眠気覚ましにもなりはしない?
遅くなりました、風もほぼ完治し仕事も少しずつですが落ち着いてきたので投稿再開!!
はい、どうぞ!!
魔導騎士団入団試験当日、クリスティはいつもより遅く起きて支度をしていた。
訓練時には睡眠時間さえも厳しくスケジュールに刻まれてしまっていて、ゆっくりと眠ることさえ出来なかったクリスティはこの日、惰眠を貪ったのである。
イェーガーは既に仕上がっているクリスティに以上何も言おうとしなかった。
柔軟をしながらあくびをするクリスティは絶妙なタイミングで用意されていた朝食をのんびりとしながら食べる。
レーヴェとバーレンは何故かいない。
普段ならクリスティの席の背後に立っているのだが、今日に限っていないのである。
目の前にはイェーガーとジョナが紅茶を飲んでいた。
「―――それで、もう予選は始まっているのよね?」
誰に聞くまでもない独り言だったのだが、眠気のせい格調が若干乱れていて尋ねている様に聞こえたのか、ジョナが思い出すかのように答えた。
レーヴェとバーレンのことはどうせどこかで遊んでいるのだと適当に考えて思考から外していた。
「あーそうね、クリスティみたいに貴族から推薦を受けた予選突破者以外は全員、今頃予選をしているわよ」
予選は1組ずつが高硬度の石を切り出した舞台で最後の1人になるまで戦うバトルロワイヤル形式である。
1組辺り10人なので、比較的早く予選は進んでいくことになる。
そしてこの試験で特殊なのは敗者にも予選突破の権利が与えられるということである。
甲乙付け難い受験者が同じ組にいた場合の救済措置としてあるのだが、大抵の場合予選突破をするのは1人ずつである。
「そういえばイェーガー、対戦表とかはないの?
もしくはある程度強さに定評のある人間がどの組にいるのか、とか?」
「ねかったから昨日の内に作っといたぜ、ホイこれ」
こともなげにスクロールを手渡したイェーガーにクリスティは昨日の時間の一体何時作ったのか疑問に思ったのだが、『イェーガーだから』という理由で棚上げにした。
実際の所、その理由だけで事足りのだからジョナは内心でため息をつくしかなかった。
「…ふーん、あの主席と次席は自分の家からの推薦受けなかったのね。
まああの2人なら同じ組になっても一緒に予選突破するしどうでもよかったのかもしれないわね。
あら、ケイロンがいるじゃない、あいつ魔導騎士になる気なんてあったのね。
てっきり箔付けのために学院に在籍していると思ったのに。
ほかは…まぁ特に目に留める連中はいないわね、予選突破するにしてもこの3人が順当に上がって、残りはカスみたいなものね、この辺りの予選は見れたものじゃないわ」
「オレ様もお嬢と同じ意見だな、正直オレ様から見てもお嬢には劣るがさっきの3人以外はマジカスばっか!!
受験するのだってタダじゃねえんだから、コツコツ金でも稼いどけっての」
クリスティとイェーガーは身の程知らずたちに情け容赦ない言葉をかけるが、この受験者たちには別の目的があった。
それは自分たちの知名度を少しでも上げることである。
この試験は2週間という長期にわたる試験であり、その間試験を観戦する者達の中には商人や貴族が多くいる。
予選突破という段階でも十分に国内でも有数の実力者である事を証明することができ、ともすれば今試験で不合格となったとしても何らかの接触があり、働き次第では今後の生活が保障されるかもしれないからだ。
だが、クリスティからすればそのような退路を残した小賢しい行為こそ吐き気のするほどに不快な行為であった。
「…退路なんか残していたら剣が鈍るじゃない。
はなから合格する気概のないこんな連中の相手をしないといけないだなんて、最悪ね」
「―――仕方ないだろう、お前と違い、大抵の者達にはそこまでの覚悟など持っていないのだからな」
「というか、並の人間じゃ君の影すら踏めない連中に言うのも酷っていうもんじゃない?」
そう声をかけた男達にクリスティは思わず目を細めた。
普段ならクリスティは相対した存在に対して態度を決めるという区別意識を持ち合わせているのだが、目の前の2人にはどう対処したものかと考えてしまったのである。
ヴォルフガング・ドライ・テスタロッサ、ルーディー・フィーア・リスデン。
クリスティと同じ学院高等科に在籍していた主席と次席の2人である。
最底辺にいたクリスティからすれば雲の上のような―――あくまでも学院内の順位での話である―――ものがどうしてこの場にいるのか図りかねていたこともあった。
「あら、主席様と次席様じゃない。
2人が仲良しなのは知っているけど、こんな所にまで一緒に来るだなんて、変わっているわね」
遠くから『こんなところとは失礼だね』という女将の嫌味が飛んできたのだが、クリスティはニコリともせずにスルーした。
「そういえば、2人は予選のはずよね?
