執事+従者VS天才剣士(2)
お待たせしましたー。
ちょっと思うところがあって、色々と書いたり消したりを繰り返していました。
ご不明な点がありましたら、ご質問どーぞー。
一合、二合と打ち合う金属音が次第に加速していく。
クリスティはレーヴェたちの試合を見てはおらず、終始ミュンハウゼンとの会話を楽しんでいた。
研究者とあってか、クリスティの研究の画期さにいたく感銘を受けてミュンハウゼンは非公式ではあるが軽く講義を受けていたのである。
その為、爆発音が起きたときに視線をちらりと向けただけで、それ以外ではクリスティは眼もくれていない。
「…という訳なのよ。
刻印をもっと全体的に、且つ等間隔に刻むことで侵食率を抑え、全身にその力を廻りやすくする。
この施術には極端な副作用はないわ。
一箇所くらい刻印が歪んでいたとしても、その周りを的確に刻むことで魂の侵食を中和することが可能なのだもの。
とはいえ、その箇所が全体と比べて若干だけど力の廻りが悪くなるのは確かね」
「ははーん、なるほどなぁ。
つまりこの施術は先に完成図を正確に作っておく必要があるんやね?
そうやることで成功率も上げることが出来るし、失敗する率も減らせる…なんやクリスティはん。
僕今回の派遣研究員としてきとってよかったわ。
やっぱ1人でだんまりやるより、ええ研究者と語らっとった方がええ勉強になるわぁ」
「……」
イェーガーは話に花を咲かせている2人と傍でムッツリと見ているアルトリウスを眺め、つまらないとばかりに部屋から出て行こうとした。
「イェーガー」
扉に手をかけたとき、クリスティがイェーガーに声をかけた。
「んー?
なんだよお嬢、オレ様ちょっくら便所だぜい?」
「じゃあついでに間諜の駆除も頼んでおくわ。
移動手段と逃走手段を潰して、情報切り開いて、跡形もなく消しておきなさい」
クリスティはそれだけ言うと、そのままミュンハウゼンとの会話に戻ってしまった。
ミュンハウゼンは特に気にした様子もなく、アルトリウスは若干だがイェーガーに同情するような視線を向けていた。
「…へいへいっと、そいじゃあちょっくら便所掃除でもしてくるばい」
クリスティの言葉の意図に気付いたイェーガーはすぐに終わるだろう暇潰しに少しだけではあるが機嫌を戻すと、鼻歌交じりで部屋から出て行った。
「…ええのん?
彼、護衛なんやろ?
敵国ともいってもええ人間が2人もおる状況で護衛と別れるってヤバいんとちゃうん?」
ミュンハウゼンが的外れといってもいい言葉をクリスティにかけるが、クリスティはくすりと笑うだけである。
「余計な心配よミュンハウゼン、少なくともそこにいる騎士には勝てないかもしれないけど、負ける気もしないわ。
時間が稼げればあっという間に私の異変に気付いたイェーガーが帰ってきて詰み、という訳よ。
心配する要素はゼロよ」
クリスティとしては対人系スキル最強といっても過言でない【徒人】というスキルを以ってしても勝てないとアルトリウスに脅威を感じていたが、それでも負けるというほどの危機感はなかった。
「…フン、いい度胸をした娘だ」
アルトリウスは鼻を鳴らすが剣を抜こうとはしない。
事実、クリスティの言っていることは正しく、アルトリウスも目の前にいるクリスティに勝てる状況が一向に思い浮かばなかった。
しかし、負ける状況も思い浮かばないのも確かである。
故に、アルトリウスが選択したのは『現状維持』であった。
むっつりとしながらアルトリウスは貴賓室から見える試合会場を眺めた。
クリスティの従僕達と名高き剣の一族の対戦を、ただじっくりと眺めていた。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
レーヴェの持つ戦闘スキル阿修羅は使用者の筋力、敏捷のステータスを他のステータスを落とすことによって発動する戦闘スキルである。
現在のステータスから見て、レーヴェのステータスはヴォルフガングのステータスを一部上回っていたのだが、それでも攻撃は一向に当たる気配を見せなかった。
むしろヴォルフガングの攻撃はレーヴェに―――実際は防御を担当しているバーレンにだが―――幾度となく繰り出されており、攻められていた。
それでもレーヴェの攻勢に衰えが無いのは、偏にバーレンのスキルのおかげだろう。
「…センパーイ、あっちさんの攻撃がちょっと自分の処理速度上回りそうなんですけどー」
「弱音なんて吐かずにとっとと防御しなさいバーレン!!
