最終試験 剣聖VS銀閃(下)
再編集をしている最中です、そっしてすらぁんぷに。
新作もとい再編した作品を今月末、もしくは8月上旬に連続投稿を目指していますので、もしよろしければお願いいたします。
それでは、おまたせいたしました、どうぞ。
「…イェーガー、こんなもんでどうよ?
詠唱もかなり様になってきたし、威力も効果範囲の調整も余程の事が無い限り出来る様になったわ。
及第点は貰えると思ってもいいかしら?」
「いやいや、これは見事なもんだぜお嬢?
なるほどねぇ、魔剣の機能を仲介させる事でここまでするたぁ予想外だったぜ。
けどよぉお嬢?」
呆れた表情でイェーガーは周囲を見回した。
「…これ、やりすぎだぜよお嬢?
こんなもんをたった1人の人間にぶつけたら、細切れ所じゃすまねえぜ?」
元々は荒れた山肌であったその場所は、その一部を砂漠にしていた。
効果範囲意外は相変わらずであったが、その内側は粉々になった岩だったものに成り下がっている。
クリスティも周囲を見回してみるが、自分がやったことが単なる環境破壊だったことに対して、特に罪悪感に身を浸したわけでなく、
「問題ないわ、圧倒的物量で個人を圧倒するのは効率的ではないけど、強大な相手だったらそうもいってられないもの。
最大の戦力で最大の戦果を、そういうことにしておきなさい」
何も感じていない、もしくはそれほど重要視していないかのどちらか、あるいは両方であった。
満足そうに自分がした惨状にうんうんと何か納得するかのように頷いて、クリスティは山を降りはじめた。
イェーガーとクリスティが最終調整とばかりにこれまでの成果をバルトリム王国とセイヴァール帝国を挟むヒムラー山脈に叩き込み、その地形を歪めた。
その日は、試験受付最終日の前日であった。
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クリスティ視点
世界が遅く感じる中で、私とパトリック卿の剣戟はなおも続いている。
一重二十重と繰り出す魔剣の波も彼にはまるで効いていない。
全て叩き落され、いなされ、避けられ防がれていく。
しかもあの黒くなった鎧、私の想像した以上に堅固、筋も立たないほどの強度はさすがにずるいと思う。
すごい、すごい、イラつくほどに、強い。
けど、たのしい、イライラと楽しさが私の中で暴れるほどに、この試合は楽しくて苛立たしい!!
「今度剣はもっとすごいですよパトリック卿!?
なんと驚きの三点同時攻撃です、避けられますか!?」
「ネタばらすなよ、どっからか来るか予想がついちゃうだろうが!?
試験の意味分かってるのかお前は!?」
「それではご堪能を!!」
「聞けよっ!?」
私の魔剣が唸りを上げる、両腕に負荷が掛かるけど、この程度ならまだまだ余裕だ。
全力全開での戦闘なんてイェーガーとの三日三晩も続いた修行に比べたら、なんて気楽な事か。
頭上、左右の三点同時攻撃『なんちゃって燕返し』である。
イェーガーのいた世界のかこの剣士の持っていた剣技らしい。
燕も切り伏せられる問いう逸話もあるらしいけど…これ弱点丸分かりなのよね。
「はっ、有効範囲から出たら当たるかそんなモン!!」
そう、剣の有効範囲に出られたら当たり前だけど当たらないのよ、これが。
パトリック卿が有効範囲から2歩離れると即座に反撃してくる。
「ああ、もう、さすがに付け焼刃の剣技じゃ斬れないか!!」
「あれが付け焼刃とか、基準がおかしいぞこら!?」
パトリック卿の攻撃もやはり鋭く速い、けどそれ以上に脅威なのはその防御力だ。
防御や回避に遅れても、その身に纏う漆黒の鎧の防御が抜けられない。
【フレイ】に命じて属性を纏った剣で何度か当てているけど、どれ一つとして有効だが出てこない。
光属性や火属性が一番効果的と思ったのに、全くといっていいほど効かないって予想外にも程がある!!
「じゃあ今度は九連続の突きを―――」
「させるかよ、【怨恨鏡】!!」
また来たわねこのスキル!!
