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才能はありませんかそうですか。

最初、クリスティのテンションがおかしくなります。

最初だけ。

 


(クリスティ視点)




 実験をしてみた。


 何をって?


 決まってる。


「あの神器を使って、私の体の欠陥を直しなさい」

「…後悔するぜ、お嬢?」


 という問答の後、私はイェーガーの話しを話半分に聞き、私の体の欠陥は普通の人間と同じ、健常な状態に成った。


 ということは…という事は!!


「炎よ、炎弾となりて敵を焼き尽くせ、フレアドライブ!」


 ぶすん、というなんとも不細工な音が手の平から起きた。


 え、なに、どういうこと?


「ブフォォッ!!

 お、お嬢、せっかく直したのにその様って何だギャグかよっ!?

 あーていうか分かった、お嬢の魔法適正は『強化』だな!!

 しかも自分しか強化できねえっていうボッチにとっちゃ必須な才だぜ!!

 ヒャハハハハ!!」


 以前からよく使っていた宿屋、『銀の羊亭』にある庭先で、イェーガーの笑い声が響く。


「え、詠唱ちゃんと出来たのに、出てきたのがブスくれた煙とか、攻撃系統の魔法には才能がねえってことの証明じゃねえか!!

 強化一辺倒な魔法習得しといてよかったなお嬢!!」


 始めて10分ほどでこの件は永遠に封印することになった。


 そう、そうよね、いまさら別の魔法に手を出さなくても、私には身体強化魔法があるのだから、別に羨ましいだなんて自分を卑下したつもりなんてなく、私の障害が直れば他の攻撃、または防御魔法が使えて戦術の幅が広がるという実に合理的な考えがあったのだから、そんな一度でいいから火の玉飛ばしたいとか一遍も考えていないのよ!!


「…一応聞いておくわイェーガー、私の体が健常になったことで、これまでの身体強化魔法に何らかの弊害が起きるようなことがおきると思う?」


 そう何度もあの神器の力に頼る気は起きないけど、こんな事をして要である身体強化魔法に弊害が起きても困るのよ。


「バッチリ弊害は起きるんじゃね?

 なぜなら、余分な魔力をそっちに使う余地が出来ちまうんだぜ?

 思考の邪魔になるし、何より小粒ほどの価値もない能力伸ばしてどうするんだよお嬢?」


 ばっさりと斬られた、否、この場合ばっさり斬られに行ったというか。


 …仕方ない、諦めて前の状態に戻すことにしよう。


「1日7回しか死ねえんだからよぉ、もう少し後先考えようぜお嬢?」

「あら、ならあと5回面白おかしく使ってもいいのかしら?」

「オレ様の魔力値が一時的にS+になっちまうじゃねえか!!」

「…私より高いんだから平気でしょう?」


 EXからS+でも十分に強力なのをこの英霊は分かっているのだろうかと聞くと、どうやら自分の魔力値EXに対して誇りがあるらしく、よほどの状況じゃない限りステータス下降させたくないらしい。


 というより、神器を7回も発動させておいてその程度で済んでるのがまずおかしいと思うんだけど?


 青白い光が私の体を包んでいき、以前と同じ『魔力放出不全症』の状態へとなった。


 …いつもと同じ、少しだけ閉塞感のある身体のようね。


「お嬢様、何かすごい光があったんですけど、大丈夫ですか!?」


 やってきたのは、私と同じくらいの背丈のある14歳の少年。


 レーヴェという、リンデンバーグ家に使えていた執事見習いの少年である。


 辛うじて貴族に見られる茶色と間違えてしまいそうな金髪に碧眼、おっとり気味の柔和な顔をしたこの少年は、現在私の執事に当たる。


 ディラエス子爵家の四男だったが、すでに時期当主が本決まりで変動が無いため、幼い頃にリンデンバーグ家に執事見習いとして遣わされていた。


 …まぁ、幼馴染といってもいいわね、正直執事としてはあまり優秀とはいえないけど、戦闘能力は目を見張るものがあるし。


「…レーヴェ、あなた執事見習いとはいえ私付きなのだから、もう少し早起きしなさい、恥ずかしいわよ」

「も、も、も、申し訳ありません、お嬢様!

