私が企む話 パート②
瞑想を終えたヴェルトは頭を抱えて無言になった。
ヴェルト君、何か話して!
ちょっと、その世界が終わった、みたいな溜め息を止めなさい。
「…嘘だろ」
「神様(笑)は何て言ってた?」
「…テメェが俺を救うんだと」
「でしょ?」
「あり得ねぇ!テメェ10歳だろ!!」
「精神年齢は30だから」
「俺は200だ!」
「え、マジ!?200年も生きてるんだ…」
本気で泣き出しそうなヴェルトの頭を撫でてあげた。
いつもなら手を振り払われるのに、今日はされるままになっている。
「…私ね、前世の記憶があるんだ。死んでから神様(笑)に会って、私にヴェルトのこと頼んできたんだよ」
「…」
「前世はさ、20歳までしか生きられなくて。だから、ヴェルトには感謝してるよ」
「…テメェ、精神年齢30なのにこの共同生活に馴染んでるのかよ…女だろ!恥じらいを持て!」
「えぇ!?でも周りから見たら10歳児…」
「しかも不老長寿なの分かっててギルド潰しに行ったよな!?死ぬんだぞ!分かってんのか!?」
「あ、う…ごめんなさい」
「…俺がテメェにどれだけ会いたがってたか知ってるだろ」
ヴェルトはこの2年とちょっと、本気で私を探していた。
ヴェルトは人間なのに、神様並みの魔力を持ったせいで、死ねなくなった。
人間からは恐れられ、受け入れてくれる人に会っても先に死んでいく。
最強と恐れられても、敬われても、ヴェルトは孤独だった。
そこに神様から私の話を聞いた。
きっと渇望しただろう。
会いたくて、でも見つからなくて。
本当なら、私たちなんて放っておいて探しに行きたかっただろうに。
「ヴェルト」
「もうテメェの頼みは聞かねえからな!」
「え、うん…じゃなくて」
「…なんだ」
「待っててくれてありがとう」
へら、と笑った私にヴェルトは拳を落とした。
「…酷い。ディスが殴ったとこと同じとこ殴ったな…」
「知るか。…で?テメェはこれからどうすんだ」
「あ、うん。二日後、私の封印が解除されるんだ。封印が解除された日、みんなの首輪を外して脱走する」
「…脱走っつったって一辺にあいつら転移させるのは無理だぞ」
「ふふふ…私に不可能はない!」
何故なら曾々おじいちゃんと曾々おばあちゃんに貰った知識と経験、神様(笑)に貰った魔力やら神通力やらなんやらがあるから。
曾々おばあちゃんは私に世界征服でもさせたかったのか?
するつもりはないけど。
集団転移も、おばあちゃんたちが天使の時の知識を使えば目を瞑ってても出来る。
あー、ホントチートだな。
「あいつらには話したのか?」
「今日話す。…これからどうするのかもその時聞く」
「…仕方ないな。ま、テメェは俺を救うんだ。それくらい手伝ったって問題はねぇだろ」
「わーい!あ、そうだ。私の名前はキリヤ。スーウはこの組織での名前だから、キリヤって呼んでね」
「…はぁ。もう隠し事はねぇな?」
「うーん…ないんじゃない?」
それから、私たちは脱走の計画を練ることにした。
夕食後、私とヴェルトは食堂にみんなを集めた。
皆は不思議そうな顔で私とヴェルトを見ている。
「スーウ、そんなに動き回って大丈夫なのか?」
「飯は作ってくれて嬉しいけどよ…まだ寝てたほうが…」
「心配ありがとう。でもヴェルトのお墨付きだから平気。それから、皆に話しがあるんだ」
全員が不安そうな顔をする。
「…ヴェルトと駆け落ちするのか?」
「…だから何でそうなる!?私とヴェルトは190歳差!!」
「え、ヴェルトってそんなに年とってるの?」
「うるせぇ!爺って言うな!」
「言ってないけど…」
アルバが何気なく呟いた言葉に過剰に反応するヴェルト。
それ、自分がお爺さんなの認めてるからね。
「そんなことより!二日後、脱走を決行します!」
「…はぁ?」
「スーウ、出来ないことはやらないほうが…」
「寝てる間に頭でも打ったのか?」
「あー!もう!ちょっとミゼンこれ見て!」
私はミゼンに足首を見せる。
そこにあった入れ墨は、綺麗さっぱりなくなっていた。
「…服従の首輪が、ない?」
「そう。ヴェルトに取って貰ったの」
「…ヴェルトは他人のも外せるのか?」
「まぁな」
「二日後には私も出来るようになってる。それで、みんなで首輪を外して、脱走するから。あ、決定事項だから反対意見は聞きません!」
だって、聞く必要なんてなかったから。
服従の首輪が外せると分かった皆の顔は、明らかに輝いていたんだ。




