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部下を集めます(2)

ぎ、ぎりぎり今日です。

少し早めに切り上げ、次の訓練編へといきます。

そしてお知らせです。

連続投稿、厳しくなってきました。

2、3日に1回ペースになりそうです。

 




 二次試験になるとクリスティは異空間内部を変質させるように命じた。


 イェーガーの指パッチン(フィンガースナップ)が鳴り響くと、異空間がまるで現実世界のような障害物のある大地へと変貌を遂げる。


「二次試験は体力よ、2時間以内に目的地に辿り着ければ合格になるわ。

 あと、この試験では妨害は禁止よ、イェーガーが監視しているから、妨害行為をする者が出ればこの異空間から強制退出させるわ。

 そして、魔導兵志願者には魔法の使用を禁止するわ。

 以上よ、5分後に開始するわ」


 魔導兵志願者達の悲鳴が上がるが、クリスティは完全に黙殺した。


 この試験では魔導兵志願者にもクリスティはこの試験を義務付けたのだ。


 クリスティは魔導兵は基本的には馬車で移動させる事を決めているが、いざ体力のない魔導兵が魔力が尽きてしまえば何が出来るのか。


 魔力が尽きたらそこで攻撃手段がなくなってしまい、当然だが何もする事は出来なくなるだろう。


 そうなってしまわない為にも日頃から魔導兵にも基礎訓練を義務付ける事を決めていた。


 この試験では全長5キル(約10キロ)の障害物走となっている。


 体力自慢の志願者ならともかく、魔法ばかり修練を重ねてきた志願者達には尤も過酷な試験となるだろう。


 この二次試験で41人いた魔導兵志願者はその数を20人にまで減ってしまった。


 この段階で既に予定が狂ってしまったのだが、この試験が最後ではない為、クリスティもイェーガーも気にも止めていなかった。


『1ヶ月かけて人員を篩い、そこから2ヶ月で集団戦闘で使えるように』すると言った手前、人員の選抜は今日から1ヶ月間に及ぶのだ。


 合格した者は一時支度金を配り実力に応じた待遇になる。


 殆どはイェーガーの作った異空間での生活になるが、毎日風景を変えるなど既に計画していた。


 クリスティはこの二次試験に合格したのは425人に昼食を振舞った。


 食費が浮いたと喜ぶ者が大半で、殆どがスープを2杯以上お替りしていたが、列を崩さない限りクリスティは何も言わなかった。


 そして最後の試験が始まるまで軽い運動する者もいれば最後まで体力や魔力を回復しようと休んでいる者もいてそれを眺めながらクリスティはイェーガーに第一回目の採用試験に何人残るのか尋ねた。


「お零れでも半分も残らねえぜこりゃ、ちぃっとばかし優しすぎたんじゃねーの?」


「素振りや走る距離はこの倍でも良かったということかしら?」


 確かに気合を入れて100本の素振りをしろという試験は剣の素人よりも勝手を知っていて簡単過ぎたかもしれないし、障害物走はあえて協力して走破するように仕向けたとあって、それほど脱落する者は少なかったといえよう。


 最後の試験で大量に落ちれば、ここまで必死になってやってきたと思っている志願者達からすれば噴飯物なのかもしれないと考えたクリスティは、しかしこれでいいという考えに至った。


「まぁ、最終的に400人になればいいのよ。

 考えてもみなさいよイェーガー、この試験で例えば200人以上採用したとはいえ、2ヶ月間の訓練に全員が残ると思っているの?

 訓練に耐え切れない者がどんどん篩い落とされていくの、最後の最後まで残った者が400人いればいいのだから最大この倍まで、800人までは採用するわ。

 出費は嵩むだろうけど、冒険者の仕事をして稼げばいいのよ」


「大雑把過ぎだぜお嬢は……まぁ、そういう事なら別にここで全部落としても(・・・・・・・)構わないんだよな?」


 杜撰な計画を立てているクリスティにイェーガーは呆れたが、それならそれでやりようはあるとばかりにニヤッと笑ってみせる。


 クリスティは構わないと笑い返すと、最後の試験に移った。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




「最後の試験よ、志願者達、覚悟はいいかしら?」


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」


 最後の試験が始まる前に、クリスティは少しばかり演説することにした。


 笑えもしない昔話である。


「昔、ある貴族の少女がいました。

 貴族に生まれたのに、その少女には魔法が使えませんでした。

 使えるのは身体強化の魔法だけ。

 家族からはロクな教育もされず兄妹からは虐げられ、少女はいつしか虐げられない為の強さを求めるようになっていきました」


 クリスティの話は続いていく。


 4歳まで生き長らえた少女は生きていく為に家を飛び出した。


 犯罪行為こそ犯さないものの、生き汚く生きてきた少女は生きる為に、何より強くなって欲しい物を手にする為に必死になって強さを求めた。


 家族は何も知らない、役立たずの娘に見向きもしない上に使用人も気付かない。


 冒険者となってからは更にその思いは強くなっていく。


 ナイフも買えないほど貧窮していた少女は石でゴブリンを倒した。


 魔法は使えないが武の才能があると自覚した少女は寝る間も惜しんで努力した。


 限界を何度も超え、血の吐くような努力をして10歳で冒険者ランクを鉄にまで上り詰めた少女はそれでも止まらなかった。


「少女は止まらなかったわ。

 何故かって?