 柔らかいベットだったので、ついぐっすりと…」


 執事として明らかに失格なセリフを頭をかきながら呟くレーヴェに、私は呆れの言葉を向ける。


「ダメ執事」

「これを理由にクビにしたらいいんじゃねえのお嬢?」


 イェーガーの言葉に反応して、レーヴェが慌ててやめて下さいという。


「そ、そんな!

 お、お願いしますお嬢様、僕、お嬢様に捨てられたら、い、生きていけません!」


 …このおどおどした態度が無ければ、少しはましなのだろうけど…まぁ、お父様に言われてやってきたときは捨てる理由がすぐに見つかったのだけれど、


「度が過ぎれば捨てるわ、気をつけなさい」

「き、気をつけます!」


 背筋を伸ばすレーヴェに、私はもう視線を向けてはいない。


 今後の予定をイェーガーと話さないといけないから。


「で、お嬢、今日は学院どうするんだよ、自主休校(サボる)か?

 オレ様としちゃあ冒険者ギルドあたりで身分証作りたいんだが?」


 召喚獣というのはその構成がすべて魔力なため、普段は力を抑えて小さくなっている。


 火龍であるライルも、普段は魔力の節約をするために、サラマンダーに羽を生やした姿をとっていたし、魔導師からすれば必須の知識といえたがこの目の前の英霊に関しては”魔力値EX”という破格の力があるため、魔力が枯渇することとは縁がないようであった。


 実際、私が本来供給するはずの魔力をイェーガーは断っているし、私にとっても都合がいいから何も言わないけど、実はかなりすごいことなのよね。


「そうね、昨日の今日だし、面倒ごとが待ち構えている気しかないわね。

 レーヴェ、あなた学院へ行って私が休む事を高等部魔導騎士課事務方に伝えてきなさい。

『体調不良で欠席する』と」


 レーヴェにそういうと、執事としての本文を全うしようとしたのか、レーヴェが私に苦言を漏らした。


「よ、よろしいのですか?

 お嬢様の座学の成績は知っていますが、いらぬ隙を作ることになってしまいませんでしょうか?」


 主のためならば苦言も辞さないのはいいのだけど、レーヴェの場合的がずれているのよね。


「この程度ならいつもしているから平気よ、普段から自主休校はしているから」

「オレ様のマスターは不良少女だったのか…」


 と、芝居がかって嘆く仕草をしたイェーガーだが、傍目から見てもバレバレな演技で、正直うっとうしかったので無視したかったのだが、理由を説明しておく。


「学費を稼ぐのにはかなりの依頼数をこなす必要になるの。

 なおかつ学費を稼ぐためには長期間の依頼を受ける場合があるのよ。

 まぁ、移動中に勉強はしているし、座学はもう必要ないといっていいから、別に講義に出席する必要ないのだけれどね」

「わ、分かりました、僕はこれから学院へ行ってきて、お嬢様が休む事を事務方へ伝えてきます。

 そのあとは僕もギルドの方へ合流しても構いませんか?」


 …子犬のような目で見ないでくれないかしら、正直、対処に困るのだけれど。


「あなたは下宿先の主人―――アンおばさんにお土産を見繕ってあげて。

 市場にある質のよい肉を金貨1枚分送れば、十分だわ」


 レーヴェのスキルなら、どんなに重くても大抵の物はもてるのだし、特に心配はしていない。


 こうして一旦別れた私たちは、冒険者ギルドへ向かうのだった。


 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■


「お嬢、ギルドの歴史ってどのくらいあるんだ?」


 知識の収集はスキルにも現れるほどに優秀なせいか、イェーガーが冒険者ギルドに入ってからクリスティに尋ねていた。


 冒険者とすれ違うたびに『あれが噂の…』『銀閃か…』『隣の赤いのは誰だ?』『銀様ハァハァ』『お姉さま素敵、けど隣の男は…まさか!?』等と小声で話していたが、クリスティは興味も無ければ、自分に向けられた言葉と全く気づかずに歩を進めていた。


