私が帰す話 パート⑧
客人扱いになるらしい私たちは兵舎の横の族長館に部屋を与えられた。
「…族長館と言うが族長が住んでいるわけではない。獣人の中から国民に代表者として選ばれた者が会議を行う場所として主に使われる。あとは滅多にないが外交としての場としてだな」
「なるほど…国会みたいなもんか」
「コッカイ?」
「こちらの話です」
ローランドの案内で私は部屋に通された。
狭くはない。ただ、客人という扱いではないような気がする。
埃臭い部屋の窓を開け換気をし、ローランドにソファを勧めた。
「…悪いな。滅多に使わないためだろう」
「歓迎されてないのは分かってます」
「…すまない」
「大丈夫です。それより、ローランドさんに重要な話があるんですが…」
私の重要な話というのにローランドは反応した。
真剣な顔に、警戒と不安を滲ませている。
「なんだ」
「レィティアにご自分の正体を告げなくてもいいんですか?…ロランさん」
お忘れかと思うが、ロランとはレィティアの契約魔の一人である。
私の発言に、ローランドは盛大にため息をついてソファにもたれ掛かった。
あれ?予想してた反応と違うぞ?
こう、もっと警戒されて、殺すぞ?みたいな空気を想像してたのに!
「なんでため息吐くんですか」
「…いや。族長の対応にキレて暴れると言い出すんじゃないかとな」
「んー、実際スウさんの反応に思うところがないわけじゃないんですけど。それをローランドさんに言ったところで板挟みになっちゃうだけじゃないですか。後で勝手に私が何かしますから、ローランドさんは気にしなくていいんですよ」
「余計気になってきたぞ…」
「大丈夫ですって。それで、どうなんですか?」
「…何故知っているか聞いてもいいか」
「神様に教えて貰いました」
まぁローランドがロランだとは私が勝手に気づいたんだけどね!
神様という単語に、ローランドは訝しげな視線を向けてきた。
ローランドは神様に会っていないのだろうか。
「神?…あれか」
思い当たる節でもあったのか、ローランドは一人納得した。
「それで、言わないんですか?」
「…ギル一人でも、十分だと思うのだが」
「エ、ソピアもレィティアのことを知ってますよ?」
「アレがか?ギルのことを知ったら暴れそうだな…」
あー、多分もう知ってるんじゃないだろうか?
そういや、エレンのこと完全に忘れてたな。
明日辺り確認しておこう。
「…まぁ、私が口出しするようなことじゃないですか、これ以上は何も言いません。でも、レィティアは言ってあげたほうが喜ぶと思いますよ?」
私がそう言うと、ローランドは黙り混み、深く考え事を始めた。
翌々日、私は先にお暇することにした。
昨日はベッタリなギルを引き離しレィティアと女子会をした。
少しだけ獣人の女の子たちと仲良くなることができて良い日だった。
獣人の女の子…すばらしい…!
あの耳とか触らせてくれた時は萌え死ぬかと思った。
というか死んだ。
やはりケモミミは最高ですね。
エレンだが、魂はちゃんと回復しているようだった。
このまま行けば半年後には確実に修復は完了しているだろう。
レィティアにはその頃に孤児院へ来てくれるように頼んでおいた。
そして、スウだが、未だに人間嫌いを隠そうとしてくれない。
腹が立ったので、色々なものを見せておいた。
これで少しは何か得られるといいと思う。
人間の悪いところを知っているなら、良いところも知っておくべきだ。
その上で嫌いだというのならば後は人間がどう挽回できるかだと思う。
後は、徹夜でレィティアの魔具の改良をした。
魔力以外にも神通力を込めまくっておいたので、レィティアが危機的状況に陥った場合ちゃんと発動してくれる。
…あー、ギル、押し倒す前にはちゃんとレィティアに魔具を外して貰ってね…
レィティアや仲良くなった女の子たちと名残惜しく別れをして、ローランドとギルには「じゃ!」と言ってさっさと別れた。
おっと、その前にこの首輪外してください。
獣人の国を出て、森を抜け、セェルリーザの国境近くに来たとき、私は振り返った。
そこには、スウがいた。
色々と見せたのは私だと知らないはずなのだが、何か用だろうか?
「…お嬢さん。君は獣化という現象を知っているかな?」
「…唐突ですね。もちろん知ってますよ」
獣化とは、獣人が異常な力を発揮する時の呼び名だ。
原因は急激な感情の昂りと身体的危機。
2つのことが同時に起こった時に正気を忘れ異常な力を発揮する。
「始まりは獣人が産まれた頃だ。僕らの先祖が人間から派生し、獣人の国を作った。その時は獣人と人間はまだ交流があった。迫害してくる者たちも居たが大多数は親切だった。…だが、」
「迫害してくる者によって獣人は獣化してしまった」
私が言葉を引き継ぐと、スウは嘲笑した。
私をではない。自分を笑っている。
「…やはり、君が僕に見せたのか」
「さて、何のことですか?」
「わざとらしい。まぁいいさ。彼女は精一杯もてなそう」
「はい。そうしてくれると嬉しいです」
獣化してしまった獣人は人間たちから恐れられた。
そこで、事態を深刻に考えたレィティアが聖域から出て、獣人たちと人間の間に断絶の森を作り、国交を絶つように勧めた。
勿論、永久的にそうするように考えたわけではない。
ある程度時間が経てば…と思っていた矢先、人間たちが戦争を始め、そのための戦力として無理矢理に獣人を引っ張って来ようとした。
反発した獣人と人間との溝は深くなり、そのまま現在に至っているわけだ。
個人的には人間最低と思ってるが、だからと言って女性の尊厳を踏みにじるような行為だけは許せない。
「…あぁ、あの男たちだがお嬢さんが納得のいく処分が分からなくてな。とりあえず女性を襲ったことは広めておいた。あの様子だと彼らは一生結婚出来ないかもしれないな」
それは想像しただけで楽しそうだ。
とはいえ、流石に可哀想か?
「…僕はやはり人間が嫌いだ」
「…そうですか」
「だが、視野が狭いのも嫌だ。だから、君がまた来ることを期待している」
スウはそれだけ言って、さっさと森の中へと入っていった。
「それじゃあ、また」
私がそう言うと、スウは軽く手を振った。
…うん。いつか、人間と獣人が仲良くなれるといいと思う。
そのために、私が出来ることをするだけだ。
あの後、転移をして魔族の国の近くまで行き、徒歩で入国した。
ギルが居ないのに入国が許可され、歩いて城へ行った。
伝達があったのか、城門にはナーダとリタがいて出迎えてくれた。
「しすたー!おかえりなさい!」
「ただいまー」
「ギルは?」
「獣人の国に何か用があるらしいですよ?」
「ふぅん?まぁいいわ。キリヤはこれからどうするの?」
「んー…一度孤児院へ帰ります。リタはどうする?」
「リタも帰りたい!」
「了解。ナーダさんも来ますか?」
「…そうね。許可貰ってくるわ」
そうしてナーダが許可を貰うために1日奔走し、翌日やっと孤児院への帰路に着くことが出来た。
しばらくヴェルトに会ってないからなぁ
…寂しがってくれてない、なんてことないよね?
…私一人だけ寂しかったとか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。