もう予選は始まっているはずだけど、どうしてここに?」
「予選の受付には通っていたが、俺は最後、ルーディーはその前だからな。
時間的に余裕が出来たからこちらに来ていた」
「いやー、将来の同期候補と一足早く挨拶しておきたくてね?」
ヴォルフガングとルーディーの言葉にクリスティはくすりと笑ってみせる。
3人が3人とも同じ考えでいたのに面白みを覚えたのである。
―――今試験で自分達は必ず受かるということに。
「…ぎゃはは、これだけのメンツがいてあの坊主がいねえのって完全に忘れちまってるってことかよ!!
ぷっくく、あんまりなフビンっぷりに良い肴のネタにしかなんねえなあホント」
イェーガーの言葉に3人ともケイロンのことを忘れていたのだが、自覚がなかっただけに面々はそのまま話を続けていく。
「別にいいわよ、イェーガーから渡された情報によると、予選が終わった次の日には予選突破者総当りの対人戦みたいだから、それが済んでからになると思うけど」
3次試験は現役の魔導騎士の1人と戦うらしい。
最終試験というだけあってか、その実力は騎士団内でも中堅に位置している騎士達らしく、まず間違いなく負けるのが慣例であるのだが、この3人なら―――間違いなくクリスティは勝つだろうが―――勝てるだろうとイェーガーはみている。
むしろクリスティは対戦者を殺してしまわないのか心配になるイェーガーであった。
「…それはまた、魔導騎士団の内部に忍び込んだのか?
まぁ、もらえるものはもらっておこうか」
「わぁ、知っちゃったからにはそれに応じた道具も扱っておかないとね。
あ、そうだクリスティお願いなんだけどさ、今度そこの英霊さんが造った魔道具見させてくれない?」
「イヤよ」
イェーガーが仕出かしたことに2人は特に気にも留めず明日の総当たり戦にどういう体力配分でいくのか考えながら―――魔道具好きなルーディーはさり気に余計な注文を加えていたが―――概ねクリスティの見たとおりマイペースな連中なのだと判断した。
その後、ヴォルフガングには総当たり戦とは別の決闘を、ルーディからは魔道具の見せ合いをなぜか約束することになり、一足早く宿屋から出て行ってしまった。
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クリスティは気だるそうにしながら試験場にある貴賓専用の観客席で肩肘をついて座っていた。
長く使われていなかったため予選突破者用の席は物置にされていたため、運営側は慌てて貴賓席にいる招待客に了解をとってクリスティたちは貴賓室から試合内容を見物していた。
貴賓席にいたのは研究者と思しき黒髪長髪の笑顔が胡散臭い異国人とこちらも異国人の不機嫌そうな騎士である。
イェーガーを見ても動揺しない当たりかなりの実力者なのかと思ったクリスティであったが、見た目で判断したくはなかったが目の前の2人ではイェーガーには勝てそうにないとすぐに興味の対象外となった。
「しょぼいわねホント、やる気あるのかしらこいつら」
しばらくしている内に予選も終盤に入ってきて、クリスティの不機嫌で気だるげな理由達は視線の先で予選を突破しようと悪戦苦闘している受験者達に悪態の槍でつつかれていた。
どれを見ても相手の失敗を期待するかのような無難な戦闘ばかりで、自分から切り崩そうという気概がまるで見られない。
クリスティはまるでダメねと切って捨てる。
「ダメって…|クリスティはん、今の二刀流のボンは結構ええ剣術の冴えに見えるんやけど、アレでダメっていうたら少し前におったケイロンちゅう学院の卒業生くらいしかおらんで?」
黒髪長髪の男―――ミュンハウゼンと名乗った研究者はクリスティに突っ込みを入れた。
この予選では召喚獣の使用が禁止されているため独力のみでの先頭になるのだが、ケイロンは可もなく不可もなく、さりとて良というわけでもないが危なげのない戦闘で予選を通過していた。
イェーガーはケイロンを『がんばってるじゃん、見られてねえけどぶっふぉ』と評価していたのだが、クリスティにはケイロンの一体どこにイェーガーのツボに入ったのかさっぱりであった。
「ケイロンは…まぁ剣術と魔法がそこそこあって機転も利いていたから辛うじて及第点といったところね。
けど、本来あいつの戦い方は召喚獣の火龍との連携だから、今回の戦闘じゃあパッとしないのよ。
片割れがいないんじゃあ、ケイロンなんてそこらの銅ランクの冒険者でも倒せるわ」
「クリスティはん、採点辛いんやねぇ。
何ぞあのケイロンちゅうボンになんか恨みでもあるん?」
「ケイロンの評価は評価は私以外の連中も大体そんなところよ?
