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出て行きたいけどすんなりとはいかない訳で…。

…あら、うっかり予約投稿忘れてる!?

…早めの投稿となりましたが、今度の日曜日もきちんと投稿するので、ご心配なく読者の皆様。

 



 リンデンバーグ侯爵家の領地は、バルトリム王国北西に位置して、主に北は塩や魚介を獲り、南は酒を生産してと、他の領地と比べかなり裕福な領地といえよう。


 加えて、王都にあるヌル王国領が近くにあるということもあり、3日もあれば往復も可能なほどである。


 そのため、2大公爵家でもあるラフティル公爵家やヴィマーニ公爵家に一歩及ばないものの、その権勢は他の貴族とは別格とされていた。


 そして王都にある別邸には、その権勢振りを表しているかのような、立派な邸宅があった。


 リンデンバーグ家の人間にも拘らず、自由に扉を開ける権利すらないクリスティは、屋敷のメイドが来るまで扉の前でイェーガーと共に立たされていた。


「へぇ、お嬢の家って中々に大きいな。

 オレ様の家も結構大きかったが、ここほどじゃあなかったねぇ」


 と聞きもしないことをのたまっているのは、クリスティの召喚した頭のおかしい英霊、イェーガーである。


「本当にね、それでもって、場違いにもこんな家に生まれてきた私は十数年にも亘って七面倒臭い扱いを受けてきたというわけよ」

「不幸ってはいわねえんだな?」

「私は不幸というよりはせいぜいが”不自由”、”面倒”といったところね。

 私より不幸な人間はいくらでもいるわ。

 生まれつき体の不自由な者や、明日食べるものに困る者、家族を奴隷商人に売られた者と言うわけじゃないもの。

 酷い言い方だけど、私より『下』はいくらでもいるから、私は別段酷いと思わないわけ、分かった?」


 クリスティは本心から思っている言葉をイェーガーに告白する。


 イェーガーはクリスティの告白に、くつくつと笑って面白いものを見るような―――まるで新しいおもちゃを見つけたような、子供じみた目をしていた。


「いいねぇ、お嬢はいい感じに割り切れて。

 その口調だと、ある程度の修羅場は通ったことはあるって感じか?」

「ある程度の不条理は経験しているんじゃないの?

 けど、そんなことにイチイチ気にしていられないわ。

 私の目標は高いもの、その為ならどんな事も厭わないわよ。

 ただでさえ、私には他の連中より劣っているんだもの、手段なんて選んでいられないんだから」


 大事なのは結果、過程なんて結果を手繰り寄せるまでの道具でしかない。


 ―――外道非道卑劣悪魔鬼畜、なんと言われようが私は、私の願いを実現させる。


「…そういえばイェーガー、あなた、どうして私の召喚に応じたの?

 あなたほどの強さを持つ英霊なら、私より優秀な魔導師から召喚要請が入っていたはずでしょ?」


 異世界という存在ははるか昔から認識されてきていて、それぞれの世界に自分たちと似たような人種―――すなわち魔道に関わるものたち―――がいることは推測されていた。


 それならば、行き着く先には遅かれ早かれ、似た技術を確立させようとしたはず。


 召喚魔法もその1つであり、やはり優秀な術者には優秀な存在が付くというのは、ある意味必然ともいえたのである。


 今更な事を聞くクリスティだったが、イェーガーは面白くなさそうに肩をすくめた。


「呼ぶ理由がどれもつまらなかったし?

 英霊になった直後にお嬢に呼ばれたから、正直マスターとの距離感って言うのがいまいちわかんねーんだわ。

 オレ様の願いとか言うのは個人的な問題だから、お嬢の夢というか願望?