「そうね、最初は傭兵ギルドが主体だった組織がいつの間にか分離して今の冒険者ギルドが出来たって聞くから…最低でも400年くらいはあるんじゃない?」


 冒険者ギルドの創始者であるユバマ・アトーが自由の神フリーディアを後見とした組織を作ったのが、大体その時期らしいとクリスティは付け加えた。


 当時傭兵ギルドでも比肩する実力者が皆無だったユバマが突然傭兵ギルドを脱退し、どこで神と契約して新たな組織を作ったのかと、歴史家たちを悩ましていた。


 傭兵ギルドが対人を基本とした組織ならば、冒険者というのは民間の悩みを聞くまさに『何でも屋』であった。


 その手広さに当初対処出来るのかという意見もあったが、現在でも存続しているあたり、対処能力にはある程度定評はあるようだ。


 本部はセイヴァール帝国にあるが、帝国にその組織力を危険視されて行動を制限されていて、少しずつだがセイヴァールでは冒険者が減ってきている。


 その所為か、本部の機能をミタシャ聖国に移し始めていている話が出ていた。


「なるほど、道理で使っている建物に趣があるわけか」


 クリスティの話しを本当に聞いていたのか、イェーガーが別の話に移すのにクリスティは特に何も言わず―――せっかく説明したのに聞きなさいよといった顔を一瞬したが―――その言葉に同意した。


「率直に古いといって構わないわよ、実際古いんだし」


 何度も改修されたという頑丈な建物で、篭城も可能なほどと以前受付嬢から聞いていたクリスティは、呆れて何もいわなかった。


「んじゃあボロくさいな」

「それは暴言や悪口の部類だわ、せめて歴史の香りのする建物、位にしなさい」


 歯に衣着せない物言いのイェーガーに、クリスティが若干修正を加えた。


 とはいえ、どちらも言っている事は同じであるが。


「どっちも言いすぎよクリスティ、いくら中堅のアンタでも、ギルドに対する暴言は警告対象になるの、忘れたの?」


 と受付側からクリスティをたしなめる声がかけられた。


 ギルドの受付嬢でもあり、クリスティの数少ない友人であるジョナである。


 ギルドに勤めて8年目で、昇進の話しも出てきているという、ギルド側の有望株である。


「あらジョナ、耳がいいのね」


 注意を受けたにも拘らず素知らぬ顔でいるクリスティに、ジョナが諦めて別の話題を投げた。


 小麦色の肌をした大人の色香漂う美女は、普段から気にかけている友人でもあるクリスティの事件を知っていたからだ。


「お蔭様でね、それよりクリスティ、聞いたわよ?

