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幕間 闇の処理

予定がまだまだずれ込んでいる為、投稿をいたします。

時期がいつになるかは不明ですので、その点は活動報告に上げさせてもらいます。

*今回ちょっとグロいので、食事中の方は注意です。

 

『い、いやだああああああああああっ!』

『おねがいだからやめ゛でえええええええええーーーっ!』

『ひ、ひひ、うで、おれのうでが、ね、ねじ、ねじねじねじねじねじねじ、ウヒ、ひゃははははははははははははははは!!』


 そこかしこらから悲鳴や断末魔が聞こえる。


「……んー、芳しくないわね。

 イェーガー、次の検体(モルモット)を持ってきなさい」

「あいよーお嬢。

 次の検体も魔力量が平均以下の騎士だぜよ。

 ついでに言うと、もうそれで騎士団の連中は最後だにゃ~」


 そんな地獄のような空間にいて平静を保っているのは、『狂境内戦』の原因にして強制的(・・・)な解決者クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグ、そしてイェーガーであった。


「…それにしても、ここはいいわね。

 バカみたいに広いからこれだけの検体がいても置く場所に困らないのだから。

 しかももといた世界との時間経過も差があるみたいだし、十分だわ」


 クリスティが見回すと上空や壁側は全て全て白・白・白の目に痛い設計になっていた。


 そしてこの異界内とクリスティたちが元いた世界との時間には隔たりがあり、その差は実に60倍。


 異界で1分いてもあちらでは1秒しか経っていないのだ。


 地面には赤錆色の水溜まりや粉々になった黒い墨のようなものがこびり付いた白い固形物が大量に散らばっていた。


 その全てはクリスティの行ったおぞましい実験の結果であり、それを最前列で見ていた騎士や兵士、そして貴族たちは白い顔をして見つめているしかなかった。


 何しろこの異界ではイェーガーとクリスティがルールであり、抵抗してもすぐに鎮圧されてしまうのである。


 いくら2対2万の圧倒的物量を誇るラフティル公爵家側貴族連合軍は何の抵抗も出来ずにただ検体としてその身を捧げる以外方法はなかった。


 祈るとすれば、魔力量が限りなく少ない者達が中心に検体にさせられているため、貴族たちは自分たちにどうか回ってくる前に実験が完成することだけである。


 騎士たちについては相手の抵抗心を根こそぎ奪い取るための策であり、ものの見事に成功していた


「まあ、異界だしにゃあ~。

 さすがに2万もモルモット置くのにゃあの研究所(ラボ)じゃ足んねえのは丸分かりだったしぃ?

 とはいえまぁ餌も足んなくなったら共食いでもさせときゃどうにか何じゃねーの?」


 食料は全て内戦時にラフティル公爵家が用意した兵站を使用しているが、それが終わっても実験は続くだろう。


 基本この実験はクリスティが―――イェーガーは見物か検体を持ってくるか適度なアドバイス程度しかしないため―――率先して自分から捌いている事から、その意欲が尽きることはない。


 ―――内戦を引き起こし、不審がられない様敵を殲滅させたのは、全てはこのため。


 最終的な実験はやはり大量の人間(モルモット)を使った試験的運用を考えたクリスティが導き出した答えであった。


『刻印術式』を真に完成させるため、クリスティはこの機を逃すまいと実験に没頭していた。


 すでに千近くの実験を繰り返して遅々としか進んでいない研究成果だが、クリスティの表情には疲れた様子はない。


 むしろ研究が進んでいるということもあってか、実験の度に狂気的な笑顔が覗く様になっていった。


「失敗失敗また失敗。

 …けどいいわ、まだまだ検体はあるのだもの」


 クリスティは最後の騎士に針を向けた。


 すでに磔にされている騎士はやめてくれと懇願していたが、クリスティの耳には入っていない。


 下着を残して肌を露出している騎士の背中めがけて針を刺す。


 束にして刺しているためその痛みは身を捩り呻き声を上げるほどだが、クリスティは淡々とこなしていく。


 身体強化によって高速で彫っていくため、1度の施術は5分もかからない速さだ。


 痛みに負ける者は大抵これで失神してしまうが、この騎士はどうやらしなかったようである。


 彫りも最後になってくると身を捩る気力と体力が尽きており、名も知らない騎士はただ涙と嗚咽を垂れ流すだけとなっていった。


「……出来た。

 さて、少し離れましょうか」


 成果の確認は最初間近で行われていたのだが、ほとんどが爆散(・・)して服を汚すため今では少し離れて経過を観察していた。


 騎士の背中に施した奇怪な紋様が変質を始める。


 周囲の魔力を吸収し始め、体の血管が浮き上がるほどの苦痛に苛まれているのだろうか、獣のような叫び声を上げた騎士はよろよろと立ち上がるとそのままおぼつかない足取りでクリスティたちを目指していく。


