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最悪のオモチャ

 




(クリスティ視点)



 イェーガーは悲鳴を上げながら涙を流しているケイロンを面白そうに眺めている。


 ケイロンの視線の先には、首を両断された火龍、ライルの姿があった。


 もうピクリとも動かない火龍の姿に、ケイロンの目からはとめどなく涙があふれていた。


 それにしても、


「…イェーガー、あなた火龍(ライル)に治療系魔法使いたくないならそう言えばいいのに。

 それにしても、このあとの収拾どうすればいいのかしら?

 英霊召喚が成功すれば間違いなく王宮に上がることになるだろうし、貴族を抜けることも難しくなる確率が高いわよね?

 ああもう、やっぱり私の幸運Aはおかし―――」

「あーお嬢、これからスッゴイの見せてやるから、まあ驚くの準備しときな?」


 英霊(アンタ)を召喚してから驚きまくりよまったく。


 ただでさえ目の前の問題が山積みなのに、これ以上何をするのかしら、まったくもう。


「これから見せるのは、なんと【神器】!!

 しかも”|測定不能(EX)”の評価を受けた、オレ様の最新にして最強の武器だぁ♪」


 …この国を吹っ飛ばす気かしら、このバカは?


 表情に出ていたのだろう、イェーガーがなにやら残念そうな顔で私を見てきた。


「おいおいお嬢、勘違いするなよ?

 破壊するのは確かに得意な作業の1つだが、今回のリクエストはこのトカゲ(・・・)を治療するこったろう?

 だから、治療する”条件”を満たしたんだぜ?」


 なんだかおかしなことを言っているわ、この狂人は。


 治療する、という意味をわかっているのかしら?


 治療というのは、怪我や病気、それに症状を癒す、軽快にする、といった言葉だったはず。


 間違っても、首を刎ね飛ばすのが治療の条件になるだなんて…こちらの世界に来る際に、言語機能に何かおかしなバグでも発生したのかしらね?


 すでに死亡している状態から治療することに、意味などあるのかしら。


「あー語弊があったな、どうせ死ぬだろうから、いっぺん殺してから復活させようって訳よ、分かる?」

「どう聞いても無茶苦茶な気が。

 それにしても…蘇生、させるの?

 けど、復活させる魔法はこの世界じゃ一度として理論が確立しなかった【不可能命題魔法】の筆頭よ?

 あなたに、それが出来るというの?」


 偏見かもしれないが、このイェーガーにそこまでの英知が備わっているようには見えない。


 確かにステータスの魔力がEXというふざけた性能を叩き出しているけど、戦争狂な発言を鑑みて、単なる『火力バカ』としか見えないもの。


 …あれ、そう言えば私、イェーガーの取得スキル見ていなかったわね。


 ちょっと見てみようかし―――、




 ■ クラス別能力 猟兵(イェーガー)

 ・魔弾の射手 S++:狙った対象に対して命中精度を大幅に補正させる。ランクS++ならば、運命を捻じ曲げさせるほどのレベルである。

 ・気配遮断 S++:完全に気配を断てば発見する事はマスターでも不可能。ランクS++ならば、自らが攻撃態勢に移っても変化はない。看破するにはこれに匹敵する気配察知のスキルが必要となる。

 ・心眼(偽) S++:本質を理解する能力、視覚による妨害は実質不可能。常に大幅な攻撃補正がかかる。危機感知など幅が広い。


 ■ 技能 (保有スキル)

 ・叡智の大蔵 S+++:古今東西あらゆる知識を収めた。スキル1つで知識・技能系スキルを多くの保有数を所持していて、もはやランクはEX手前という。彼の一族が集め研鑚した叡智の全ての集大成。

 ・魔法S++:世界中の名立たる魔導師・魔術師・魔法使いの魔導書を収集、または強奪して研鑚して獲得した。儀式魔術すら簡易詠唱でこなせる実力。

 ・万能の担い手 S+++:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ・神殺し S+:文字通り、神殺しの能力を備えている。ランクS+となれば状況次第では主神クラスの神とも高確率で勝利する。神とその眷属に対して常に大幅な攻撃補正がかかる。


 ■ 宝具(神器)

 8つの枢要罪(パーティーグッズ) EX:魔神デュケインから下賜された測定不可の最悪級の神器。8つの特殊な力を自由自在に操る。なお、この世界限定。


 虚飾の器(ハローワールド):世界のありとあらゆる事象を改変する。

 なお、使用者の魔力消費が最も高いため、イェーガーは1日7回までと決めている。


 *以下、閲覧不能



 と、表示されていた。



 …ええ、大丈夫、私は冷静よ。


 ステータス以上にスキルのほうがおかしいなんて、よく聞く話よ。


 一番低いのでも『S+』だなんて、いまさらだけどステータスを見れば釣り合っていて素晴らしいじゃないの。


 私の”幸運A”はおそらく人生のほとんどをこの召喚で消費してしまったのではないかと一抹の不安を覚えるけど、これだけあれば国とだって強気の交渉が望めそうだわ。


 …けど、魔導騎士になる私の夢が遠のく気がするわね。


 …というより、下賜した魔神ていう存在が加護を与えた張本神(?)なのかしらね?