条件を満たした場合に発動する特殊スキルと分析結果は出ているけど、条件がさっぱり分からない。
けどこの位の痛みなら戦闘継続に問題は―――、
「疾っ!!」
速さが足りない、九連は無理か。
両肩両足、そして顔面を狙った計五箇所の突きを放った。
足場が悪いと愚痴りそうだったけど、元々平面だった足場をボロボロにしたのは私だった。
パトリック卿は四箇所は防げたけど、最後の左足の一撃は避けられなかった。
けどやはり最大の問題である鎧が邪魔をする。
「…分析結果は今もって不明で防御は堅固、詰んでないコレ?」
ぼやきたくなる気持ちが勝ってきた、ああ、面倒だわ。
ほんと、パトリック卿手加減してくれないかしら?
右手が痺れる、私に掛かれば大抵の鎧なんて紙を切り裂くくらいの労力なのに、白銀の鎧の時は少なくとも浅くはあるけど筋くらいは付けれていたのに…しかも鎧の方は分析が不可能になっている、明らかに隠蔽系のスキルが使われているのは分かるんだけど…仕方ないわね。
―――奥の手を使いましょうか。
「”億千万の刃”を携えて私は戦場を踊る!! ビリオラミナス!!」
「ったく、ここにきて新技か!?」
―――私は負けられない。
―――これまでの私を否定させない為に。
―――私の努力を否定させない為に。
―――私の歩んできた人生を否定させない為に。
―――だから、勝つんだ。
「あああああああああああああああああっ!!」
腹の底から声を出して、もう一度空気を一気に吸い込む。
これで防がれたら、もう本当に打つ手が無い。
賭けに出れるほどの目が無い以上、ここでなんとしても勝機を掴む。
―――さあいくわよ私、戦場を踊りなさい。
私の体は質量を感じさせないほどに軽くなり、魔剣を振るう。
そして私の目に確かに映る。
パトリック卿の手甲が砕けた。
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パトリック視点
末恐ろしいとはまさにこれの事をいうんだな、と俺は思った。
この年でこの錬度、さすがに部隊長クラス、いや、副団長のあいつでもまず勝てない。
それでも、俺は自分が勝てる事を疑っていない。
いくらスキルの代償があろうと、俺が負ける可能性が出てくる訳が無いと高をくくっていたせいだ。
その代償は大きかった。
右の手甲が砕けるなんて、以前戦場に現れた所属不明の英霊以来だ。
修復が始まる、この鎧には【超速自動修復】という唯一のスキルが付与されているが、それでも破壊された範囲が広すぎる。
痛みなんてありはしない、が驚愕が勝って動きに乱れが生じる。
クリスティの詠唱を思い出す。
そして先ほどの事象を思い起こす。
”億千万の刃”と”砕けた手甲”…まさか、
「億千万の…億千万!?
お前、まさかその魔剣に特殊な魔法を!?」
想像だが、あの魔剣に特殊な魔法が付与されたと見るべきか?
ただでさえ厄介な能力満載の魔剣にさらに正体不明の破壊攻撃。
一度の攻撃でクリスティの言うところの”億千万の刃”を切りつける、とかか?
つまり、あの攻撃は一撃で億を超える数の攻撃を繰り出した事になる、という事になるのだろうか?
…いや待て、さすがにそれは有り得ない。
そんなトンデモ攻撃、クリスティが使役している英霊でもない限り……、
「その魔法、まさかあの英霊が!?」
「あははははははっ!!
そのまさかですよパトリック卿!!
この魔法は私の英霊、イェーガーが編み出した秘術!!
文字通り”億千万の刃”を形成する事や、たった1本の魔剣にその力のすべてを結集し、一度の攻撃で億を超える追加攻撃を可能としているのですよ!!。
パトリック卿の鎧がどれだけ堅かろうと、一点集中させた魔剣、しかも億を超える攻撃は耐えれないでしょう!!」
それは反則過ぎるぞオイ!?
もはや対個人に向ける攻撃じゃない。
というより、普通の人間に向ければ一瞬で塵になるような恐ろしい魔法じゃねえか!!
クリスティの攻撃が再び襲いかかってくる。
もう魔剣で受け止めようなんてしたら絶対に砕けるのが予想出来る程に、むしろそれを狙っているかのように俺より魔剣に対して攻撃が行われているようだ。
今は辛うじて捌いているが、正直分が悪い。
というよりも、相性が悪すぎた。
防御力を主軸にしている俺には、これ以上の攻撃力を上げる方法がない、鎧の防御力もこれが限界だ。
剣技に関していえばクリスティは俺より遥かに高みにあるといえるが、それでも決定的な一撃を貰わないのは発動中のスキルのお蔭だ。
とはいえ代償も大きい。
クリスティ達が受けている影響と同様に、俺も受けているからだ。
しかし、その影響が一体なんなのか理解出来ていない、あのクリスティ達は後一歩の所で俺には届かない。
理解しているからこそ俺は限りなくその影響を最小限で抑え込んで戦闘をしているが、気が緩んだ瞬間、俺は一瞬で負けるだろう。
少々の攻撃は甘んじて受けよう。
が、決定的な一撃を貰わない限り、おれは負けねえ!!
