
それに気付いたヴェルトはキリヤを探して回った。
この基地内にはいない。
なら、外か?
そう思い、基地を出て、洞窟を出た。
洞窟を出たすぐそこには、キリヤと、キリヤと同じ色彩の男がいた。
2人は何か見つめ合っているように見える。
焦りを感じ、ヴェルトはキリヤの名前を叫んだ。
「キリヤ!」
「…ヴェルト?」
こちらを見たキリヤの不思議そうな顔に苛立ちを覚える。
ヴェルトはキリヤと男の間に素早く入り込んだ。
男はヴェルトを見て、何故かニヤニヤと笑い出した。
「…やぁ、ヴェルト」
その声を聞いてヴェルトは驚く。
その声は神のものだったのだ。
ヴェルトの前に立つ神はヴェルトに会ったときのように色彩を変え、ヴェルトと同じ色になる。
「…なんで神が…」
「キリヤの封印を解きにきたんだ。ほら、キリヤに魔力があるだろう?」
そう言われキリヤを見れば、確かにキリヤから魔力が感じられる。
「はは…君は長く生きすぎて色々な感情を忘れているらしい。まぁ、10年後に気づくことをオススメするよ。ではキリヤ、ヴェルトを頼んだよ」
「はーい。あ、曾々おじいちゃんと曾々おばあちゃんにありがとうって言っておいてね」
「わかった」
神はそう言うとふわりと浮き上がり、消えた。
…なんだ。神の今の意味深な言葉は。
意味を考えていると、キリヤに服を引っ張らた。
「ヴェルト、眉間皺よってる。それ跡つくらしいよ」
「あぁ?キリヤが急に消えるからだろ?」
「えー?私のせい?」
「うるせぇ。ガキはさっさと寝ろ」
ヴェルトはキリヤの首もとの服を掴み、基地の中に戻って行った。
翌朝、私たちは行動を開始した。
まずは皆の服従の首輪を外す。
ヴェルトと2人で一気に外しまくり、ものの数分で皆は解放された。
さて、一応服従の首輪の説明をしよう!
今更だけどな!
服従の首輪は服従させる人間にはめ、その生死を操り、隷属させる魔具である。
もし、気に入らないことがあれば、その首輪に命じて心臓を止めさせるのだ。
また、隷属させた相手が無理矢理外そうとしたり、その部分を切って逃げようとすると自動で発動する。
が、私とヴェルトはその魔具自体の効力を無くすので、苦労せずに外せるのだ!
「おい、何割れた首輪持って仁王立ちしてんだ」
「…視聴率アップを目指して?あー、この世界テレビ無いんだった…」
嘆く私を無視して、計画は着々と進められていく。
今回はトレイス、アルバ、ディス、私、ヴェルトで馬鹿主のところに乗り込む予定だ。
他のメンバーのうち、ミゼン、ノーヴェ、スーイはその後活躍がある。
残りのメンバーは待機、スートレやスーフォは馬鹿主の屋敷に軍を呼ぶとか、そんな感じだ。
「またここに戻ってくるんだよね」
「そうだね」
不安そうなスーフォが私に聞いてきた。
一応、住む場所か出来るまで私たちはここに滞在することになっている。
そのために私とヴェルトで結界を張り直し、強度で言えばダイヤモンド以上である。
…例えが分かりづらい…
「…スーウ。ちゃんと帰ってきてね」
「もちろん!そうだ、スーフォは自分の名前を覚えてる?」
「え?うん…だって、俺が持ってるものは名前だけだったから。捨てたくなくて」
「じゃあ、私たちが帰ってきたら、皆に教えてあげよう。私も、皆に名前を教えるから。それで、皆の名前も聞こう」
「…うん!そうだね!」
表情を明るくさせたスーフォに私も笑い返した。
さて、そろそろ行動開始といきましょうか!
私たちは趣味の悪い屋敷にいた。
あの男の趣味が悪いのは今に始まった話しじゃないけど。
それでも、金ピカの女性像ってどう思います?
あ、しかも中身石で、金箔が張られてるだけじゃん!!
何それ、いいのか?
この屋敷の中に人間は20人程度。
そのうち、厨房らしき場所に3人、廊下や庭に10人、部屋の中に7人。
あの馬鹿主は独り身だったから、馬鹿主以外はこの家の使用人だ。
この馬鹿主、伯爵位を持ち、裏の金で私腹を肥やす典型的な馬鹿主である。
表では全く成功していないから、この金回りの良さに軍が気づかないわけがないが…
どうやら、馬鹿主を操る頭のいいやつがいるらしい。
「それじゃあ、ヴェルトは馬鹿と会ってね。アルバはヴェルトに付いてって。私とトレイスとディスは屋敷内の書類とかの収集。そのついでに使用人のチェック。まともな使用人であれば私に報告して」
「…スーウは主のところに行かないの?」
「面倒くさい!」
「…」
私の発言に、みんなが黙った。
冷たい目を無視して、私は動き出した。
それに、皆慌てて付いてくる。
アルバとヴェルトは途中で別れ、私とトレイス、ディスはそれぞれ散らばっていく。
途中、いくらか使用人と会う機会があったが、皆、私に気付くことなく通り過ぎていく。
まともそうなのは半分といったところか。
トレイスとディスの意見も聞いてみよう。
私は馬鹿の書斎らしき場所に入り、書類を探す。
あ。あった。
どこぞの商会からいくら貰ったとか、どこぞの商会の権利書とか、実印と共に、国からの許可証も置いてある。
この細かさは馬鹿では無さそうだ。
と、そこに廊下からこちらに向かう靴音がした。
私はどこかに隠れようかと場所を探していたら…
爆発音と共に、書斎の扉が吹っ飛んだ。
「…えー」
私は飛んできた扉を避け、一応構える。
コツ、という靴音を立てて入って来たのは、買い出しの時に馬鹿の後ろに控えていた燕尾服の男だった。