次が来ますよ!?」
予選時間が余りに長引くと審判役が判定を下して勝者を選定することになるため、レーヴェとしては早くこの戦闘を終わらせたかったのである。
元々レーヴェの目的はクリスティの障害になりえる2人、ヴォルフガング・ドライ・テスタロッサ、ルーディー・フィーア・リスデンの実力を測り、尚且つ脅威と判断した際は何らかの手傷を負わせる気であったのだ。
予選からそのうちの1人と戦い、手の内も少しではあるが晒してきているヴォルフガングに、少しはクリスティの役に立てたと思っているレーヴェは更にスキルを発動しステータスを上げた。
代償を払い続けるレーヴェの行為は自殺行為に等しいのだが、代償を払った分だけ強くなるというのは使い方を間違えない限り強力な鬼札である。
既に耐久ステータスは底値となり他のステータスを犠牲にするしかないレーヴェは、次に”幸運”を指定し更にステータスを上げていく。
ここまでステータスを犠牲にしたのはいつ以来かと脳裏に浮かんだレーヴェであったが、これ以上はいけないと必死でスキルを押さえ込んだ。
「レーヴェ、といったな。
強いのは認めるがそれでもやはり、俺には届かん!!」
「なんとでも!!
貴方はここで無様に予選敗退してください!!」
繰り出される拳と剣は辺りの空気を震撼させ、その衝撃で会場の外にまで音が響いてきていた。
レーヴェは拳と足を振り続けヴォルフガングに迫るがそれでもまだ傷は一つとして付かないでいる。
何らかのスキルを使っていることは間違いないが解析系のスキルなど1つも持っていないレーヴェとしては一体どういうスキルなのか見当も付かなかった。
凶刃を避けることもせずレーヴェはそのまま拳をヴォルフガングの鳩尾に目掛けて撃ち込むが、寸前で防御が間に合い、ヴォルフガングは柄でレーヴェの拳を叩き落した。
これである、回避や防御が間に合わないどんな攻撃を繰り出しても、ヴォルフガングはいつの間にかこれに対処してみせるのだ。
訳が分からない、とレーヴェは苛立つがそれでも攻撃の手は緩めない。
少しでもこのスキルの発動条件やタイミングを確かめようと躍起になって攻撃を繰り出していった。
対してヴォルフガングはというと、レーヴェとバーレンにどうやって勝てばいいのか悩んでいた。
魔法を使って追い詰めようとはしてみてもバーレンには傷一つとして付かず、レーヴェは何の冗談なのか髪の毛が少し焦げた程度の効果しか見られなかった。
魔剣でレーヴェを斬ろうと試みても、バーレンのスキルでレーヴェには傷一つ付かずにヴォルフガングの拳だけが迫ってくるのだ。
これまでにもうスキルを10回以上使っているヴォルフガングとしては、これ以上は面倒なこの2人相手にてをかかずらっていたくないのであった。
これ以上手の内を晒せばこれまで隠してきた切り札を出してしまうほどに、ヴォルフガングは追い詰められていたのである。
表面上はスキルを使って優位に立っているが、回数制限がある以上は絶対ではない。
―――それでも、使うしかないか。
「詰みだ、十分見せてもらったことだし、俺もここで切り札の一つを披露してやろう」
切り札にしても一目見ただけでは対処できないような、そんな攻撃をヴォルフガングは繰り出そうと、一旦魔剣を鞘に収めた。
「待ってました!!
さぁ存分にやっちゃってください!!
