プロローグ
始まります第2章。
では、どうぞ!!
王国で近年稀に見る狂気的な内戦を終え、王国は以前と変わらぬ日々を取り戻そうと躍起している中、クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグは王国どころか大陸、世界に轟く偉業を叩き出した。
自らが抱える生まれつきの性質『魔力放出不全症』を完全に克服ことに成功したというのだ。
大陸でも、特にバルトリム王国で顕著に見られるこの症例は小さな瘤でもあり将来においても長引く不快の種であった。
長年の研究の結果、大陸全土において禁術とされてきた『刻印術式』での安全な活用である。
彫ったが最後、術者が死ぬまで止まらない災厄にしかならないこの術式を時間をかけて安全なものへと変えた彼女は、極めて特殊な手段で解決してみせた。
現在は彼女しか取り扱うことしか出来ないが、これが普及することになれば世界中の症例者たちが魔法を使うことが出来ることだろう。
論文によれば、副作用は最初の施術からの数日間の痛み以外何も起きておらず、副作用が収まれば魔法を使うことが可能になるのだ。
そしてこのメリットは魔導師に対して大きなメリットとなる。
自らの持つ保有魔力量を底上げすることにも成功しているのである。
前提としてこの行為自体は副作用が強すぎて施術するクリスティもたった1件しかしていないという。
魔力の保有量を倍にし、儀式魔法も1人で数回ではあるが発動出来るほどになったというその魔導師の名は、ウィリス・アインス・ラフティル。
かつてクリスティと決闘し、その後の内戦で残った数少ない生存者の1人である。
現在では休学中で、近々貴族科に転科届けを出すらしいと学院の噂になっていた。
―――そして現在。
魔導騎士団入団試験を半年に控え、クリスティはただ1人学院長室へと来ていた。
イェーガーは今回に限り席を外しており、渋々といった様子で扉の前で『の』の字を書いていじけている。
相対している学院長、ゴーダイン・フィーア・ツルプはクリスティに落ち着いた口調で話しかけた。
「さて、何から話せばいいものやら…何から話そうかね?」
高齢な為かまるで年輪のような皺が顔に刻まれていて、御伽噺に出てくる魔法使いのようだとクリスティはこの学院長をはじめて見た時から思っていた。
イタズラ好きな好々爺、しかしその実力はかつて宮廷魔術師で第一線を経験して来た超が付くほどの武闘派であり、この国でも指折りの魔導師だ。
ステータスこそ平均がC++とクリスティよりやや低いが、それでもクリスティはこの老人に楽に勝てる気が全くしない。
ステータスが勝敗を分けるものではないことを証明する生き証人でもあるこの老人に、クリスティは一定の敬意を持っていた。
「手短にお願いします学院長。
外にいるイェーガーが扉をブチ破る前にしていただきたい」
「単刀直入にいうとの、この学院ではお前さんを導くことは出来そうにない」
とはいえ、ニュアンス的に学院を退学しろという雰囲気ではないことにクリスティは気づいた。
「…てっきり、退学処分を言い渡されるのかと思っていました」
イェーガーと出会ってからの数ヶ月間で、この学院に及ぼした問題は計り知れないほどにある。
学院がひた隠しにしてきた禁術集の無断閲覧に始まり学院の爆破、それに乱闘騒動。
数えればきりがないほどに迷惑をかけてきたクリスティとしては、数ヶ月も自分を学生として扱っていた学院に驚いていたほどである。
「したらお前さんとこの怖い英霊が何するか分からんしの、結局の所なんも出来んかったんじゃよ。
わしとしては禁術集の無断閲覧以外は別段腹も立っておらん」
学院の長としてはそもそも禁術集などという危険物を保管したくもないのだが、王立図書館の蔵書は一般向けな大衆紙や絵本、稀覯本を扱っている。
その中に危険な禁術の記載された書物や魔導書まであれば魔導師が間違って魔法を使った際に、『書物』という財産が一瞬で消えてしまうことがあるかもしれない。