 1歩、2歩、3歩と続く。


「あ…がが、ぎぃ」


 既にまともな言葉も紡げない騎士の顔は苦痛で歪んだ状態で固定されている。


「…ダメねアレ、失敗だわ。

 単純な術式だったからもう少し足取りや副作用も減っていると思ったんだけど…イェーガーはどうみる?」

「あーお嬢、あの騎士に彫った術式は結構いい出来だったぜよ?

 失敗なのはあの騎士があの痛みに耐え切れていないだけだっちゃ。

 次からは痛みに強そうな奴で尚且つ魔力量の少ない奴を探せばいいわけっちゃ」

「…あ」




 ぱんっ。



 質量感のある生々しい水飛沫が起きる。


 クリスティはその場を見向きもしない。


 すでに次の検体の条件に合う人間にどうやって施術をするか、それだけを考えていたのである。


「う、うぉえぇぇぇぇっ!」

「ひどい、あんまりだ」


 最前列にいた貴族たちが吐きながらも感想を述べているが、クリスティは機械的な眼で少し見ただけで済ませて実験を進めていく。


 すでにクリスティにとって彼らは実験材料に過ぎない。


 辛うじて話す気があるのはラフティル公爵家当主、コーゼム・アインス・ラフティルだけだ。


 そして実験は、まだまだ続いていくのである。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 異界内部時間にて3日。


 検体を殆ど使い切り、後は500もいないほどに消費していた。


 1万を越えた辺りから生存するものが増え始めていたが2日目で爆散するものがいたため、検体を除く生存者はわずか200といない。


 結果としては、魔力量の少ない者達の魔力ステータスは平均でB-を超える者たちばかりであり、その成果は十分といえた。


 他のステータスは残念ながら低いが、それはまだ伸ばそうと思えば伸ばせなくもないものである。


 ステータスにおいて、魔力とは生来の資質が特に顕著なものであり、その壁は果てしなく不落なのだから。


 クリスティの研究と成果は実証され、歴史にその名を残すことはまず間違いないだろう。


 しかし、そんな状況などお構い無しに、彼女の実験は続いていた。


「…イェーガー、次は?」

「あとはもう貴族とその親族連中、それと魔力量の多いのしか残ってねーからどっちみち失敗するぜい?」


 イェーガーの言葉が聞こえたのか、希望が見えてきたのか貴族たちの表情が目に見えて明るくなったが、クリスティの無慈悲な言葉が降り注ぐ。


「何を言っているのよイェーガー。

 人的資源(・・・・)は有効活用しなくっちゃダメじゃないの。

 どうせ生かしたところで私のしたことがバレルと…後が厄介だし、証拠隠滅も兼ねて実験するわ。

 とはいえ、魔力量の多い検体は既に魔獣で実証済みだから殆ど用なんてないんだけど、まあ彫りの練習には使えるだろうし、いいとするわ」

「そ、そんなっ!!」

「あんまりだっ!

 せっかくここまで生きて出られると思ったのにぃッ!!」

「お前には人の情というものがないのかぁっ!?」

「人の情?

 失礼ね、それくらいあるに決まっているじゃない。

 だけどそれって、別にお前たちに使う必要性を感じられないわよね?

 だって貴方たちは私を殺そうとしようとしたわけでしょ?

 殺そうとした連中を生かしておくほど、私は甘くないわ。

 敵に情けをかけるという行為は、遠回しに自分の首を絞めることになるの。

 冥土の土産に覚えておくことね」


 生き残りたちの言う所の『人の情』という言葉に反応したクリスティが少しだけむっとして答える。


 クリスティにしても、まだあと500近くある検体を何もせずに生かしたまま放置するなどそれこそ正気の沙汰ではない行為なのだから。


 研究はもう9割は完成している。


 残りの1割は生き残っている検体たちがいつまで生き残れるか。


 現在はイェーガーの時の魔法で10年ほど経過しているが、激痛に苛まれているという様子はない。


 精神汚染も見受けられないし、魂が歪んでいるということもないのだ。


 そして何故かは分からないが、生き残った検体たちは総じてクリスティに忠誠を誓っていて、クリスティとしては裏切る可能性の低い駒が出来たと思うのであった。


 最初イェーガーが何かをしたのではと思ったが、当の本人も首を傾げていてよく分かっていないらしい。


「ま、まってくれ、いや、ください!!

