真っ赤な花を咲かせましょう
一方的である。
魔剣を振れば大抵の召喚獣は首を刎ねられ、魔弓のトリガーを引き絞れば胴に風穴を開けられる。
接近戦を挑むが殆どの学生は剣一筋で生きてきたクリスティと比べるとまるで話しにならない様な剣術で魔法を使う余裕も与えられず頭部を殴りつけられ昏倒した。
剣にしても装飾が目立ち戦いに際して使うようなものではなく儀礼的なもので、そういった剣は大抵クリスティの魔剣の圧力に耐え切れず粉々に砕けてしまう始末である。
遠距離から魔法をクリスティに向かって放つが、魔剣で炎弾や水弾、更には視認し辛いとされる風弾すらも斬り捨てるという離れ業をやって見せ、クリスティに傷一つ付く気配はない。
時間が経つごとに死屍累々、屍山血河、闘技場の床は召喚獣たちの血肉でばら撒かれ黒々としていた。
これを見た観客側は気分が悪くなり観客席から出て行く学生が続出したが、それでも見続けているのは学生たちの中でも成績上位の者たちである。
その中でも魔導騎士科主席、ヴォルフガング・ドライ・テスタロッサはこの決闘を誰よりも深く熱心に見続けていた。
リンデンバーグ家と並ぶ名門にしてバルトリム王国が誇る”武”の大家である。
ヴォルフガングはその本家筋の継嗣、次期伯爵であった。
ヴォルフガングはクリスティとウィリスたちの決闘をじっくりと観察している。
三白眼に強く引き締まった唇、頬に付いた切り傷と厳格な表情は余りにも歴戦の戦士を思わせるに十分であった。
同じ10代なのかと疑問視されているが、ヴォルフガングは今年で16歳である。
「…一方的だな」
重苦しい空気と共に吐き出された一言であったが、様々な苦悩を感じさせられる一言である。
「だね、いやはや、これはまたすごいね、王国が揺れる一大事だよ。
って言うか衝撃の余りお家のお取り潰しもあるんじゃない?」
と軽くヴォルフガングの言葉に相槌を打って見せたのは魔導騎士科次席、ルーディー・フィーア・リスデン。
女子に負けない容姿とその柔和な表情を崩さず微笑を絶やさない彼には学生の間でファンクラブもあり、学院でも知らないものはいないとされるほどの有名人である。
いろいろな意味で有名な2人は、この惨状を見ても特に気にしたりせずに戦いを見続けていた。
「開始してからまだ1時間も経っていないのに、もうウィリスたちの人数半分以下になっちゃってるよ。
対してあっちのクリスティちゃんの方は相棒の英霊が応援してるだけで1人で楽々対処中。
なんというか、ウィリスが仕掛けたのは知っているけど、この惨状を知るとちょっと可哀想に思えてくるね」
ふぅとため息をついたルーディーであったが、あまり同情的ではないのは本人もウィリスに対して良い思い出というものが無いからである。
「しかも残っている面々も殆ど戦意自失状態だ、後は草刈りの要領で刈っていけば終わるだろう。
なんにせよ、勉強になったな」
と後の次第を冷徹に予測したヴォルフガングは軽く頷く。
すでに消化試合となっているが、ヴォルフガングの視線にはクリスティが見えていた。
「え、なにが?」
ルーディーは分からなかったのか、どういうことかヴォルフガングに尋ねた。
「魔導騎士のある意味、理想系というものがだ。
俺達学生にはやはり経験というものが足りない。
だから強力な魔法という安易なものを頼りたがる。
だがしかし、それではいざ魔法に耐性のある装備をした者や魔獣を相手にした時、どうしても剣を抜かざるを得ない。
そのとき、腰の入っていない剣を振っても結果は見るも無残なことになるのは間違いない」
対してクリスティといえば近接戦においては近衛騎士すらも圧倒するだけの実力を有し、遠距離については魔法こそ使えないもののあの魔弓があるのである。
ヴォルフガングは自分の家が武の名門とあってやはり武術については他の学生より頭1つ、否、2つは抜けていると自覚はしていたが、クリスティの立ち回り振りをみてまだまだ精進が足りないと羞恥で頭がいっぱいになった。
「…ああ、なるほど、ちゃんと両立しないといざってとき困るからねー」
理解できたのか、やんわりと頷いたルーディーは手をひらひらと振って笑ってみせる。
「僕個人としては魔導師科に今すぐにでも行きたいんだけど、お父様が許してくれないからねー。
