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戦場パーティを開始します

年内最後の投稿です、今年も1年色々ありましたが、ご愛読誠にありがとうございました。

次回の投稿は、3が日以内と予定しておりますので。

 



 カッツェ平原、そこはリンデンバーグ侯爵領とラフティル公爵領を跨いで存在している広大な平原である。


 古戦場としても有名で、バルトリム王国の最初の王を決める際の最初にして最後の土地として歴史書にも記されていた。


 そんな歴史ある土地で、ある5人が暢気にも軽食を取っていた。


 魔法で作られたテーブルと椅子に座っているのは3人。


 ―――1人は頭のおかしい英霊の主となってしまったクリスティ。


 彼女は昨日のバベルワームとの戦闘での疲れなど無かったかのように貴族らしからぬ手づかみでパンや非常食として買い込んでいた干し肉を食べている。


「…イェーガー、そこのパンを取って。

 卵と肉も挟んでおいて」


 ―――1人はテーブルと椅子を作り出した【猟兵】イェーガー。


 戦争と女―――極稀に男も―――が何より好きな、頭のおかしい英霊である。


「お嬢、カロリー摂取しすぎて太るぜ?」


 ―――1人は椅子には座っておらず、クリスティとイェーガーの間に立っている使用人レーヴェ。


 彼はクリスティが貴族らしからぬ食事の仕方を見てマナー違反だと言いたかったのだが、ここではクリスティがルールである以上、胸に出来たもやを仕方なくイェーガーにぶつけていた。


「イェーガー殿、お嬢様は太りません!!」


 ―――1人はそんなレーヴェの発言に半ば呆れながら紅茶を飲んでいるクリスティの将来の部下ジョナ。


 彼女は今にも突撃してきそうな貴族連合軍の光景に半ば陰鬱とした気持ちで椅子に座っていた。


「…レーヴェ、クリスティも人間よ?

 普段以上に運動しているからお腹空くのも分かるけどね」


 ―――1人はクリスティとジョナの間に立っている使用人バーレン。


 彼はこの中で最も良識的なのか、せわしなくも辺りを見回して警戒を怒っておらず、すぐに貴族連合軍の異常に気づいた。


「…あ、領邦軍の方から1人前に出てきましたよ!?」


 バーレンが領邦軍のある陣を指差した先には、仰々しい装備をした騎士がなにやら叫んでいた。


 とはいえ誰もその内容をまともに聞こうともしていない。


 そもそも遠足気分で戦争に来る面子―――ジョナだけは激しく否定するだろうが―――である。


 大方宣戦布告の内容を騎士が領主であるラフティル公爵に代わり代弁しているのだろうと当たりをつけていて、クリスティの耳にはまるで届いていない。


「……こっちは食事中で忙しいのよ。

 バーレン、あとで報告しなさい」

「は、はい、わかりました!」

『やあやあ我こそはラフティル公爵家領邦軍が騎士アレク・アハト・ヴィンターなりぃっ!!

 リンデンバーグ家が誇る最強の剣士、銀閃クリスティに一騎打ちを申し込むぅぅっ!!』


 と、バーレンが報告する以前に何らかの魔道具か魔法を使っているのか、大音響でクリスティたちの耳に届いてしまっていた。


 バーレンはどう報告すればいいのか、あわあわとしながら考えた末、


「…え、えっと、だそうです」


 イェーガーはバーレンの報告(・・)がツボに入ったのか、ぎゃはははは、と笑っている。


「お嬢、確かこの世界の戦争のルールって確か魔法とか矢を撃ち尽くした後に兵隊とか騎士とかが突っ込んできて、最後の最後に一騎打ちするんじゃなかったけか?」


 イェーガーの質問、というより確認にクリスティは無言で頷く。


 クリスティは最初の文言など最初から聞いていなかった為知らないが、一騎打ちを申し込んでいる騎士の言い分は要約するとこうである。


『こちらの軍は圧倒的なので、ハンデとして一騎打ちで勘弁してやる。

 そちらが勝ったら引いてやるが、負ければ全軍突撃するのでそのつもりで』


 という、あからさまに上から目線の物言いであり、すでに勝者の様な言い分にクリスティがもし真面目に聞いていれば間違いなくイェーガーに大規模殲滅魔法を叩き込めと真顔で命令したくなるような発言である。