 それに付き合うのに否やとはいわねえから、心配しねーでいいぜ?」


 イェーガーとの契約などほとんどあって無きが如しのこの状況であった。


 しかし、基本マスターであるクリスティの命令には聞くとのこと。


 性格はかなり破綻していても意外とまともな面もあったようで、少しだけ安心したクリスティであった。


 ようやくメイドがやってきたのはクリスティたちが待たされて30分ほど経ったころで、いつもなら待たされて10分程度だったいつもと比べて長いことに気づいていたクリスティは、よからぬ事が起きるのではないかと予感していた。


「…イェーガー、あなた大層なスキルがあるんだから、マスターである私を助けなさいよ?」

「…お嬢、前にも言ったが、オレ様の基本は殺し専門だぜ?」


 と憂鬱な答えが返ってきて、いやな予感はさらに警鐘を鳴らしているように思えたクリスティは、重い足取りで歩を進めていくのだった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 リンデンバーグ侯爵家当主、ミハエル・ツヴァイ・リンデンバーグはクリスティより一足早く帰ってきていた長男、ダニエルよりクリスティの起こした『異常』を聞き、いったいどうしようかと考えあぐねていた。


 ミハエルには子供が4人いた。


 長男のダニエル、次男のケビン、次女のセルディア。


 この3人にいたっては、魔導の名門リンデンバーグ侯爵家の名に恥じぬ優秀さを誇っていた。


 加えて次男のケビンと次女のセルディアは容姿もよく、すでに良きパートナー―――しかもセルディアは公爵家の長男と恋仲なそうだ―――も見つかっており、格にしても十分で将来的に不安な点などなかった。


 しかし、長女であるクリスティには、生まれながらの欠陥があった。


『魔力放出不全症』である。


 ミハエルが知りえる中でも、英霊でもないのにも拘らず魔力ステータスがA++ランクという破格の能力を叩き出しておきながら、この生来の障害を患っていたせいでリンデンバーグ家に泥を塗った、一族の恥さらしであった。


 確かに、才能はあった。


 知力は継嗣ダニエルをはるかに上回り、武術においても武の名門テスタロッサ伯爵家に比肩すると太鼓判を押されるほどである。


 しかし、生まれが悪かったとしかいいようがなかった。


 リンデンバーグ家は魔導の大家。


 ゆえに、知の才、武の才があろうと、魔導という才がなければ、このリンデンバーグ家で生きてはいけないのである。


 だからこそ最低限にも劣る扱いをして、この国の成人とされる15歳になったとき、自発的に家を出て行くように仕向けていた。


 しかし、あと1年を切ったころに、件の英霊騒ぎである。


 繋ぎ止められるとはついぞ思っていないミハエルであるが、もしかすると利害の一致もあるかもしれないと、打算的な思惑もあり、それを怠る気などなかったからだ。


 ノックがされる、どうやら到着したようである。


 ダニエルはミハエルの横に控えていた。


 メイドが扉を開くと、冷たい表情をした小奇麗な少女が入室した。


 その背後に2歩遅れて入ってきたのが、史上最強といってもいい英霊『イェーガー』であることに、ミハエルは気づいた。


 詰まらなさそうな、というより面倒臭そうな顔をミハエルとダニエルを見るイェーガーは、交互に見てため息をついていた。


「マスターと比べると、なんとまあ貧相な」


 と開口一番、自らのマスターであるクリスティと比べたのか、価値無しと判断したようである。

 

 普段はお嬢と連呼するイェーガーだが、こうした場面ではマスターと呼ぶあたり、まだまともだと思うクリスティなのであった。


 その態度にダニエルが顔を真っ赤にしていたが、ミハエルの手前、手を後ろに組んで押さえ込んでいた。


 それすらも無様と思ったのか、イェーガーはダニエルを視界から除外し、かろうじてミハエルだけを視界に入れた。


「違うわよイェーガー、この2人は私に魔力は劣るものの、その実力は国内でもかなりのものよ」


 と一応のフォローをするクリスティだが、心底他人事のような雰囲気であった。


 血を分けた親子とはいえ、10年以上も酷い仕打ちをしてきた成果をまざまざと見せ付けられて、ミハエルは『こんなことなら』と思わずにいられなかったが、そんなことを思ってしまっても仕方がないと、内心でため息をつく。