見事対応しきってみせ、返し様に貴方の顔面凹まして上げます!!」
「センパーイ、対応するの自分なんですけどー?」
対して2人といえば、レーヴェは切り札を出させることに成功したことに喜び、バーレンはヴォルフガングの切り札を果たして捌けるのか悩んでいた。
レーヴェはヴォルフガングの間合いから二歩下がり距離をとった。
魔法が切り札ならばこの程度の距離などあっという間につめられるかもしれないが、今のレーヴェの敏捷ステータスはヴォルフガングを上回っている、はずである。
後手に回っても、対処できる自信がレーヴェにはあった。
バーレンはいつでもスキルが使えるようにじっとヴォルフガングを見つめていた。
そしてヴォルフガングが動いたとき、バーレンの意識が刈り取られた。
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レーヴェはその瞬間が一体どういう理屈で起きたのか、理解が追いついていなかった。
分かったことといえば、瞬きすらしていなかったのにも拘らず、目の前からヴォルフガングが消えレーヴェより後方のバーレンを気絶させたこと。
バーレンのスキル発動を上回る速度で何かが起きたということ。
バーレンのスキルは任意による発動なため、自動的に発動する類のものではない。
ヴォルフガングはその事に気付いたのか、先手を打ってバーレンに狙いを定めたのだろう。
レーヴェの動体視力を上回った結果なのか、それとも魔法による転移なのか、スキルによる何らかの特殊な―――、
「―――どうした、そっちに俺はいないぞ?」
「―――っ!?」
声がした方向へ思わず裏拳をしたレーヴェだったが、裏拳は何も無い空間を切り裂くだけで、ヴォルフガングはその場にすらいない。
「な、める、なーーーーっ!!」
レーヴェは鉄靴を勢いよく叩きつけると、飛び上がった小石を蹴り飛ばしてヴォルフガングに向けて放つ。
小石とはいえ、かなりの強度を持つ石畳を粉砕しその破片を蹴り飛ばしたと同時に素早く限界ギリギリまでヴォルフガングから離れた。
「―――私は私を恨みます」
レーヴェはクリスティも知らない魔法詠唱を始める。
「弱い私を恨みます 無力な私を恨みます 愚かな私を恨みます」
ヴォルフガングが消える、おそらくはスキルか魔法による特殊な手段だと推測するが、それでもレーヴェは詠唱をやめなかった。
―――この術式でダメなら、もう後が無い。
レーヴェにとってこの術式こそが【ヴァイター】での序列第47位という高位に居続けられる術式である。
「呪詞か、厄介な術式を知っているな!!」
―――呪詞、それは魔導師達の中でも特に困難でいて悪質な術式であるといわれる評価を受けた詠唱術式である。
悪質どころではないのだが、詠唱の術式が完全に異質なのだ。
悪意を、害意を、凶威を集め対象に撒き散らす悪性の術式。
しかもこの術式は魔導師たちの使う汎用的な詠唱、すなわち自己昇華系と言ってもいい術式と違いそのすべてが凶悪な効果を発揮する。
喩えるとすれば、相手の精神を蝕む魔法を呪詞で詠唱をすると、間違いなく相手は精神が腐り果てるように効果を発揮する。
悪質な魔法をより悪質に、悪意ある魔法をより悪意ある魔法に互換する術式、それが呪詞である。
殆どの国では禁術指定とされているこの術式だが、この魔導大国であるバルトリム王国では禁術の指定は受けていない。
「私はこの拳を以って世界を|恨み(殴り)ます」
レーヴェは詠唱を一旦止めると、ヴォルフガングがどこにいるのか探すが、やはりどこにも居ない。
透明化、それとも幻覚系の魔法をレーヴェ自信が気付かないうちに受けたのかは分からないが、今レーヴェのいる立ち居地ならば勝算は十二分にあると判断した。
レーヴェのいる場所は四方が一角、左右背後は無く、ただ正面にしかない場所である。
予選の形式はこの石畳から落ちてしまった時点で終了な為、あえて死角を無くしてここで迎え撃とうとするものも幾人かいた。
しかし実力差があったり、力負けをしたりするとそのまま押し切られたり、思わぬ攻撃であっという間に場外行きになってしまう為、予選序盤ではあったこの方法も次第になくなっていった。
「悪意よ在れ ボスハイト!!」
レーヴェの放った拳、【ボスハイト】は何も無い空間を殴りつける。
しかし、その何も無いはずの空間は黒い亀裂を帯び、ガラスの様な破砕音と共に黒い穴を作った。
「―――この魔法は一定の魔力を使い難くさせる妨害系魔法。
魔法だかスキルだか分かりませんが、魔力を使っている以上はこの魔法を防ぐことなんて、誰も―――」
「―――いや、もういいからな。
かくれんぼは終わりだ」
とんっ、と軽くではあるが背中を押された感覚がレーヴェを襲う。
「へっ?