 とうとう召喚獣を召喚したみたいね。

 ねえ、どんなのよ、アンタみたいな変わった魔導師の召喚した存在って、ギルドの上層部でも話が持ちきりよ?」


 ある程度事情を知っていたのか、ジョナがギルド経由でやってきた情報をクリスティに聞くと、クリスティはイェーガーを指差した。


「これよ」

「これとはひでえなお嬢、こんな美青年捕まえといて」


 茶化すイェーガーだが、クリスティは呆れながらもその応酬に慣れ始めていた。


「美青年の前に『至極残念な』を加えておきなさい」

「美青年は否定しねえんだな?」

「…あら、違ったの?」


 首をかしげながらクリスティはイェーガーを見つめた。


 クリスティの美的感覚は貴族のように美意識が高いわけではないが、一般の、市井の民たちと同じくらいにはある方だと自覚していた。


 その感覚で行くのならば、イェーガーの顔の偏差値はきわめて高く、否定する要素など欠片も無かったと思えたからである。


 代わりに”残念”な要素がある以上、差し引きゼロの状態ではあるが。


「…くっ、なんて破壊力…うちのお嬢は天然か」


 よろけるイェーガーにクリスティは首をかしげながら、つまらない演技はやめなさいと言うだけであった。


「え…何よクリスティ、このお兄さん、何ナノ?」


 ジョナはまだ把握できていないのか、思わずイェーガーを指差していた。


「何って、だから私の召喚英霊、『イェーガー』よ?」


 クリスティは説明不足な感があると気づいたのか、今度こそジョナに分かりやすくイェーガーの紹介をした。


「え、えいれいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 ジョナもようやく気づいたのか、クリスティの込み入った事情を理解したようである。


「……そうなの、常日頃から私の護衛としておこうと思っているから、身分証を作っておこうかと思ったのよ。

 ついでに来年の魔導騎士試験の功績作りのために、高位の冒険者にしておこうかと思ってね。

 イェーガーならすぐに私を超えて金ランク辺りに行けるだろうから、心配はしなくてもいいわよ?」

「そうじゃないわよ!?

 え、なに、英霊ですって?

 厄介ごとじゃないの、そんなことにあたしを巻き込むだなんて!

 だだだ、ダメよ、この問題は上の者に任せないと!」


 危機回避能力が高いのがジョナの良いところでもあり欠点でもあると常日頃からクリスティは思っていたが、この話題をすればどういう反応をするのか予想していた通りの反応をして、若干傷つくのであった。


 ギルドマスターであるボルネオが3階の執務室から降りてきたのは、ちょうどその時であった。


 ギルドマスターのボルネオは日々送られてくる各地からの情報を整理、推測し、今後上げられる依頼の難易度がクラスに応じているのかを精査する仕事を終えたばかりであった。


 目元にクマを作っているボルネオは、胡乱下な目で受付を見やった。


 寝不足なのか、何度も瞬きをしているのは日常茶飯事のようで、特に気にする者はいない。


「受付がなにやら血相を変えて部屋に来たんだが、要領がつかめん。

 だれぞ事情を知っておるの…は?」


 イェーガーに気づいたボルネオは、じっとイェーガーを凝視している。


「お、なにこのおっさん、オレ様のステータスが視えるのか?」

「あら、イェーガーの規格外っぷりがボルネオさんには分かるっていう事?」

「く、クリスティ君!?

 そちらにいるのは、い、いったいいいいいっ!?」


 ステータスやスキルを知ったからであろう、ボルネオは周りの視線に気づかずに、クリスティに詰め寄った。


「冷静沈着で厳格なイメージのあったギルドマスターがここまで…やっぱり、私のイェーガーはすごいわね」

「遠まわしに自分のことも自画自賛してねえかお嬢?」

「そうね、あなたを引き当てた自分を褒め称えたいわ。

 ちなみにだけど、昨日のテンションは過去最高よ?」

「そりゃまた低いなオイ!!」


 ひゃはは、と笑うイェーガーにボルネオが話を進めろと駄々を捏ねる様に地団太を踏んでいた。


 よほどの一大事なのはイェーガーとクリスティを知る者からすれば分かっていたが、ボルネオの仕草をみてクリスティは内心面白いと思ってしまっていた。


「私をほうっておかんでくれんか!

 それより、い、いったいこれはどういう…!?」

「そうなのよギルドマスター、コレ私の英霊、私マスター。

 お分かり?」


 至極簡潔にボルネオにそう告げたクリスティは、滅多に見せない笑顔をボルネオに向けた。


「な、なぁ!?」

「お嬢、コレ扱いは酷くね?」

「あら、もっと酷くしてもいいのだけど?」

「そろそろギルド登録してえなオレ様!!」

「ジョナ、ジョナ、イェーガーの登録をお願い。

 私はイェーガーの昇格試験の申請をしてくるから」

「離れていたのに何であたしを呼ぶのよオオおおおおおお!?」


 わざわざクリスティから離れていたのにも拘らず、ジョナは自分が受けていた冒険者をほうってクリスティの元へと戻ってきた。


 これで仕事を優先してさっきまで受けていた仕事をしていればまだ事情は変わったかもしれないが、いざ仲の良い友人であるクリスティの願いは、ジョナからすれば若干声を荒げる程度で済むものなのであった。