「…リンデンバーグ家は魔導の名門なのに、最強の剣士っていわれても…いまいちピンとこないわね。

 …イェーガー、もしかして私バカにされているのかしら?」

「もしかしなくてもその通りじゃんよお嬢。

 身の程知らずなおバカ貴族が哀れな|子羊(騎士)に台本読ませてるみてえだがよ?」


 クリスティはイェーガーの返しにはぁとため息をついた。


「食事を終えてから考えるとするわ」


 ため息をついて出てきた答えはそれだけであった。


 ちらりと見ただけであったが、口上を述べている騎士は騎士爵位を名乗って入るがそこまで優秀な騎士にはクリスティには見えていない。


 代々騎士爵位を受け継いできたラフティル公爵家の陪臣か、あるいはクリスティの予測が外れて何らかの強力なスキルを保有した優秀な騎士か。


 前者であればクリスティのやる気はダダ下がりであるが、後者であれば良い踏み台(・・・)になるだろうと思わず笑みも零れるというものである。


『返答を聞こおぅっ!!

 まさか音に聞こえし銀の刃がサビ付いているのではないであろうな!?』


 念押しのようなアレクの発言がクリスティの癇に障ったのか、


「………はぁ?」


 普段からは考えられないような声と表情が現れてしまった。


 イェーガーを除いた3人が思わず顔を白くさせてしまうほどで、特にバーレンなどは薄っすらとだが目元に涙を浮かべかけているほどである。


 羅刹、あるいは鬼女、あるいは―――夜叉。


 全身を襲う寒気が幻覚なことをその場にいた3人は安堵した。


「…お嬢、美少女がそんな顔しちゃみんながちびっちゃうぜい?」

「…イェーガー、ちょっと散歩(・・)してくるから、残りの食事は食べてもいいわよ?」

「ちなみに行き先を聞いてもいいかえ?」


 イェーガーが軽い調子で尋ねると、クリスティは先ほどとは違い冷静であった。


「ちょっとそこまで、よ」


 ―――そう、触れれば爆発しそうなと注釈されるほどに、クリスティの怒りの沸点は低くなっていた。


 クリスティはそう言い残すと魔剣【フレイ】を抜き、魔弓【フェイト】を手に持ったまま一直線にある方向へ歩いていく。


 奇しくもその方向には先ほどクリスティに暴言をはいたアレク何某がいまだ叫び続けており、誰が見ても何をしにいくのかは丸分かりである。


「―――あ、思い出したっ!!」


 思い出したかのようにレーヴェが声を上げた。


「んー、どうしたじゃんよダメ執事ワンコ。

 さっきのヴェイネ肉のパイ包みは食っちまったぜよ?」

「そうじゃないですよぉ!!

 あ、でもそのパイ包み食べたかっだです!」

「どっちなの?」

「ていうか先輩、少し落ち着いたほうがいいです」

「だってよ、ぎゃはははは!!」

「あーうーもう!!

 あのアレクっていう騎士、確か去年の王都で主催された武芸大会で優勝した人ですよ!?

 ラフティル公爵家が勧誘して今じゃ中隊長待遇で迎えられた凄腕です!

 下手したらお嬢様よりつよ…!?」


 爆発音がしてレーヴェの言葉が中断された。


 爆発のあった方へと4人が目を向けると、そこにはある意味予想された結果が出来上がっていた。


 あれほど自身あり気な調子で叫んでいたアレクはうつ伏せで倒れこんでしまっていて、豪奢な鎧や無駄に高そうな魔剣は柄を残して粉々に砕かれていた。


「…アレ?」


 レーヴェが首をかしげて視線の先にあるものが理解できないのか、眼が点になって固まっている。


「ぶっふぉっ!

 おいおいダメ執事ワンコ!!

 なんかお嬢のこと心配してたみてえだけど、全然心配ねえじゃねえかよ!!