 貴方様にお話があります!!」


 そう声をかけてきたのは貴族たちの中でもっとも豪奢な鎧をつけた壮年の男性であった。


 クリスティはその人物に心当たりがあった。


 リンデンバーグ家に、クリスティに宣戦布告をした張本人、コーゼム・アインス・ラフティル。


 後ろにいるのは以前召喚獣を殺されたウィリスであった。


「殺さないでくれるのでしたら何でも、何でもさせていただきます。

 さ、幸いにしてわしは公爵、貴方様が望むのならその権力を如何様にして利用してくれてもかまいません!!

 どうか、どうかわしと息子の命だけは、見逃していただきたい!!」


 コーゼムは心が折れたのだろう、自分たちが一体何を相手にしたのかを。


 この広大な異界を作り出し尚且つ2万の軍勢を軽く制圧してしまう凶悪な英霊イェーガーに。


 正気で、狂気であのような身も毛もよだつおぞましい実験を休む事無く延々と続けるクリスティに。


 それを見せ付けられ、コーゼムは抵抗心、対抗心といったものが根こそぎ破壊されてしまったのである。


 周りの貴族からは避難と罵声の嵐が巻き起こっているが、コーゼムからすればここでクリスティに惨たらしく施術をされるよりはましだということが分かっているのだろう。


 後悔するのが遅すぎる、とクリスティ辺りは思ったが、所詮はそんなものかと呆れることもなかった。


 ただ、ここにいる貴族の殆どが危機意識のない家畜と同程度、あるいはそれ以下の存在だった、それだけのことだと悟ったのである。


「…そうね公爵、貴方たちだけは生かしてあげましょう。

 けど、保険はかけさせてもらうわ」


 クリスティはウィリスを指差す。


「彼に術式を彫り込むわ、特に複雑で強力なものをね。

 それが成功すれば召喚獣無しでも十分な力となるのはまず間違いないわ。

 痛みに耐え切り、狂わなければその時はまあ好きにするといいわね」


 どう、とクリスティが軽く聞くと、コーゼムとウィリスは一も二もなく首を縦に振った。


 生き残れるのならあのおぞましい実験に身を委ねてもかまわない、そう思えるほどに彼らの精神は逼迫されていたのである。


 どうしてウィリスなのかといえば、実験の経過から一定の年齢の過ぎた者のほとんどは全て失敗しているのである。


 実のところクリスティの実験の後半を見て成功確率はかなり低かったが、それでも縋りたかったのである。


「あ、ああ、おねがいします!!

 あの時の事も謝る、謝ります!!

 だから…だから殺さないでくれ、お願いだっ!!」

「はっ、あの高飛車な坊やが今じゃ鼻水たらしながら懇願するだなんていい見ものだわ。

 けど…まぁ覚悟があるのならいいとしましょうか」


 ウィリスの魂からの叫びに鼻で嗤ったクリスティであったが、それでも言質はとった。


「そこに這い蹲りなさい、この場で施術してあげる」





 結果として、ウィリスは施術に成功した。


 魔力ステータスもクリスティに匹敵するA+という英霊並みの魔力も保有し、あまりの痛みに失神してはいたが、それでも彼らは賭けに勝った。


 クリスティは嗤う。


 コーゼムはウィリスを抱き寄せて泣きじゃくっていたが、クリスティがうっとうしいとばかりにイェーガーに言って一足先に元いた世界に戻すように命じる。


 クリスティがコーゼムにした約束(・・)はたった1つだ。


 クリスティ(じぶん)に反抗するな。


 それは言葉によっては如何様にも考えされられる曖昧な約束であったが、コーゼムは受け入れるしかない。


 少しでもこの約束に反したが最後、彼らの辿る道は既に示されているのだから。


 かくして、『狂境内戦』終結して数日の間に起きたこの事件は歴史の闇として葬られることになる。



感想、レビュー、評価などなどくださると作者が悶え喜びます。

よろしくお願いします。

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