ここからは最善の一手じゃなく、最適な一手で捌き切る。
おそらくはクリスティも同様に、今まで以上に集中して最適な一撃を振るってくる。
お互いの精神をガリガリ削るような攻防が開始された。
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轟音が会場全体を越え、王都郊外にまで響き始めて早30分。
全力なクリスティとパトリックの2人の攻防は序盤同様千日手の範疇から出ておらず、会場がもはや原形を残していないほどの惨状と化していた。
魔剣を捌き魔弓を打ち落とすパトリックにクリスティは尚も勢いを衰えさせずに攻撃を繰り返していた。
奥の手である【億千万の刃】はあの黒の鎧の防御力を上回っていたが、それでも決定打が一つとして当たる気配が見られない。
そして解析はやはり遅々として進まない、目の前に実物があるのにも拘らずだ。
何か妨害系のスキルが発動しているとみたクリスティは、解析を最小限に魔剣の機能を全開で使用できるように命じる。
だがここで問題が発生した。
魔力の限界である。
【億千万の刃】、【戦乙女】、そして燃費が良いとはいえ【徒人】を常時起動しているクリスティの魔力使用限界は、もうそこまで迫ってきていた。
一つとっても膨大な魔力を使う大魔法とスキルを三つも稼動している事自体が非常識と言えるのだが、いくら魔力ステータスA++であろうと、限界はある。
現状押しているように見えて、クリスティに敗色の気配が背後から忍び寄ってきていた。
「手数が足りないわっ、パトリック卿、そろそろ手加減してくださいよ!?」
「ハハッ、冗談が言えるのならする必要はねえな!!」
「無理しているんです、将来の部下のために花を持たせるとかないんです!?」
「いやまったく!!」
舌戦まで繰り広げている二人は互いの精神を削りながらも一瞬でも有利に立とうと隙を突こうと必死だ。
クリスティはパトリックの魔力限界を期待しようとしたが、そこまで楽観視をしていない。
パトリックはおそらくたった一つ、あの【魔人化】と【怨恨鏡】位しか使っていない。
あとは鎧を削った際の【超速自動修復】での使用魔力のみ。
常時展開しているのは立った一つ【魔人化】だけだ。
クリスティはパトリックと違って余力がないのを改めて認識すると、一度距離をとった。
これ以上、時間を掛けていられないからだ。
【戦乙女】を解除すると、それに気付いたのかパトリックが追撃をやめてそのまま待ち構えた。
「さすがに誘いにはやってきませんか…ですが、今回は失敗ですよ!!」
「ちっ、読み違えたのかよ!?」
会心の笑みで何かを仕掛けようとするクリスティにパトリックは自分が出遅れた事を後悔した。
「”億千万の刃”よ軍と為して敵陣を討ち滅ぼせ レギオンブレイド!!」
そしてクリスティは残りの魔力の殆どを使って賭けに打って出た。
魔法と同時に結界内部の上空に文字通り『億千万の刃』に匹敵する剥き身の刃が出現と同時にパトリックに目掛け押し寄せてきたのである。
「いっけええええええええええええええええええええ!!」
「ただの剣じゃ、俺の防御は破れねえ!!」
ロクに迎撃もせずに正面にやってくる刃だけを魔剣で砕き手甲で振り払って押し進んでいく。
その光景はまるで重装甲戦車に弓矢を放つようなもので、パトリックの言葉どおり圧倒的な防御性能を誇る漆黒の鎧には無駄に終わったかに見えた。
パトリックはその場から動かなかったクリスティを魔力を限界まで使った反動で、体に負荷が掛かり過ぎ手一時的に動けなくなったのだと思い視界を阻んだ刃ごと魔剣を振りぬいた。
パトリックはこれでこの短くも濃い試験は終わったのだと、気を抜いてしまった。
最後の最後に、油断してしまったのである。
「とったわ」
その声を聞いたとき、パトリックは自分の敗北を悟った。
パトリックすらも気付かない内に、クリスティはパトリックの背後に回りこみ、パトリックの魔剣を躊躇なく破壊した。
魔導騎士もそうだが、騎士にとって剣というのは命綱の一つである。
それが破壊されたとき、どう足掻いても敗北というものを逃れる事は出来ない。
「……降参だ。
お前の勝ちだ、クリスティ」
刃に埋もれた会場は敗北宣言をしたパトリックと、片膝を付きながらも笑っているクリスティであった。
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「ぎゃはははははっ!!
