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執事+従者VS天才剣士(1)

はい、どうぞー

 



「イェーガー、当たり前の質問だけど、どっちが勝つと思う?」


 観客席でクリスティがイェーガーに尋ねると、イェーガーはぎゃははと笑いながら断言する。


「―――そりゃあ、あのムッツリ剣士じゃね?

 お嬢には10歩ほど届いてねえけど、あれでも結構な鍛錬してるぜぇ?

 学院の主席っつーのもダテじゃあねえのな」

「なんやクリスティはん、ジブンとこの使用人応援してあげんの?」


 ミュンハウゼンはかわいそうやなぁとぼやいていたが、クリスティとしては気だるいからイヤだという酷く自己都合な理由で応援や掛け声といった一切の行為をしていなかった。


 そもそもしたところで、2人がかりでヴォルフガングにかかっていったとしても、勝てる確率は低いだろう。


 あのテスタロッサ家の現当主が認める”才人”の1人であるヴォルフガングが、比較的強力なスキルと卓越した戦闘センスを持つ人間が2人程度では、まだまだ実力伯仲とまでは行かないほどである。


 予選最終組の開始合図の笛が鳴る。


 開始直後に場違いな服装をしたレーヴェとバーレンに襲い掛かる冒険者達だったが、即座にその意識を刈り取られていく。


 ある者は顎を裏拳で砕かれ、当分の間流動食で過ごす者。


 ある者は股間を蹴り上げられ、二度とブツ(・・)を使い物にならなくされた者。


 その他顔面を平らにされた者、拳を潰された者、両膝を砕かれた者、アバラ骨で不快な音楽を奏でられた者、等々ナド。


 その後の生活に支障が出るものの、死傷者は一切出ないというルールをギリギリの所で守っている、後味の悪い戦闘は終わりを告げた。


 最後の3人、レーヴェ、バーレン、そしてヴォルフガングが残ったのである。


「さってと、結果は分かっているけど、どんな過程になるのか、楽しみだわ」


 眠そうな声ではあるが、しっかりとその視線は外さないクリスティの声が、やけに部屋に響いていた。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



「せんぱーい、なんかこんなんで良いんですかねぇ?

 2対1とかずるくないです?」

「ナニ言っているんですかバーレン。

 格上相手に2人がかりとかまだまだ足りないくらいです!!

 ホントだったら、闇討ちして軽く怪我して十全に戦闘が出来なくしたり、シビレ薬とか盛ったりしてえげつないことしない今回の方が問題ですよ!!」


 バーレンはそうぼやいているのだが、レーヴェは平然として外道な発言で答える。


 あの主にしてこの執事(見習い)というべきなのか、耳の良いイェーガーはこの発言でいきなり笑い出してクリスティたちに不審な目で見られていた。


「……どれも問題な気がするんだが?

 イヤ、2人がかりで来るのはそれほど問題ではないが」


 ぼそりと呟いたのはヴォルフガングである。


 予選開始から剣を抜いてみたものの、気付けばヴォルフガングを除いてレーヴェやバーレンに襲いかかって行く冒険者達をただ眺めていくだけでこの状況になっていたのである。


 礼の一言でもしたかったのだが、あまりの残念っぷりに思わず本音が漏れ出していた。


「―――これはこれは、ボケッと突っ立っていて棚からバケット落ちてきた幸運具合の天才剣士様じゃありませんか?

 ご冗談を、僕ら2人じゃ精々端から見たら良い勝負、内実ひっどいあやしっぷりの稽古にしかなりませんよ。

 ホンッと、毒でも盛ってようやく五分っていった所の強さの貴方様に2人がかりとか、分が悪すぎて撤退したくなりますよ」

「けどしないあたり、センパイも十分に戦闘狂ですよね?

 ていうか、手甲(コブシ)鳴らすのマジ怖いんでやめて欲しいんですけどー」


 ため息までこぼすバーレンに思わずヴォルフガングもいい加減戦闘を再開(かいし)したかったのだろう。


「まあともあれだ、まずは剣を交えれば―――そちらは()の様だが―――事は進むだろう。

 掛かってくるといい、お前達の主ほどではないにせよ、格上の戦い方をみせてやる」


 ヴォルフガングの言葉が気に触ったのか、バーレンの表情が固まり、次第に暗くなっていく。


「せーんぱーい?