「…クリスティ、お前を呼び出したのは他でもない、そこにいる英霊についてだ。

 どうやって、『魔力放出不全症』のお前が召喚を行えた?」


『魔力放出不全症』というのは現在も治療法が確立していない不治の病といえる。


 それを克服できたということは、歴史的にも大きな快挙であるといえよう。


 加えて、『魔力放出不全症』であるクリスティのこれまで受けた屈辱の数々も、この偉業により一躍宮廷魔導師入りも確実といえるほどの功績だ。


「お答えできません、私が魔導を始めてから10年余り、やっとのことで辿り着いた術式を、かろうじて身内であるあなたに、教えるわけがないでしょう?」


 冷ややかに答えるクリスティに、一切の感情は浮かんでいなかった。


「…そうか、しかし、このことはおそらくわし以外の者も聞いてくることだろう。

 答えたくないのなら、もっともらしい理由で答えるのだな。

 次に…もうすぐお前は15になる。

 本来であればお前が家を出て行く、と誰もが思ったろうが、今回の件で話が少し変わった」


「クリスティよ、これまでのことを水に流し、我がリンデンバーグ家のために力を貸してもらえないか?」


 と、ミハエルの言葉にダニエルが続くようにして口を開いた。


 そして、ダニエルの言葉に反応したのか、ピクリと肩を震わすクリスティ。


「力を…貸すですって?」


 ふざけないで、とクリスティはダニエルを睨み付けた。


「人を動く標的物といって魔法を放ってきたあなたが、力を貸せって?

 しかも、自分の都合の悪いことまで忘れろっていうの?