マジかよ、ほんとに勝ちやがったよオレ様のご主人サマ!!
勝率はかなり低かったのに、悪手ばっかりだったのに最後の最後でひっくり返しやがった!!
……んー、ありゃ、意識がねえじゃねえかよ」
審判の旗が上がったと同時にイェーガーが戻ってきた。
すでに結界は解除されて現れたと同時に笑い出したのだ。
褒めているようで丸っきり自分の主であるクリスティが勝利する事を殆ど信じていなかった発言に、パトリックは呆れて何も言えない。
小脇に抱えると、イェーガーは何を思ったのかパトリックに話しかけた。
「んん?
そういえばパトリック、スキル止めれた方がいいんじゃねえの?
くっついている奴が好き放題しはじめるぜい?」
「なんでしってっ……まぁ、あんたほどの英霊ならバレて当然か?」
突然核心を突かれ、挙動不審となったのは無理もないだろう。
パトリックはスキルを解除すると、元通りの純白の鎧となる。
「悪いんだが…この事は黙っておいてくれねえか?
一応俺のスキルの全容は国家機密扱いでな?
まぁ規格外のあんたくらいにしかバレる要素がねえから、普通こんなこといわねえんだがよ」
「いわねえぜ?
オレ様は義理堅いからなぁ!!
お嬢も勝ったし、何かするつもりはねえよ」
あまりにも返事が軽すぎて不安になったパトリックであったが、これ以上何を言っても仕方ないと思い留めた。
そもそもイェーガーに期待する方が間違っているのだから。
イェーガーはクリスティの召喚した英霊だ。
なれば、クリスティを介して命じてでもしない限り、この悪質な英霊は約束を守るのか確証も持てないのだから。
「…にしても、うちのお嬢がこれだけ破壊するとはねぇ、最初の実験の時はもっとすごかったしぃ、まぁほぼ予測通りの結果かにゃ?
さって、そいじゃあこの場所を元の通りにしよっかねえ」
イェーガーは空間に収納している魔道具の一つを取り出した。
出てきたのは魔法の杖である。
先端に六芒星を貼り付けているだけのようなお粗末過ぎる杖で、とてもじゃないがこれだけの惨状を直せるとはパトリックには思えなかった。
『チチンプイプイ、もとのじょうたいにもどれ~』
イェーガーが気の抜けるような詠唱をすると、会場全体が光り出す。
そばにいたパトリックをはじめ、それを見ていた観客たちが一斉に目を閉じてしまうほどに強い光が発生した。
「………うっし、まぁこんなとっか?
ふぃ、こういうことするのって、なんかはずいぜい!!」
段々と光の強さも弱まってきたころ、イェーガーが再び口を開いた。
イェーガーが唱えたロクでもない詠唱通り、会場はクリスティがボロボロにした頃とは違う、開始直後の綺麗な状態に戻っていた。
「…ホンと規格外過ぎるっての、こんなのを部下にするとか、面倒すぎるわぁ」
「ぎゃはは、本音が漏れてるぜよ?」
そういうと、イェーガーはそのまま消えていった。
クリスティも一緒に消えていき、パトリックが感知できる限りでは会場内にいる気配が無い。
パトリックとしても嘘偽りのない本音であるが、パトリックはたとえ心内で思ったとしても、イェーガーにはばれていたと確信している。
あれはもう格が違うのだ、そう思うしかないと。
ただでさえ負けたというのに更に複雑な思いになると、パトリックは会場から去っていく。
問題は山積していて、これをどう解決すればいいのか。
パトリックの溜息は誰にも聞かれる事なく、会場は歓声が鳴り止まぬうちに試験は続いていった。
その後の試験はクリスティとパトリックほど見応えがあるとは余りいえない内容だったと、レーヴェがクリスティに伝えた。
何でもクリスティ達の戦いを見て試験者のほぼ全員がモチベーションが下がったということで、現役の魔導騎士に蹂躙されて終わるというのが大半だったらしい。
それでもその年の合格者は見所があるものが多くいたのか、四人も出たという。
後の『魔導騎士四傑』に数えられる四人はこれを皮切りに歴史に確かな第一歩を踏み出した。
読了頂き、ありがとうございました。