 放っておかれた冒険者は顔を引きつらせながらも引き継いだ受付嬢に任せて依頼料を支払われると、さっさとギルドから出て行く。


「あら、あなたと私の仲じゃない?」

「そりゃアンタとは5年の付き合いだし、一緒に食事したり、服探したりとよくつるんでいるど、それとコレとは話は別でしょう!?」

「ん、お嬢、あの嬢ちゃんと友達か?」


 話の内容で気づいたのか、イェーガーがクリスティに尋ねた。


「人生でも数少ない友人ね、ちなみにジョナは私より4歳上の18歳よ。

 嫁き遅れね」

「年齢はどうでもいいでしょう!?」


 傷つきやすいのか、声を荒げるジョナにクリスティの顔は涼しいもので、その光景はいつものやり取りなのであった。


「それより登録しねえの?」

「そうね、それじゃああとは頼むわねジョナ?」

「さっさと行っちまいな!

 …それで、イェーガー?

 英霊にこの『真実照らす水晶(キュアスフィア)』が使えるか分からないんだけど、とりあえずこれに手を触れて頂戴」

「へぇ、面白い魔道具だな。

 対象の能力を具現化させるなんて…へぇ、ずいぶんと骨董品だな」


 魔道具の性能に気づいたのか、イェーガーが目を見張っていた。

 かなりの魔力と複雑な魔方陣で編みこまれた、一種の芸術品を見たイェーガーは、若干だが高揚していたのである。


「…この水晶はこのギルドの後見神であるフリーディア様がギルドの創始者であるユバマ・アトーという方に授けられた『伝説級』の魔道具よ。

 とはいっても、今じゃ技術が解明されてどれがオリジナルか分からない位増えてるから、高いけど1つくらい減ってもまあいいんじゃない、って感じのお品よ。

 ちなみにこれ壊したり紛失したら白金貨10枚の罰金だから、それに加えてギルドの永久除名とか、その他もろもろ罪状が重なるから、危ないことはしないでよ?」

「お、何、やさしいじゃん、もしかしてホレた?」


 冗談めいた口調で軽口を叩くイェーガーに、ジョナがぴしゃりという。


「バカ言わないで、クリスティの迷惑にならない様に釘を刺して置こうと思っただけ。

 あの子、ただでさえ面倒なことに巻き込まれやすいんだから、これ以上厄介事が増えたら大変じゃない」


 友人というよりは姉といった心境が強いのか、ジョナはイェーガーを軽く睨んだ。


「へぇ、愛されてるじゃん。

 心配しなくても、お嬢の友人に手を出すほど、節操がないわけじゃあないからな」


 イェーガーがクリスティとの関係を聞くと、ジョナは当時のことを思い出して苦笑しながら答えた。


「最初こそヒドイ出会いだったけど、今じゃ少しはましな仲になったほうね。

 あの子、ギルドに就職したての私に無理難題吹っかけてきて大変だったんだか―――」


 きぃん、という音が鳴り響く。


 ステータスカードが出来上がった音であり、現在申請したのはイェーガーだけである。


 台座に置かれていたカードを手に取ると、カードの内容をじっと見つめた。


「―――お、ステータスカードできたっぽいか?

