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夢見るように、
「ねえ、どうしておなまえ、おしえてくれないの?」
それは遠い記憶。
彼方に霞んだ遠い遠い、記憶。
「あ、わかった。 ひょっとして、おなまえがないんでしょう?」
記憶の中の私は幼く、あまり物事を理解していなかった。
道理も、理屈も、常識も、幼い私には不要だった。
「そっかぁ。 それじゃあ、わたしがつけていいかな?」
世界も、社会も、価値基準も、幼い私には無用だった。
「うんと、ええと、えっと、あれ? あんまり思いつかないや」
必要なものは目の前にあって。
「うーんと、ええと、そうだ!」
そして、ただ目の前にあるものが全てだった。
「じゃあ、竜くんって、よんでもいいかな?」
「そのまんま過ぎるだろう、馬鹿……まあ、好きに呼ぶといい」
そして私は、眼前の彼に、きっと初めての恋をしたのだ。