―――ぎゅむっ!!」
レーヴェがようやく自分が一体どこにいるのか理解したのは、場外から突き飛ばされて10秒程経った後であった。
ちなみに場外も石材が敷かれており、高さ1メル(2メートル)の高さから落ちてか、完全に虚を突かれた一撃―――というほどの威力ではないが―――に受身も取れずに落ちてしまった。
顔面から。
唐突な痛みによたよたと立ち上がるレーヴェは辺りを見回し、自分が場外から落ちてしまっているのを自覚すると、ヴォルフガングを睨みつけた。
「…僕に一体何をしたんですかっ!?」
「…いや、教える訳無いだろう?
お前に教えたらそのままお前の主に情報が伝わるだろうが」
実に正論である、元より教えてもらうとも思っていなかったレーヴェは舌打ちした。
「ちっ、けど貴方の手の内は少しは分かったので、それでいいとします。
天才剣士の戦闘方法、その一端を実感出来たのはいい経験でした。
もう二度と戦いたくは無いですね…でないと」
―――本気で殺したくなりますから。
ぼそりとレーヴェが呟いたが、上に―――離れた位置にいるヴォルフガングには届かなかったようである。
「まぁ俺も戦いたくは無いな。
さっきの魔法もそうだが、打つ手を間違えれば手痛い一撃をもらう所だった。
…まぁそれでも、負けることではないか」
「…ホンッと、ムカつくしイラっとしますねこの人」
バーレンが目を覚ましたと同時にヴォルフガングの言葉を聞いたのか、目覚めの言葉から不機嫌であった。
ふらふらと立つことすらおぼつかないので仕方なくレーヴェが肩を貸すと、センパイも負けたんですねー、とぼやくバーレンに思わずため息をつく先輩使用人であった。
バーレンは気付かない内に気絶させられ予選敗退、レーヴェは場外へ落とされ予選敗退となった。
「なーんか締まらない終わりでしたねセンパイ。
っていうか観客の人等なんかキャーキャー言っててなんなんでしょう?」
「大方天才剣士様が2対1で勝った事に対して歓声が沸いているんでしょう、結構な事です。
…さて、お嬢さまからこれ以上離れているのは拙いので、そろそろ戻りましょう。
迎えもいますしね」
選手入り口には人で出来た小山を背後にイェーガーがニヤニヤしながら2人を迎えた。
いじくる気満々のイヤらしい笑みである。
「よっすワンコども!!
なんだよなんだよぉ、結局あの坊主に怪我一つどころか服にだって汚れひとっつも付いてねぇじゃんか!!
ぶひゃひゃ、対するお前らとかボロッボロ!!」
傷口を抉る事を一々言ってくるのはわざとだろう、2人は内心反論したい気持ちになったが完敗な自分達の現状を理解しているので、何も言えなかった。
「…まぁ格上相手に大怪我せずに善戦できたのはいいんじゃねえの?
ワンコどもはまぁ頑張ればお嬢の使い勝手のいい駒になれるかもしんねえから、これからも頑張れや」
と思わぬ励ましをもらって普段から弄られていた2人の心にちょっと、ちょっとだけではあるがイェーガーにもマトモな人間味があるのだと感じたのであったが、
「―――ああそうそう、お前さんらの試合な、あれお嬢観客の1人と話が合って多分…つーか絶対見てねえぜ?」
―――訂正、やはりイヤらしく最悪なのは変わらないと確信する2人なのであった。
その後イェーガーの連れていた人の山をとある場所に運び込むと、イェーガーを残しレーヴェとバーレンはクリスティのいる貴賓室へと向かうのであった。
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