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顔合わせ

今作の今年最後の投稿です。

クリスティの今更ながらの自己紹介です。

 




 クリスティとイェーガーは演習場で模擬戦闘を重ねている先輩魔導騎士たちを眺めながら菓子を頬ぼっていた。


 ヴォルフガング達にも菓子を渡していて、1人ほど顔を真っ赤にしながら食べていたのだが、クリスティは気付かず、顔合わせがいつ始まるの構っていた。


「イェーガー、どう、あの先輩魔導騎士たちは、貴方のお眼鏡に適いそう?」


「お嬢と戦闘しても九割は負ける連中に眼鏡を向けるっていうのがそもそもの間違いだぜ?」


 残りの一割は勝ちはしないが負けもしない者たちで、そういった者たちがどれほどの実力があるのかをクリスティは知りたかったのだ。


「私が強いのは当たり前なの。

 私が将来的に率いるかもしれない優秀な部下を目星をつけておこうと思っただけよ」


 不遜な態度を取るクリスティにイェーガーはゲラゲラと笑いながら魔導騎士たちをもう一度眺めた。


「そうだにゃぁ…あえて上げるとすれば、あのでかいのかにゃ?

 ステータスが平均的以上でスキルも高い、かつ使いこなせていて、お嬢にも30分程度なら戦えるそこそこな奴だぜよ?」


 イェーガーの赤い手袋が1人の大男を指差した。


 その先にいたのは、クリスティもよく知る人物だった。


 いや、クリスティだけでなく、王都にいる者なら彼の名を知らない者はいないほどに、彼は有名な魔導騎士だった。


「アグリオス・ガードナー、定食屋を営業している有名人じゃない。

 私は行ったことないけど、おいしいんでしょ、あそこ?」


「星三つはあげてもいいくらいには美味いぜ?

 あの店だけ時代が何世代か進みすぎてるくらいでオレ様も何度かレシピ提供してるくらいだしぃ?」


「……なんでイェーガーの方が先に行っているのよ」


 主人の知らない内に、イェーガーは王都を満喫していた。


 しかもお互い懇意の仲らしく、イェーガーと目が合ったのか、大男―――アグリオスがイェーガーに小さく会釈していた。


 思いの外高評価を下しているイェーガーに思わず二度見してしまったクリスティは、時間を作って挨拶することに決めた。


 イェーガーに先を越されたのに腹を立てたからではなく、あの赤い英霊の判断に絶対の信頼を置いているから興味を持っただけで、決して行列の出来る大衆食堂に1人主人を差し置いておいしい思いをした事に腹を立てたからではないのだ。


「―――魔導騎士団総員集合っ!!」


 魔導騎士団本部からパトリックの声が響く。


 グルカも文官服から皮鎧に装備していた、さすがに組織の二番手が文官服を着て顔合わせなど出来なかったのだろう。


 模擬戦闘を切り上げ、魔導騎士たちが集う。


 顔合わせという―――品定めの時間が始まった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




「よし揃ったな、じゃあはじめるぞ」


 パトリックの言葉を皮切りに、魔導騎士たちが傾聴する体勢になった。


 堅苦しい式とは違い簡単な紹介をすると、クリスティたちの自己紹介に移った。


 ケイロン、ルーディー、そしてヴォルフガングがそれぞれの自己紹介をし、配属先での抱負を語っていく。


「クリスティで最後だ、自己紹介を」


 パトリックがクリスティに目配せをすると、それまで黙って聞いていた魔導騎士たちがざわついた。


 簡単な紹介の際にもざわついていたので、よほど気になる存在なのは確かだ。


 クリスティの噂は王国全体でも鳴り響いていたのだろう。


 なにせ英霊の召喚者でもある彼女の噂は半年以上前にあった内戦の当事者であり勝者である。


 パトリックと同様、この王国において知らない者はいないだろう。


 そして大陸中に名高き『剣聖』を倒すという偉業を達成した剣士なのである。


 どんな形であれ、パトリックを倒したという功績により魔導騎士団で将来は団長となってもおかしくないほどのトップエリートが万を持して登場した。


「クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグよ、特技は武術と殺傷行為全般、好きな事は研究と実験。

 嫌いな物は私の邪魔をする存在全般が嫌い、邪魔したら刻むわ。

 魔導騎士としてその名に恥じない功績を打ち立てていくので、今後とも縁があったらよろしく。

 あと今回新たな部隊を指揮する為に人員の募集をする予定なので、強くなりたい先輩やその他のザコ(・・)も歓迎するわ。

『何があっても後悔しない』という誓約書を書いてもらうけど、強くなるという約束は守るから、安心してちょうだい。

 ……ああそうそう、この赤いのはイェーガー、私の英霊よ」


「ちょっ、雑過ぎじゃねお嬢!!