 ど~れどれ…おお、ちゃんと写されてるじゃねえか」


 ステータスカードの内容が自分の記憶と同じということにうんうんと満足げに頷いた。


「…私は見ないわよ、面倒ごとに巻き込まれたくないから」

「どうよジョナちゃん、このステータス。

 最強なオレ様に相応しいステータスじゃね?」


 ジョナが顔をそむけてなおかつ離れていたのにも拘らず、態々イェーガーはジョナに見せ付けていた。


「だからなんであたしに見せるのよおおおおお!?」


 ジョナの叫びは空しくギルド内に響く。


「まさに素敵無敵不敵完璧なオレ様に相応しいステータス!」

「自己賛美もいいけど程々にしておきなさいイェーガー。

 これから昇格試験なのだから。

 とりあえず【金Ⅰ】まで申請しておいたから、1試合1分で済ませてきなさい。

 ああそうそう、分かっていると思うけど、負けたら承知しないわよ?」


 有無を言わせず命じたクリスティは、ちょうど休憩時間になったジョナを慰めながら―――原因が自分なのだが―――イェーガーが帰ってくるまで隣接している食堂で軽食をとっていた。


 1時間もしないうちにイェーガーが帰ってくると、てには黄金に煌く板を持っていて、そこには『Ⅰ』と彫られていた。


 それを見た冒険者たちは、目を剥いて驚いていたが、イェーガーのステータスを知っている3人からすれば、それくらい当然でしょという共通の見解に至った。


 ギルド初の、試験だけで最高位【金Ⅰ】に至った冒険者の誕生である。


 満足げに頷いているクリスティの背後から、聞き馴染んだ情けない声が聞こえてきた。


「お、お嬢様、クリスティお嬢さまはいらっしゃいますかー!?」

「あら、うちのダメ執事じゃない、どうしたのレーヴェ?」


 驚いた素振りもせずに振り返ったクリスティは、何かあったのかとたずねた。


「だ、ダメ執事じゃないですよぉ!!

 そ、そうじゃなくって!

 さ、先ほど、宿屋に王宮からの使者の方がいらっしゃって、明日登城するよう勅命が下りました!!」

「…あら、今すぐという訳じゃないのね、どうせなら今からでも構わなかったのに。

 ちょうど実績もできたことだしね?」

「いやいやお嬢、こういうのって実績っていわなくね?」


 思わず突っ込むイェーガーだが、半分以上ニヤけていて体をなしていない。


「私は十分な実績だと思うけど…そうね、今度【金Ⅰ】の依頼でも探して受けに行きましょうか。

 確か何年もほったらかしの竜種討伐とか、色々あったはずだから。

 10件も最速達成すれば、誰も文句なんていわないでしょう?

 実績と名声がもれなく付いてきて、なおかつ竜種の素材でいい武器や防具が手に入るだなんて。

 ああ、あとお金も手に入るしウハウハね」


 金に関しては貯蓄も気になり始めていた所為か、おかげで当分金銭について困ることはなさそうだと安堵するクリスティなのであった。


 イェーガーはクリスティが幼いころから金銭面で何かトラブルがあったのだと思ったのか、特に否定せずに頷いていた。


「充分だなそりゃ」

「「充分すぎるわ!!」」


 ジョナとボルネオが即座に2人に突っ込みを入れる。


 次いでレーヴェもあわあわとしながらクリスティに忠言していた。


「お、お嬢様、あまり危ないことはしないでくださいっ!!」


 が、ダメ執事の言葉を完全に無視して、クリスティの気分は高揚したままである。


「もっと私を楽しませなさいイェーガー。

 これまでの不幸、理不尽、不条理、ありとあらゆる厄をチャラに、いいえ、私の人生をバラ色に染めるため、粉骨砕身仕えなさい」


 普段ならここまで高慢な言葉は使わなかったが、最近の幸運続きにどこかタガが外れているようであった。


「我侭で傲慢なマスターだねまったく。

 だがまあ、悪くない、悪くない!

 実にいい!!

 この戦場を駆ける悪鬼にそれだけの期待をされたんだ、バラ色なんていわず大輪乱れるバラ園を作りあげちゃるぜい!!」


 ぎゃははと笑う悪鬼(イェーガー)に、クリスティは若干の不安を抱えながらもそれを飲み込んでその頼もしい言葉にただ頷くのであった。


 クリスティとイェーガーの後ろにはジョナとボルネオ、それにレーヴェが心配そうに2人を見守るのであった。




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