 つうかあの程度のザコが国一番の剣士とか冗談も程々にしろよオイコラ!!」


 爆笑し、説教し、最後に逆切れしたイェーガーに他の2人も同意した。


 大層な肩書きを持ったアレクではあるが、武芸大会、しかも魔導師(・・・)の国として名を馳せているバルトリム王国において、タダ(・・)の剣士にそこまで期待すること自体が間違っているということに、レーヴェは気づいていなかった。


 そもそもバルトリム王国において武芸というのは殆ど目を向けられていない。


 武芸といわれて国中の民が連想するのは魔導騎士、あるいは唯一の例外といってもよい武の名門テスタロッサ伯爵家のことを指すのである。


 魔法も使わないタダの武芸大会で優勝したところで、その武芸者が強いのかといわれれば、普通ならば強いというだろう。


 魔法を使わずに己の肉体と技術、そして気力で相手を打ち倒し続けて頂点に立つ。


 この国(・・・)でなければ、それは国中でも名声を博するほどなのはまず間違いない、と付け加えるしかない。


 どこまで行ってもこのバルトリム王国は魔導師の国。


 少々剣に自信があるからといって、近接戦に特化した魔導師であるクリスティに勝てる要素など、最初からなかった。


 クリスティはバルトリム王国で開かれている武芸大会に出場したことはない。


 そもそも参加しようという気すらなかった。


 あんな見世物のような大会で、しかも実戦からは程遠いほどの御粗末な剣術で打ち合うなど、クリスティを始め剣の道に少しでも心得のあるものならば間違いなく恥ずかしくて参加できないと思ったからである。


「…ま、そんなところだろ?

 魔導師の国で武芸者―――剣士か、まあどっちでもいいけどヨ―――優勝っていっても、それより上の魔導師(れんちゅう)がこの国にはワンサといるんだぜ?

 他の国じゃ通用してもよぉ…この国じゃむしろ良い的ジャン」


 事実遠距離からの魔弾でアレクは決闘らしい決闘もできずに地に伏してしまった。


 確かに並みの魔導師では詠唱中に接近されて喉を切り裂かれるなり、何らかの妨害を受けて魔法を中断されるといったことは間々ある話ではある。


 が、並以上となれば例え接近されても無詠唱魔法の1つや2つ発動させて相手を吹き飛ばすことなど簡単に出来てしまう。


 そして距離をとって魔法を放てばそこで終わりである。


「…そうでしたね、お嬢さまが負けるなんてありえませんよねえ。

 あ、あは、あははははー………。

 ちょっと小腹が空いたので何か摘まんでもいいです?」


 魔弾が連続して射出されて倒れているアレクに命中しているが、誰も止めようとはしない。


 したが最後、どうなるかがすでに実証されているのだから。


『やあやあ我こそはラフティル公爵家が騎士、ムハビ・アハト・セプテーンなりぃっ!!

 次は我が相手になろうぞ、銀閃よ!!』

「あら、連戦だったみたいね。

 今度も騎士だけど…さっきのよりは強そうね、油断はしていないみたいだし」


 ジョナがポツリと呟いたが、そこにはクリスティを心配などしていない様子で紅茶を飲み干す。


「で、でもずるくないですか!?

 お嬢様はもう1人騎士を倒したのに、連戦で戦うだなんて卑怯です!!」


 バーレンが声高に叫ぶのだが、そもそもこの戦争が一体何を発端にしたのか、どうやら忘れているようなのでジョナが呆れながらも応えていた。


「あのねえバーレン、元はといえばクリスティがここまでの規模の内戦を引き起こしたのよ?

 ラフティル公爵家は跡継ぎをダメにされてブチ切れてるわけ。

 そこをクリスティを狙っての一騎打ちの連戦…まあ丸分かりよね。

 あいつら、クリスティの体力切れるまで連戦を仕掛けるわよ。

 それこそ兵士なんて万単位でいるんだもの、ザコを100や200も刈り取っても、まだまだいるわ。

 …まぁ、クリスティがいつまで律儀に一騎打ちするかは別としてね。

 イェーガー、あんたクリスティと念話で連絡取れる?」

「できるぜよ?

 ちなみにお嬢はぼけっとしながらも2人目はっ倒してるから、すっげーヒマしてるぜ」


 イェーガーの言葉にジョナがくすりと笑っていた。


 実際ムハビと名乗った騎士は剣を打ち合って五合もせずうちに右腕を潰され、最後に左膝を砕かれた。


 アレクが倒れこんでいる場所に放り投げると、小さな呻き声と共に重なるように積まれていた。


 次の騎士が名乗りを上げて3戦目が始まる。


 これをいつまで続くのか。


 それはクリスティの気分次第である。



感想、レビュー、評価などなどくださると作者が悶え喜びます。

よろしくお願いします。

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