ところでミュンハウゼン、話の続きをしない?
帝国から来たって聞いたんだけど、私の研究について聞きに来たっていう事でいいのよね?
帝国はこの研究成果を軍事利用する気満々って言うことなのかしら?」
笑っているが目だけが射殺すような佇まいでいるクリスティにミュンハウゼント隣の騎士が思わず固まってしまった。
さっきまでいた物憂げな、気だるげな表情でいた少女は一変、狂気に満ちた笑みを限界一杯まで唇を吊り上げている。
固まってしまった2人であったが、落ち着くとクリスティに分からないと伝えた。
「残念やけど、僕もそこまで聞いとらんのや。
僕らが来たのはさっきクリスティはんが聞いたように研究について聞きにきた、更に欲張って言うとその技術を何とかモノにして帰国することをお上に言われた、この2点やね。
別にこれは口止めされてる訳やないさかい、いくらでも喋ってもええねんで?
まぁ、護衛兼監視役のアルトリウスが報告したら僕も長立場悪くなるねん、その辺りちょっと考慮してくれるとありがたいなあ」
クリスティはそこまで深く聞こうというつもりはなかった。
アルトリウスが魔剣を抜こうと後一歩までという所に来ていたのである。
さすがに挑発が過ぎれば面倒事になると判断して、クリスティは仕方ないと言った表情で諦めることにした。
不機嫌そうなアルトリウスも英霊であるイェーガーに対して細心の注意を払っていたが、クリスティの予想外の気迫に思わず本気で相対しようとしていた自分に驚いていた。
目の前の少女の気迫とも狂気とも取れるあの異常な力に少なからず興味が沸くが、自分の立場と任務を思い出し一度冷静になって落ち着くことにした。
「まあいいわ、別に興味があるわけじゃないし。
共通の話題を探したらそれ位しかなかったから聞いただけよ。
強引に聞く事なんて気が変わらない限りないから、安心してもいいわ」
「…クリスティはん、さすがにそう言われると僕らも安心できんよ?」
「お嬢、そんなこと言われちゃあ誰も安心なんてしねえんじゃねえの?」
ミュンハウゼンとイェーガーが思わず口を出したのだが、クリスティはミュンハウゼンとイェーガーの突っ込みを笑顔で無視した。
「それより今気づいたのだけどイェーガー、あの2人がどこに行っているのか知っていたのね?」
更には話も逸らす始末で、余計に不安になってきたミュンハウゼンとアルトリウスなのであった。
「んん?
ああ、あのワンコらがどうしてもって言うからよお、予選からどこまでいけるのか腕試しだってよ」
理由は現在でも明かされていないのだが、この試験では同じ受験者が2度試験を受けられることが滅多なことではない。
過去の例としては1度目から6年後にようやく審査が通ったなど、かなりの間が空くのだが、それにしても過去1度だけの例である。
それゆえに、魔導騎士団入団試験の認識は『一生に一度の大勝負』という非常に狭き門なのである。
レーヴェとバーレンはその試験を今年に限って受けた訳であるが、イェーガーがクリスティに渡した情報にあの2人が入っていなかったのはわざとなのだと確信した。
「ワンコ…?
ああ、喩えやね?
まだ見とらんっていうことは最終組ナンかな?」
「そうよミュンハウゼン、私に仕えている執事見習いと従者見習いよ。
ソコソコ戦闘能力はあるからホドホドには面白くなるわよ?」
2人の会話に誰も入ろうとしない。
アルトリウスはイェーガーをじっと睨んでいたし、イェーガーは睨みつけているアルトリウスを値踏みしては小さく嗤うことを繰り返していたからだ。
会場が沸く、どうやらルーディーが単独で予選を突破したらしい。
クリスティは殆ど見ていなかったが、殆ど弾幕のような多重属性の魔法の矢が対戦者たちを滅多打ちにしてマトモな勝負にならなかったようであると解説が叫んでいる。
ルーディーはクリスティがいる貴賓専用の観客席に気付き手を振っていたが、クリスティは手を振ることは無い。
2次予選、総当たり戦では楽しみではあるから手を振ってもよいと思ってはいたが、別段変な約束をして程度の知り合いに対して、手を振るほどクリスティもフレンドリーではないのだ。
そしてクリスティはふうん、と小さく零した。
「ということは、最終組は主席とうちの使用人2の勝負になる訳ね。
1対1なら勝負にはならないだろうけど、2対1なら少しはましになるのかしら?」
レーヴェ&バーレン対ヴォルフガング・ドライ・テスタロッサ。
予選最終組は唯一の見所とも言ってもいい、熱戦になるとクリスティは面白そうに声を上げた。
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