 ちょーっといまの言葉にイラッと来たんで、先手は自分がもらってもいいです?」

「いいですよバーレン、本家での修行の成果、ゼヒともこちらの天才剣士様に実体験してもらいましょう。

 殺す気でいきましょう、格下はそれくらいの意気込みでいかなければボコる率が減ります」


 レーヴェが右の手甲をゆっくりと伸ばし、バーレンの左の手甲が軽く打ち合うと鈍いが良く響く音が聞こえてきた。


「それでは名乗らせていただきます。

 リンデンバーグ家戦闘使用人【ヴァイター】所属、バーレン・フュンフ・ウォレス。

 序列は第156位です」

「それでは名乗らせていただきます。

 リンデンバーグ家戦闘使用人【ヴァイター】所属、レーヴェ・フィーア・ディラエス。

 序列は第41位です」


 リンデンバーグ侯爵家が保有する戦力には領邦軍の他に独自に保有している特殊部隊が存在していた。


 ―――【ヴァイター】、リンデンバーグ侯爵家が出来た頃から存在していたその組織は純粋な魔導師として成り立っていたリンデンバーグ侯爵家に完全な忠誠を誓う武装集団である。


 前衛戦闘を中心として、接近戦に弱いとされる魔導師の弱点を無くすというただ一点のために集められたその集団は戦闘能力だけなら英霊にも引けを取らない戦闘のスペシャリスト達である。


 当初は私兵として見られていたが、時の頭領が使用人という一面を持つことで隙を作らないために次第に使用人服を着た武装使用人と変わっていった。


 そして現在、リンデンバーグ侯爵家にいる総勢300人を超える使用人―――半数は私兵メインで働いているが―――は全てこの【ヴァイター】に所属している者たちで構成されていた。


「ほう、あの悪名高き【ヴァイター】の、しかも2桁の序列にいるのか、これは楽しめそうだな」


 ―――瞬間、懐に飛び込んだバーレンが手甲でミゾウチに全力の一撃を撃ち込んだ。


 ヴォルフガングはバーレンの一撃に合わせるかのように剣を振り下ろした。


 いつの間に振りかぶったのかバーレンは気づかなかったが、気にせずに剣を殴りつける。


 イェーガー特製の手甲はテスタロッサ伯爵家が誇る魔剣【ディーヴァ】と打ち合うとお互いがその衝撃で弾かれた。


「―――くたばれッ!!」


 驚異的な跳躍でヴォルフガングの頭上からレーヴェがその鉄拳を振り下ろした。


 ヴォルフガングはレーヴェの実力にその三白眼をゆっくりと開き不敵そうな笑みを浮かべた。


「―――まだまだ遅いな、あくびが出るぞ?」

「っ!?」


 レーヴェが気づいたとき、ヴォルフガングはレーヴェの攻撃を避けるどころか迎撃の姿勢に移っていて、その一撃は間違いなくレーヴェの敗北必至といっていいほどの技量である。


「よく分かんないけどとりあえずセンパイには指一本触れさせませんよ?」


 戻ってきたバーレンがヴォルフガングの一撃を妨害して向かっていく。


 ヴォルフガングはレーヴェを迎え撃とうとしていた姿勢を再度構え直すと、タイミングが合わないと見たのかそのまま後ずさる様に距離をとる。


「風よ、不可視の鎖となりて眼前の敵を縛れ ジッタール!!」


 ヴォルフガングは風属性の拘束魔法を詠唱していまだ空中から落下してきているレーヴェ、そしてバーレンのいる周りに風の鎖を展開させる。


「「無駄ッ!!」」


 迫り来る風の鎖を手甲で弾き飛ばしたレーヴェはようやく地上に着地し、その勢いでヴォルフガングに迫っていく。


 バーレンも手甲や足甲で風の鎖を弾いてレーヴェに続いていく。


「炎よ、風を纏いてその身を焦がせ ブランケット!!」

「「はいぃいいいいいいっ!?」」


 ヴォルフガングの詠唱にレーヴェとバーレンが驚愕したと同時に、その現象は起きた。


 風の鎖をまるで導火線のように炎は高速で2人に伝っていき、強烈な爆発を起こしたのである。


「戦術とは常に一手、二手先を見据える。

 中火程度の炎だが、少しは効いたか?」


 轟々と燃えている炎は中火どころか大火事の体を表していて、自然に消えるような火力ではない。


 間違いなく中心にいたレーヴェとバーレンはその身を炎で焦がされ真っ黒な焼死体が出来上がっているだろう、そう観客の殆どはそう感じていた。


「ええ、良い具合に温まってきました。

 けど、ニオイが最悪ですね。

 使用人服にニオイが付いてしまいましたよ?」

「っていうかさすがに今のはびっくりしましたー。

 辛うじて分かっているのは、自分らじゃ勝つのがとっても難しいってことですね?

