私が復讐する話 パート③
私は誰一人として殺してはいない。
そのことに気付いたディグザムは楽しそうに笑った。
「おいおい!殺さねえのかぁ?」
「復讐は殺すことじゃないから。…どう?強くなった?」
「あぁ!予想以上だぁ!惚れ惚れするぜ!その強さ。それ以上にその目になぁ!」
私とディグザムは同時に動いた。
ディグザムは剣を持ち、私はあの時のナイフで。
リーチがある分、ディグザムの剣が私に細かな傷を付ける。
私は未だ傷一つ付けていない。
「どうしたぁ?何を考えてんだ?」
「これからどうしようかと。私が10歳になるまで一週間あるんだよねぇ」
振り下ろされた剣を捌ききれず、地面を蹴って距離をとる。
ディグザムは距離を詰め、今度は剣を突き出してきた。
それをしゃがむことで避ける。
「なら一週間ずっと殺し合ってりゃいい!お前となら一生殺し合ってても楽しそうだ!」
「ヤダ。疲れるし」
避けた先にディグザムの足があり、それを蹴って反動を付けつつ、脛を殴った。
少し体勢を崩したディグザムの剣を手からたたき落とし、一本背負いを喰らわせた。
背中を打ち付けたディグザムに乗り、腹に足を入れる。
「ぐっ…」
そのまま首筋にナイフを走らせた。
ディグザムは首から血を流し、ぐったりとしていた。
もちろん死んではいない。
ナイフには薬が塗ってあり、それがディグザムの体に回っただけだ。
私はディグザムの足の腱を切り、歩けないようにした。
あぁ、疲れた。
ディグザムの側に座り、息を吐く。
「私の復讐は、殺すことなんかじゃない」
懐から狼煙となる薬を取り出した。
軍で使われている薬で、緊急事態の時の狼煙である。
それを炎にくべ、気絶しているディグザムの部下たちをひとまとめにして縛る。
この狼煙、緊急事態用なので、軍に属する魔術師たちがいち早く飛んでくるから、早く帰らないといけない。
もう、空は明るくなっていた。
「スーウ!」
森で一泊し、深夜に帰ると食堂にはミゼンとヴェルトが待っていた。
「ただいまー」
「…ただいまじゃない!一体どこに…!」
「恩人に会いに?」
「…ヴェルトもそう言った」
「…あ、あははー…」
当然、受けた傷が治っているわけがなく、私は傷だらけだ。
しかも、魔術師たちにバレないように駆け回っていたから泥だらけだ。
「…ミゼン、ちょっとそいつ貸せ」
「…あ、ああ…」
ヴェルトは怒っていた。
一目見てそれが分かったので、私はなるべくヴェルトの方を見ないようにしていたのだ。
あまりのヴェルトの剣幕に、ミゼンはすんなり私を引き渡した。
「…テメェが書いた場所を調べた。ヘルトモルテ。英雄殺しの山だ。あそこは10年前から闇ギルドのアジトがある。そこに恩人だと?」
「…うん。恩人」
「テメェを奴隷にした恩人だとでも言うのか!?」
「そうじゃなくて…ごめんなさい」
言い訳をしようとして止めた。
ヴェルトの目が、今にも泣きそうだったから。
私が謝ると、ぎゅう、とヴェルトに抱きしめられた。
「…無事でよかった」
「…うん。心配かけてごめんなさい。待っててくれてありがとう。」
私はヴェルトの大切な人の1人になっていたようだ。
そうだよね、ごめんね。
3年近くヴェルトと一緒にいたもんね。
私はヴェルトを抱きしめ返し、疲れと安心からか、寝てしまった。