 すごいわねダニエル()、そこまで図々しいと、私も怒りを通り越して呆れるわ」


 何故かぎょっとしたのは父であるミハエル、どうやら彼は無関心すぎて息子や娘たちがクリスティに行っていた非道に気づいていなかったらしい。


 とはいえ、クリスティは別段そのことについて彼らに憎悪を抱いているわけではない。


 いや、すでに憎悪など通り越して、諦めていた。


 そも、不出来な娘が死んだとしても、厄介払いの手間が省けた程度にしか思わないだろうとすでに6歳にも満たないクリスティは気づいてしまっていたのである。


 親に甘えたい時期にも、義務感を前面に押し出したメイドがクリスティの目の前で愚痴を漏らしていたのを、今でも彼女は覚えていた。


『いいですかお嬢様、あなたはこの家でもっとも必要のない人間です。

 ですから、誰もあなたに関わりません、誰もあなたを助けません。

 なので、私の仕事の邪魔をしないでください』


 通常ならばそのメイドは即刻首どころか物理的に首を刎ね飛ばされることなるだろうが、メイドは5年ほど経ったころ自主的に屋敷を去っていった。


 ゆえに、彼女は幼いころから自覚していた。


 ”理不尽や不条理に打ち勝てる力を付けよう”と。


 ダニエルやケビンの魔法攻撃は自分の身体強化魔法を限界まで引き出すのに丁度よかった。


 最初のころは火傷や切り傷をよく負ってはいたが、10歳ごろとなるともはや2人の魔法は掠りもしなくなっていた。


 セルディアの嫌がらせにしても、悪質ではあったが次第にかわし方もうまくなってきて、今では無視されるだけで気楽なものとなった。


 自分の鍛錬の相手になってくれたと思えば、煩わしい感情を揺り起こさずに済んだのは、クリスティにとっても、兄たちにとっても互いのためになったのだから。


「…い、いや、そんなことは」


 ミハエルはダニエルの失言に舌打ちをした。


 それはそうだろう、懐柔をしようとした相手に対して明らかな失言を投げたのだから。


 状況は分かりやすいほどに悪化していた。


「…すげえな坊主、血が繋がっている家族にそんなことできるだなんてよお。

 鬼畜の才能あるぜ?」


 とイェーガーはけらけらと笑っていた。


「…とはいえ、うちのマスターがずいぶん世話になったようだし、ここはいっちょ報復したほうがいいんじゃねってオレ様思うんだけど、どう思うよ?」


 ダニエルはイェーガーの言葉に『ひっ』と声を上げ、分かりやすく慌て始めている。


 あれだけの惨状を起こした英霊が、今度は自分に襲い掛かってくると考えたのだろう。


 クリスティは先ほどの言葉で満足したのか、ダニエルを視界に入れようとしていない。


「魔力の無駄よイェーガー、もっと私の役に立つことに使いなさい」


 とクリスティの言葉により、ダニエルは九死に一生を得るのであった。


「…話がそれたわね、それではお父様、率直に言います。

 私とこのリンデンバーグ家の縁を切ってください。

 出来れば速やかに」


「…我がリンデンバーグ家に、利用価値はないと?」


 ミハエルが重々しく口を開くが、クリスティもその点については悩んだらしい。


 そも、女の騎士という存在に平民出身者はほとんど存在しないということがあった。


 いたとしても、貴族の子女の中でも変り種のような存在であり、女性だけの騎士団『薔薇乙女騎士団』と呼ばれるおままごとの騎士団があるのみであった。


 無論、実力ある女騎士というものは存在するが、それは騎士団の中でも極一部でしかない。


 そして、クリスティが目指す『魔導騎士団』に、女の騎士は1人としていない。


 いや、入れたとしても、すぐに退団してしまうのだ。


 実力を重んじる魔導騎士団にたとえ入団できたとしても、その後の訓練に耐えられない者が多いのも理由の1つであろう。


「…ええ、ありません。

 正直、家の力を利用したとしても、私が目指している場所は家の力はむしろ邪魔としか思っていない場所なので。

 そうですね…リンデンバーグ家に頼めることといえば、来年行われるだろう魔導騎士団入団試験で推薦をいただければ、私の手間が省けていい、といったところでしょうか?」


 入団試験では、一定以上の実力がない者を振い落すため、本選の前の予選がある。


 しかし、伯爵以上の貴族の推薦状があれば、予選をスキップで本選に出場できるのである。


 とはいえ、この推薦にも一定以上の功績がなければ推薦は取り消されるので、ほとんどの貴族はよほどの自信がない限り、滅多に推薦などしていない。


 体面を気にする貴族は、ちょっとした事で貴族としての経歴に傷を付けたくないのだ。


 殆どクリスティの我侭であるが、最後の最後の我侭としては、デメリットの全くない賭けであるといえよう。


 何しろ、たとえ予選から始めても確実に本選参加できるほどの実力がすでにあるのだから。


「…面倒な縁談が来た際にわしが盾になって庇う事も出来よう。

 本当に、利用価値はないのか?」


 ミハエルの言葉に、クリスティは思い出したかのように、自分の性別を思い出す。


「そう言えば…私にはその手の利用価値がないと思っていたから、完全に想定外だったわ。

 そうよね、英霊を召喚したとなれば、普通に王族も出張ってくる可能性が高いのよね」


「マスター、さすがに自分の性別忘れるのはよくねえぜ?」


「だって、私これまで女として見られたことないわよ?

 …ああ、平民のゴロツキあたりは絡んできたりしてたけど、あれを勘定に入れたくないわね」


 貴族出身とあって、クリスティの容姿はセルディアとは違った美人である。


 彫りの深く、かつ各パーツが黄金率に非常に近い位置にあることもあり、クリスティは知らないが冒険者などには非常にモテていた。


 その冷たい目で睨まれるのに快感を覚えるという、なんとも偏った性癖持ちが多かったが。


「…イェーガー、とりあえずは様子見する?

 15歳、というより入団試験はまだ先だし、少し考えてもいいんじゃないかしら?」


「マスターの好きにすればいい、オレ様は基本マスターの方針に従うんでな?」

「…ではお父様、この件はもう少し吟味しなければならないと判明しましたので、今回はここまでということで…それと、家自体は今日で出て行かせてもらいます。

 以前から懇意にしている宿屋を使っていきますから」


 そういい残して、クリスティはミハエルの言葉を待たずに部屋を退室していった。


 残された2人は、一難去ったと胸をなでおろした。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



「バカがっ、このバカ者が!!」

「ぐぁっ!!」


 クリスティが出て行った後、ミハエルがダニエルを殴り飛ばしていた。


 今までの無関心のツケが回ってきたと自覚していたミハエルだが、それにも増して憤っていたのは、屋敷内で起こっていた非道の数々であった。


「ダニエルよっ、言っておいたはずだ!

 クリスティには関わるなと、お前の弟と妹にもだ!!

 何故わしの言葉にそむいて、そのようなことをした!?」


 ダニエルは歩行の補助に使っている杖でミハエルを滅多打ちにした。


 片足の不自由なミハエルは、蹲るダニエルをなおも打ち据えた。


「そ、それは…」


 口ごもるダニエルに、ミハエルは呆れながら息子を叱咤する。


「はっ、言えんじゃろうて、言わんでも分かることだ。

 大方、わしがクリスティに無関心なことをいいことに好き勝手しておったのだろう。

 確かにわしはあの娘を放っておけといったが、甚振れといった覚えはない!

