私が死ぬ話、あるいは宇宙
残酷表現ありです。
私は宇宙にいた。
そう、宇宙。
私の周りは真っ暗なのに、遠くで星がキラキラと光っていて、明らかに地球上じゃない。
…やっべー、宇宙服着てねーよ。
え?お前誰だよって?
あぁ、申し遅れました。
私は星野 桐耶。
こんな名前だけど、一応女の子だよ、うん。
…まぁ、女の子なんて年でもないけど。
そんなことより、私の話を聞いて欲しい。
…私、どうしてこんな所にいるんだろうか。
私は死んだはずなのに。
確か、唸るような暑い夏の日だった。
その日の私は寝坊して大学に遅刻しそうだった。
私の大学は長い一本の坂が校門の前に伸びていて、両脇には桜が植えられている。
そんな道を死ぬ気で駆け上がっていた。
余談…でもないけど、大学は住宅街にあって、けっこう人通りのある場所に位置していた。
朝だけど、まぁ学生の通学やサラリーマンやOLの通勤時間とは大分異なる時間帯で、だけども人通りは多い、そんな時間だった。
…ここで思うのは寝坊なんてしなければ、という後悔かな。
…でも!言い訳だけはさせてくれ!
あのふざけた(カッパみたいなハゲを真っ黒なカツラで隠す)髪型の教授に、原稿用紙何十枚にもなるレポートを書いて次の日に持って来いと言われ、でなければお前は落第だ!と言われたんだ!
…しかも、どうやらそれは彼奴の次の学会で発表するための資料集めだったらしい。
なんてこった!それは盗作というのでは?
本当、冗談は髪型だけにしてほしい。
で、話を戻すと、走る私の耳に甲高い悲鳴が聞こえた。
当然、走りながら声のしたほうを確認する。
あれは、やばい。
私は直感的にそう悟り、体を方向転換させた。
甲高い悲鳴。
あれは人が刺された場面を見てしまった八百屋のおばさんのものだった。
人の輪…いや、それはもう崩壊していた。
人の輪があった場所に、男がいた。
中肉中背で、歳は三十代のこれといった特徴のない男だ。
しかし、男が握る特徴的なナイフ…あれは包丁か?は血に染まっていた。
男の周りには数人の男女が倒れていて、血だまりを作っていることから、多分命はないものと、思われた。
私は逃げる人に押されながら走る。
そして私は、男の前に呆然と立つ少女を抱き寄せ、振り下ろされる包丁を背中に受けた。