 もっとオレ様のこと紹介してくれよ!?」


「何よ、金髪碧眼で真っ赤な英霊としか言いようがないじゃない。

 内面を話し出したら全員がドン引きするわよ、それでもいいの?」


 既にクリスティの自己紹介で半数が引き気味なのだが、気付いていないクリスティはイェーガーと騒がしく口論し、最終的にイェーガーを物理的に黙らせた。


 (うずくま)るイェーガーをよそにクリスティは仕方ないとばかりにため息をつくと、紹介を付け加えることにしたのか口を開く。


「…こっちの赤いのはさっきも言ったけど、イェーガー、英霊よ。

 基本なんでも出来て強いし賢いしで英霊の中でもトップクラスの実力者よ。

 知っていると思うけど私よりも強くて、パトリック卿よりも強いわ、絡むと食い千切られるから、遠目から見ることをお勧めするわ。

 以上、説明終わり」


 気が済んだとばかりに終わらせたクリスティはイェーガーを引き摺って後ろに控えた。


 そして、そのやり取りに残りのほぼ全員がそわそわとし始めている、この場から退散したくて仕方ないのだろう。


 口論しながらじゃれているつもりだったクリスティとイェーガーだったのだが、そのじゃれているという徒手での打ち合いに殆どが目で追えなかったのである。


 ずば抜けた才のある剣士と思いきや、それ以外の、格闘もそれに匹敵する腕前をまるでまま事のようにして見せたのである。


 パトリックやグルカは思わず嘆息してしまい、同じく同期のヴォルフガングたちはクリスティの相変わらずの規格外ぶりに嘆息してしまった。


 顔合わせという名の品定めは間違いなく必要だったといえよう。


 何しろ、猫をからかうつもりで獅子に手を出してしまうところだったのだから。


 その時はあの赤い英霊のように蹲る状況に陥っていたに違いない。


 英霊ですらアレなのである、ステータスをがんが得れば間違いなく風通しのよい穴が開くだろうことを想像した魔導騎士たちはクリスティに対して十分に配慮した扱いをすることを暗黙の内に決定した。


 ある意味、以心伝心といえよう、この場にいたほぼ全員がそう思ったのだから、日頃の結束の強さの証とも言えた。


「それでは…顔合わせは終わりだ、各自解散。

 隊長格はヴォルフガングたちを連れて行ってくれ、そこで今後の訓練内容を話されるだろう。

 また半年後に、3人が全員が揃って帰ってくることを期待する」


「はっ、了解しました」


「誠心誠意、やらせてもらいます」


「し、死ぬ気でやってみせます!!」


 若干一名ほど気合が入り過ぎているが、半年後その状態を維持していたら大物だと上司2人は小さく頷いていた。


 3人を見送った後、パトリックは帰ろうとするクリスティとイェーガーを慌てて呼び止めた。


 まだ言い残していたことがあったのを思い出したのである。


「言い忘れていたんだがなクリスティ、お前さんの上司は俺ということになるから、直属だ。

 基本的に活動は王都になるから、あまり遠出をしないようにな」


「そうですか、ではいっそう王都周辺の治安維持に努めます。

 さしあたっては、戦闘能力を持たない母子が平原を歩けるくらいに魔物も盗賊も根絶やしに…いえ、いっそのこと新たに作る私の部隊で対処しましょう。

 また明日計画書を提出しますので、ご確認ください」


 では、とクリスティは滅多に見せない笑顔(営業用)をして魔導騎士団本部を去っていった。


 イェーガーがなにやらごねていたが、あの2人の心臓に悪いやり取りにパトリックは思わず胃の辺りを擦ってしまった。


「…直属の部下にしたのは、早計だったかも知れねぇな。

 …今更他の奴の所に異動させるのも体面が悪いし……諦めるしかないか。

 …黒蹄騎士団の動向も気に掛けないといけないし、やる事が山積みだな」


 ぼやくパトリックをよそに、遠くからイェーガーのバカ笑い声が聞こえてくる。


 あれほどの力があれば、悩む事なんて無いのだろうと軽い嫉妬交じりの感情を浮かび上がらせたパトリックは溜息をつくと、魔導騎士団本部へと戻っていく。


 嫌いな書類仕事ではあるが、これを済まさなければ宰相リィからの嫌味が10倍になって返ってくるのを経験則として知っているパトリックは、今度は重々しい溜息をついたのだった。




読了頂き、ありがとうございました。

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