私が復讐する話
さて、それから2年と少しが過ぎました。
知ってます、早いって話でしょ?
え、何、聞きたいの?
メンバーは増えることもなく、日々淡々と鍛錬、暗殺、鍛錬…を繰り返してましたけど。
割合としては暗殺3、鍛錬3、お勉強3で、残りの1は遊んでた。
…そうそう。私、あと一週間で10歳になるんです。
だけどね、その前にディグザムに復讐しに行こうと思うんだ。
…封印の解かれた私があいつに勝ってもしょうがないでしょ?
だから、ヴェルトに頼んで服従の首輪を外して貰うことにする。
「ヴェルト!ちょっと後で話がある」
「あぁ?…仕方ねぇな」
ヴェルトのお風呂順は最初で、私は最後なので、ヴェルトには待って貰うように頼んだ。
ヴェルトは面倒臭そうにしたが、聞いてくれた。
…あぁ、やっと会えるね、ディグザム。
あんたも私を待っていたでしょ?
お風呂から出て食堂に行けば、ヴェルトはこの間買ってきてあげた本を読んでいた。
私は布で濡れた髪を拭きながらヴェルトの前に座る。
「で?今度は何を企んでやがる。畑はもう作らないぞ」
「違うって。あ、でも今度花も栽培しようかなーって思ってはいるんだけど。…私の服従の首輪を外してほしいんだ」
「…テメェ付けてたのか?」
「うん。足首にね」
足首を見せるとヴェルトは眉をひそめ、持っている本を閉じた。
「…テメェだけ逃げるのか?」
「まさか。ちょっと用事があって。それが終わったらここに帰ってきて、みんなを助けるんだ」
「テメェだけで出来るわけねぇだろ。やめとけ」
「ヴェルトが付き合ってくれるから平気」
「はあ?俺を巻き込むな」
「…今更?ヴェルト、その台詞は2年前に言わないと。まぁ、別に私のことを助けてくれなくてもいいから。だから、この首輪を外して」
「…何するつもりだ」
「…正直に話したら外してくれる?」
「…内容による」
「じゃあダメだ。ヴェルトは絶対外してくれない」
「本当に何するつもりだ!」
「…人に会いに行くの。その人に会って、お礼を言わないと」
そう、お礼。
私はあの時はじめて、この世界が現実だと、地球じゃないんだと思い知らされたのだ。
「…本当だな?」
「うん。だからお願い」
ヴェルトは溜め息を吐いて、椅子を立ち私の足元に跪いた。
服従の首輪をスッと撫で、一言こう言った。
「…解けろ」
パキン、と音が鳴り、解放感が体中を駆け巡った。
ヴェルトの手元には二つに割れた金属製の輪が残されていた。
「ありがとう。もう1つお願いしていい?」
「…はぁ。どこに送るんだ?」
「ありがとう!さすがヴェルト!よく分かってるね!」
「…ちょっと待ってろ」
ヴェルトは食堂を出て行き、少しして戻ってきた。
ヴェルトの手には2枚の紙が握られていた。
「行きたい場所をここに書け。帰りは俺の名前を書け。…ごまかしが効くのは二日。ミゼンなら明日の朝に気付くだろう。だから、さっさと帰ってこい」
「うん。ありがとう」
私は紙にとある場所の名前を書いた。
ヴェルトはそれを見て訝しげな顔をした。
私は笑ってヴェルトに言った。
「行ってきます」
私は気付くと森にいた。
少し遠くに灯りが見える。
私は笑みを浮かべる。
そう、ここだ。
ディグザムが住処にしている洞窟。
彼らは仕事が成功でもしたのだろうか、炎を焚いて、わいわいと騒いでいる。
酒の匂いがしているが、奥にいるディグザムは酔っている様子はない。
私は身を隠していた木の裏から出て、ゆっくりとその集団に近づいた。
復讐なんてつまらない、なんて、誰が言ったんだろう。
その人は復讐するなんて考えたことすらないに違いない。
ねぇ、ディグザム?
宴を、始めよう?