 ―――まぁとにかく、この神器があればどうにかなってしまうということは分かったわ。


 世界を改変させてしまう神器、どうやらこの世界限定らしいけど、十分ね。


「…イェーガー、私はもう何も言わないから、面倒ごとを片付けなさい。

 それが済んだら、帰るわよ。

 ―――ケイロン、運がよかったわね、廃嫡にならなくてよさそうよ?」


 心底どうでもよさそうに私はケイロンに言葉をかけた。


 ケイロンも分かったのか、一連の話でライルが生き返ることに悔しいながらも感謝しているほどである。


「イエッサーお嬢。

 そいじゃあチャチャっとやっちまうかね」


 イェーガーが右手を空に…天に掲げる。


8つの枢要罪(パーティーグッズ) が4、虚飾の器(ハローワールド)、ド派手な事象(ショウ)を始めやがれ!」


 青白い光がイェーガーに応えるかのように現れて、何度かイェーガーの周りを旋回するが、指令を受けた光は一目散にライルの死骸の上に止まった。


 へぇ、あれが神器、あんなのがあと7つもあるだなんて、さすがというべきかしらね。


 このとき、私の精神はいつになく高揚していた。


 これまでの人生がすべて試練だったと思えるほどに、むしろ過去の出来事に感謝し始めている私の頬は、きっと生まれて初めてといっていいほどに緩んでいるだろう。


 光が弾けると、ライルに降り注ぎ死骸を包んでいく。


 あまりの光にその現場を見ていた学生たちが一斉に目を瞑るが、私はこの状況を出来るだけその目で焼き付けておこうと、至近距離なのにも関わらず目を細めて光を見続ける。


『グラアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!』


 光の中心からは、ついさっきまで聞いていたライルの叫び声が聞こえてきた。


 イェーガーの魔法で傷だらけだったライルの体が徐々に塞がっていく。


 ―――なるほど、確かに治療とはいえないわね。


 光が収束していき、最初の青白い光がイェーガーの周りを飛び回っている。


「…おお、初めて使った割には上出来じゃねえの?」


 ボソッとなにやら恐ろしい言葉が聞こえてきたけど、無視することにした。


 視線をずらして死骸のあった場所へ目を向けてみると、そこにはあたりをきょろきょろと、現状を把握しようとしている間抜けな火龍がいた。


 主従揃って、バカみたいな面をしているわ。


 ケイロンがようやく起き上がれるようになったのか、イェーガーを素通りにしてライルの元へ走っていった。


「ライル、無事かっ!?

 身体はどこも異常はないのか!?」


『なっ、ケイロン!?

 ここにいては危険だ、離れるのだ!』


 …復活したてで記憶が混乱しているようね、この調子だと、いざ私も死んだ際に復活しても、また殺されそうでおちおち死んではいられそうにないわ。


「審判、勝敗はもう決定しているんだから、宣言はしてくれないのかしら?」

「しょっ、勝者、クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグっ!!」


 一時はどう負け所を探そうかと思うほどだったのに、今では勝者…かぁ。


 人生、分からないものね。


 イェーガーと共に階段を下りて闘技場から出て行く。


 見物してきていた観客たちは、目の前の事実に思考が止まっているのか、私に何も言わずに固まったままだ。


 これ幸いと私は闘技場を去り、魔導騎士課事務方に使い魔申請の必要書類を提出した。


 最初ふざけているのかと事務員に言われたが、イェーガーが脅し…誠意を見せてくれたおかげで、快く事務長以下42名がわずか5分で処理を済ませてくれた。


 普通なら1週間程度の期間が必要な書類も、あとは学院長に提出してハンコをもらえば終わりという、実に簡単な作業となった。


 さて、出来ることも終わったし、帰るとするわ。


 ついでとばかりに早退届も提出して、学院を出る。


 正直家に戻るのは気が進まないけど、荷造りもしないとね。


 一足早いけど、リンデンバーグ侯爵家当主、ダニエル・ツヴァイ・リンデンバーグに縁切りしてもらわないと。


 帰りの足取りはとても軽かった。





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