 てかセンパイ、紙耐久なのにどうやってあの炎から生き延びたんです?」

「それはほら…気合ですよ!!」

「センパイも大概ですよ?」


 ヴォルフガングとしては、これで少しは機動力が削がれるのではと思っていたのだが、目の前の光景は悪ふざけをしながらも先ほどの炎に驚いただけで目立ったダメージが全くといってもいいくらいに無傷な2人組であった。


 少しばかりではあるがレーヴェの髪の毛が焦げていたが、その肌には火傷の跡すらない。


 バーレンに至っては完全に無傷な状態であった。


 しかもバーレンを中心にしてその周辺に焦げ跡が全く見受けられないのを見て、ヴォルフガングはバーレンが防御特化のスキルを保有しているのだと推測した。


「……これで47位と156位は、恐れ入るな。

 その名に違わぬ理不尽集団のようだな、貴様ら」


 毒づくヴォルフガングにレーヴェが肩をすくめながら恐縮すように頭を下げた。


「僕らとしては悪名を轟かすのは本意ではないんですが、ナニブンこの国では大規模な戦闘地域がなかったからですからね?

 仕方なく周りの国で傭兵家業をちょっとした位であそこまで名が挙がるとは思っていませんでしたよ。

 国外の人間は僕より紙耐久な人間が多くて困ります」


 ―――【ヴァイター】、リンデンバーグ侯爵家が出来た頃から存在していたその組織は純粋な魔導師として成り立っていたリンデンバーグ侯爵家に完全な忠誠を誓う武装集団である。


 しかしその名が最も轟いているのは国内ではなく国外である。


 4年前、セイヴァール帝国がとある国に侵攻していた時の話である。


 侵攻されていた国が偶然雇い入れたバルトリム王国出身者で構成された傭兵団が一部地域ではあるが補給もろくにない状況下で半年間、その傭兵団を死傷者を1人も出さずに守り続けたのである。


 その上敵対していたセイヴァール帝国側の死傷者は優に万を超すほどの死体を築き上げ、雇われていた国との契約を打ち切って堂々と中央突破し、バルトリム王国に帰還したのである。


 セイヴァール帝国は煮え湯を飲まされたその傭兵団の即刻身柄引き渡しをバルトリム王国、ひいてはリンデンバーグ侯爵家に要求したのだが、見事なまでの国家に関する過干渉としてその要求を突っぱねた。


 当時10歳を超えたばかりのレーヴェもその傭兵団に同行しており、かなりの数のセイヴァール帝国兵を殺しまくっていた。


 その後も何度もセイヴァール帝国が侵攻するたびに侵攻される側に傭兵団は現れ、甚大な被害をセイヴァール帝国に及ぼし続けた。


 その余りの理不尽ぶりに国外、特にセイヴァール帝国は【ヴァイター】を目の敵のようにしてその残虐さを周辺国に知らしめていたが、主人格であるリンデンバーグ侯爵家が気にもとめていない為、国内ではその一方的な噂が―――殆ど事実なのだが―――知られていたのである。


 一部の生き残りの兵士からは、【紅い小人(キンドル)】とも呼ばれていたレーヴェは当時にして100位以内の実力者であったのである。


 こと対人戦闘において、才能はヴォルフガングには劣っているが経験においてはクリスティと同等、それ以上に戦闘経験は豊富なレーヴェにとって、ヴォルフガングの魔法は一発芸にしては上出来、その程度の攻撃でしかなかったのであった。


「―――さてと、いい具合に観客も熱狂中な事ですし、ここらで本気で行かしてもらいましょう。

 バーレン、ここからは役割を全うしてくださいよ?」

「はーい、センパイは僕が守りますよー」


 ゴキリと首を鳴らすレーヴェの姿に棒読みで返したバーレンは手甲を構えてレーヴェの前に立つ。


「―――そいじゃあ、本番といきましょっか?」


 バーレンの言葉にヴォルフガングは内心でぼやいていた。


『リンデンバーグ家の周りには人外ばかりしかいないのだな全く…勝利の道のりは長いな』


 ヴォルフガングが飛び出したと同時にレーヴェとバーレンが呼応するかのように飛び掛っていく。


 予選最終組の戦闘は今まさに序盤から本番へと移行していった。




感想、レビュー、評価などなどくださると作者が悶え喜びます。

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