 欲しい物が未だに手に入らなかったからよ。

 その少女は欲しい物を手に入れて、何より失わない為の強さが欲しかったの。

 それは一人で生きてきた少女が欲しくて欲しくてたまらないものだったわ」


 武の才能だけではまだ足りないと思った少女は、今度は勉学に打ち込んだ。


 もちろん訓練も怠らず、更に勉学に励んだ少女は自らの欠陥に注目した。


『魔力放出不全症』という治療の確立していない不治の病だ。


 少女は自らの欠陥に悩みはしたがその病を受け入れていた。


 しかし、もしこの病を治すことが出来れば世界はもっと変わるのではないか?


 自分の欲しかった物が手に入るのではないか、そう考え付いたのである。


 確証も何もない手探りの研究が始まった。


 前任者達はその病を研究していたが、どういった原因で生まれつき魔法が放出出来ないのかすら確たる理解も出来ていない。


 そして数年の内に、少女の研究は大成した。


 その証拠に少女は自らの欠陥を直し(・・)、英霊すら召喚してみせたのだ。


 世界中が少女を賛美した。


 そして少女はその英霊と数々の困難を乗り越え、騎士となった。


「お話は終わりよ。

 少女が手にしたかった物は未だに見つからずじまいだけど、あて(・・)はもうあるのよ。

 その最後の一欠けらを埋めるのは、お前達に…まぁ、なるかもしれないわね」


 クリスティは魔剣【フレイ】を抜いて志願者達に向けた。


「志願者達に問うわ。

 生き汚く地を這ってでも欲しい物を手に入れる為に、どんな矜持(プライド)もかなぐり捨てて付いて来られる?

 出来るのなら…一歩、前に進みなさい。

 進んだ者は全員合格とするわ。

 だけど、覚悟なさい。

 1ヵ月後、2ヶ月間の訓練を実施するわ、泣いても叫んでも誰も助けてくれない、自分を強くする為だけの訓練よ。

 これに耐えられた者が、私の部下としての資格を手にする事が出来るわ。

 この3つの試験が生温いと感じる訓練を受ける覚悟がある者は前に出なさい、歓迎するわ」


 試験が始まる前に一瞬だけ放った殺気を、今度は志願者達全員が感じるほどの濃度で発したクリスティは志願者達の返答をじっと待った。


 この殺気を正面から受けて一歩前に歩ける者がいれば、それはよほどの覚悟のある者か、あるいは気力だけでここまで這い上がってきた者、そして強者であるかだ。


「―――っ!!」


 クリスティの殺気を真正面から受けて、前列から殆どの志願者達が倒れていく。


 殺されると感じた志願者達は本能的に意識を閉ざしてしまったのだ。


「……へぇ」


 クリスティが思わず口を歪ませる。


 1人の少年が一歩、進み出たのである。


 クリスティよりも小さい、まだ15歳にも満たないだろう少年はよほどの覚悟があるのか同じく年に似合わない闘気を発して対抗して見せたのだ。


 クリスティは少年の元まで歩いていき、再度声を掛ける。


「…222番、覚悟はいいのかしら?

 子供だからって、容赦しないわよ?」


 偽りではなく真実のみで構成された言葉だと本能的に察したのか、少年は上擦りながらも声を張り上げた。


「と、当然だっ!!

 ここまできた以上、俺は何が何でもアンタの部下になってみせる!!」


「よくいったわ、合格よ。

 名乗りなさい、最初の合格者」


「ヴァルター…ヴァルター・ズィーベン・シュトックハウゼンだ!!

 リンデンバーグ卿の一番の部下になる男だ、覚えておけ!!」


 ヴァルターと名乗った少年はクリスティにそう宣言すると、バッチをクリスティに叩き返した。


 クリスティはヴァルターの行動に思わず笑みを浮かべてしまい、加減していた殺気が更に零れ出した。


 更に半数の志願者が倒れ、それでも目の前にいるヴァルターは歯を食いしばって耐えてみせた。


 面白い、クリスティはヴァルターという少年を見てそう感じ取った。


 訓練は年齢以上にしているのだろう、服の上から見てもかなり引き締まった体格をしていると見たクリスティは受け取ったバッチを握り締めてイェーガーを呼んだ。


「イェーガー、合格者第一号よ。

 丁重に案内なさい、合格者専用の異空間に連れて行って休ませておきなさい」


「了解じゃぜお嬢、ぱぱっと連れて行ってぱぱっと帰ってくるぜよ」


「はぁっ!?」


 イェーガーはヴァルターの首根っこを引っつかむと、目にも止まらない速度で走り去っていった。


 一瞬ヴァルターの悲鳴が聞こえたが、クリスティはもうヴァルターには目を向けていない。


 ヴァルターの宣言に触発されたのか、1人、また1人と一歩踏み出していく志願者達が現れる。


「合格者は自己申告して案内する者についていきなさい!!

 そして不合格した者に良い知らせよ、この試験はあと3回あるわ。

 この最終試験まで辿り着いた者は次の一次、二次の試験を免除する。

 そしてまたこの最終試験で自らの覚悟を、気概を示せるか確かめに来なさい。

 以上よ」


 この宣言の後、一歩踏み出した者は112人現れ、この全員をクリスティは合格扱いとした。


 そして何度もこの三次試験を受けた者に最後の覚悟を、気概を確かめる為にやってくる志願者達が現れた。


 そして1ヵ月後、クリスティの下に全部で642人の合格者が採用され、2ヶ月間の地獄の訓練が始まった。


 後に『クリスティ式兵士訓練法』と呼ばれる50個の訓練が世界の基準となるとは、まだ誰も知らない。





読んで頂き、ありがとうございました。

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