 お前はリンデンバーグ家当主であるわしの決定に異を唱えたことになるのだぞ、分かっているのかっ!?」


 ダニエルを打ちながら、ミハエルは去っていった2人のことを考えた。


 クリスティ、あの不出来で役に立たないと思っていた不肖の娘が、大陸が厄介なときに面倒ごとを抱えて帰ってきた、まさにトラブルメーカー。


 生まれついての障害がなければ、ダニエルをさしおいて次期当主にするということもあった。


 ステータスだけ見れば、あの娘はすでに大陸でもトップクラスの実力者であるからだ。


 そして、その娘がどうやってか召喚した【混沌の英霊】イェーガー。


 英霊召喚には2種類あり、1つは【秩序の英霊】である。


 属性が秩序にあり世界に対して多くの賞賛を受けた存在し、現在はミタシャ聖国、ヘイム自治領、ノースシー公国の3ヶ国にそれぞれ所属している。


 そして、厄介なのが【混沌の英霊】である。


 属性が混沌にあり、彼らがどうやって英霊の座にたどり着いたか。


 それは生前起こしてきた凶事が世界に刻まれてしまった、実に世界においての最大級の毒である。


 多くは歴史に名を残す大罪人が名を連ね、有名なのがセイヴァール帝国に所属している2人である。


 その悪しき称号に見合う惨劇を何度も続けてきた彼ら2人は、現在でも契約者を替え現世にい続けている。


 そしてこの2種の英霊たちに共通しているのは、超強力な『戦力』という面である。


 加えていえば、英霊を召喚した家は、間違いなく取り立てられる。


 その気になれば国を切り取って国を興すことも可能なほどの戦力なのだ、重用しておいて扱いが悪くなるということはない。


 どんな英霊を召喚してもそれが国の戦力として役に立てば、それに見合った報酬が家に、個人に支払われる。


 現在のヘイム自治領が辛うじて自治を任されているのは、単に英霊の力によるところが大きいからだ。


「すぐにでも王宮から使者が来て、クリスティが招聘されるだろう。

 そして王と謁見した際に、『私はリンデンバーグ家と縁を切りました』といったようなことを云われてみよ、英霊を召喚した優秀な魔導師を放逐したバカな家と、末代まで恥をさらすことになろうが!!

 魔導の名門、リンデンバーグ家がこれまで積み上げてきたものを、お前たちが仕出かしたことですべてが水泡に帰すのだぞ、分かっておるのか!?」


 クリスティが複雑な貴族事情に対して興味がなかったことが幸いして、論点の穴に気づかれることなく話は流れたが、イェーガーの存在がある限り、状況は最悪なのだ。


 確実に、あの狂った英霊は論点の穴に気づいていた。


 魔導騎士団は団員がわずか500名というほかの騎士団と違い規模が大隊規模程度という少なさである。


 しかし、その500名は数々の特権が許されていた。


 その内の1つは団員1人につき、各騎士団から兵士を最高400名を徴収して、自分の部隊を揃える事が出来る。


 2個中隊規模の兵士を指揮する権限が与えられるのだ。


 他にも多々権限はあるが、ある1つの権利がすべての団員に通達されていた。


 それは、結婚の自由、である。


 魔導騎士団という国内最高の人材においては、自由恋愛が推奨されていた。


 貴族同士での政略結婚が常識な中、この特例ともいえる措置は貴族院からも白眼視されていたが。


 100年ほど前、当時の魔導騎士団団長が貴族からの無理矢理な政略結婚に対して猛反対し、王族と何らかの交渉―――大いに物理的な何か―――をしたらしく、結果、騎士団内では外部からの干渉は王族を除き不可能とされた。


 クリスティが目指しているのは魔道騎士であることは以前から耳にしていたが、もし入団してしまえば、そのことに気づくだろう。


 そもそも、魔導騎士団の規則や権限など、調べれば簡単に分かることなのに、知らないクリスティの情報収集力に疑問を覚えた程であった。


 それでも、もし次、そう次があるのなら…、


「親子の…会話を、1度でいいからしてみたかったな」


 家族ならば当たり前の、しかしいまさらな言葉を、ミハエルはぼそりと呟くのであった。





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