それ故に、王立図書館館長は代々魔導書や禁術集といった危険書物の保管は一切拒否していた。
最終的に学院図書館に行き着くことになった禁術集は体裁の為隠蔽の魔法をかけられていたが、クリスティの執念に押し負けたのか呆気なく見つかることになる。
その後クリスティに読破されるのだが、それが巡り巡ってこの偉業に繋がっているとは、当時禁術集をたらい回しにしていたもの達は思いもしなかっただろう。
「結界も張らずにほったらかしたままにするから私みたいな者に読まれるんです。
今度からは関係者以外立ち入り禁止の扉だけなんてちゃちなものじゃなくて、頑丈な結界魔法でも張っておくことを進言します」
「普通の学生は禁術なんぞに手を出す気概もないからの、油断しておったわい。
今は魔導師科の講師や教授めらがあの区画を別次元にかえとるじゃろうな」
今後一切、あの禁術書のある区画へ侵入することは出来ないだろうと暗に示した言葉であることはクリスティにも分かった。
もう用もない場所なので行く気もしなかったクリスティではあったが。
「まあいい、済んだことをグチグチ言うつもりはないんじゃ。
こちらの言い分としては、お前さんに一刻も早く、この学院から卒業してもらう。
喜びたまえよ、学院始まって以来の、飛び級卒業じゃ、試験もないから今すぐ卒業可能じゃ。
場所も都合よく学院長室、おあつらえ向きじゃのう」
学院側は本気でクリスティが厄介者にしか見えないのだろう。
特にクリスティの有する英霊、イェーガーがいつ暴発するのかを恐れている。
魔導騎士団入団試験も近いうちにあるため、この案をクリスティは飲むことにした。
「光栄です学院長、とだけ言っておきます。
……用件はそれだけですか?」
「卒業証書はここじゃ、後は奨励金くらいかの。
学院在学中にあのような偉業を成し遂げた僅かばかりのお礼じゃよ」
手切れ金まで渡すほどに自分は厄介者なのだな、と内心苦笑するクリスティだったが貰える物はなんだって貰う。
入っていたのは白金貨が100枚だった。
バベルワームを討伐した際の報酬が白金貨10枚だったのに比べてその10倍という破格の金額に小躍りしたくなったクリスティだったが、少しもおくびには出さずにいる。
「それでは学院長、お世話になりました」
「うむ、達者での」
クリスティとゴーダインの冷めた会話は出会って10分で終わった。
扉から出るとイェーガーが『おせえぜお嬢』、と寄ってきた。
「んで、なんの用だったん?
もしかして、『卒業させてやるからスケベしようや』的な…ギャンッ!!」
的確にイェーガーの右足小指を踏みつけたクリスティは次いで仰け反ったイェーガーの後頭部を蹴飛ばす。
鋼の塊を蹴った時より痛いと感じたクリスティだったが、イェーガーの発言の不快さが勝ってそのままガシガシと踏みつけた。
「…そんな訳ないでしょう、卒業よ卒業。
もっと正確に言うと、金やるから学院から出て行ってくれっていわれたのよ」
「そりゃまた、お嬢にとっちゃ都合がよくて重畳じゃねえの。
魔導騎士団入団試験の予定までこれで自由じゃねえかよ、やったじゃんお嬢」
立ち上がるとわしゃわしゃとクリスティの頭を撫でるイェーガーにそうねと短く頷いた。
我が事とばかりに喜ぶイェーガーにどこか戸惑いながらも、クリスティも今後の予定を繰り上げることになる。
さしあたっては―――、
「各地に放った部下たちを一旦戻すわ。
イェーガー、準備しなさい」
あの狂気の実験後生き残った兵士たち187名を各地に潜伏させたクリスティは彼らに間諜をさせていた。
半数は国外にまで手を伸ばしているためそのすべてが帰還するのには最低でも半月はかかるだろう。
クリスティが所望した『益有る情報』を彼らが持ってくるまで、クリスティは今日も鍛錬に励む。
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