体を動かすのは好きじゃないんだよ、髪が乱れるし」
ルーディーは生まれつきステータスがクリスティには及ばないものの他の学生と比べると非常に高く、父である子爵に強引に魔導騎士科入学させられたのである。
なまじ才能もあってか次席から落ちることなく数年を過ごすあたり他の者からすれば何が不満なのだという話なのだが、本人は至って真面目に魔導師になり研究をしたかったのである。
新しい術式や古い時代にある碑文からかつて使われていた魔法を復活させたり、いまだかつて造ったことのない魔道具を造ったりといったことをしたかったルーディーからすれば、体を動かすわ血生臭いわ汗をかくわで良い事等1つもないのである。
そんな不謹慎な理由でもヴォルフガングはルーディの魔導への熱意を知っていてか特に言おうとはしない。
「…あぁ、それにしてもあの魔剣と魔弓はすごいなぁ。
一体どういった術式を込めているんだろう。
今度一度でいいからバラして…いやバラすのはいいから近くでじっくりと見せてほしいな。
あれはきっとすごいものだ、ヴォルフもそう思わないかい?」
「…そうだな、あの魔剣は興味深い。
相手の都合も聞いて、今度じっくりと話を聞きたいものだ」
そんなルーディーの言葉にヴォルフガングも生返事ながらも頷いていた。
会場が光りだし、その中央には真っ赤な英霊が立っている。
応援に飽きたのか英霊が何か起こすようだ。
「…うわ、何あの魔力、この国の魔導炉より出力高いんじゃない?」
呆れた声を上げたルーディーはその微笑にひびが入りかけていたが、辛うじて保っている。
ヴォルフガングはイェーガーの魔力に片眉を上げて驚いているようである。
そして会場にいる学生・講師たちは改めて知ることになる。
この世に顕現してしまった最悪の暴威を。
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「お嬢、暇なんだけど?」
「…なら少しは草刈り手伝いなさい、雑草が多くて困っているのよ」
イェーガーの気の抜けた声に若干疲れた声で返したクリスティは、何でもいいからさっさとしろと合図した。
「ざ、雑草だと!?
言うに事欠いてキサマ!?」
ウィリスはこの劣勢の中クリスティの言葉にいきり立ってクリスティに攻撃を集中するように命じたのだが、この惨状に尻込みしてか誰も率先して攻撃魔法をクリスティに向ける事はない。
クリスティは基本的に攻撃してきた学生の前にいる召喚獣―――壁役となっているのは大抵がその学生の相棒なので―――に魔弓で率先して撃ち殺して対処していたからである。
「お嬢、リクエストはー?
とりあえず派手なのはもうお嬢ので十分やったし呆気無いので終わらせよっかねえ?」
今回は引き立て役になろうと思ったのか、それともさっさとこの飽きた場所から立ち去りたいだけなのか、イェーガーの考えはクリスティには分からなかった。
「ド派手なのがいいわね、闘技場に太陽が出るくらいすごいのが良いわ。
あ、でも私が死ぬしそれはダメよね、見れないわ。
そうね…召喚獣限定で全部同時に殺して、私は特等席で見ていたいから準備が出来たら戦線離脱するわ」
主従共々最悪な掛け合いで、それが聞こえた対戦相手たちは今度こそ戦意が根こそぎ折れてしまった。
すでに召喚獣を失っていた学生は半ば自棄でクリスティやイェーガーに魔法を放っていたが、
一向に効果が見られないとあり、もう諦めてへたり込んでしまっていた。
「オッケーだぜお嬢、オーダー承った!!
そういうことならとっておきがあるぜよ♪
景気付けに詠唱もやっちゃるぜい」
「ちなみにどんな?」
興味本位で聞いてみたクリスティであったが、イェーガーの答えは実に簡潔で、
「めっさグロイのやで」
という身も蓋も無い酷いものであった。
「「「い、いや、いやだあああああああああああああああああああっ!?」」」
絶叫しながらも残った学生たちは召喚獣と共にイェーガーに集中砲火を仕掛けた。
召喚獣もみすみす死にたくは無いのか全魔力を攻撃に当てているが、イェーガーが展開している障壁には傷一つも、むしろ埃すら付かないほどの強度でまったくの無意味といってよかった。
『棺を用意しよう
いくつだって?
いっぱいだ!!』
イェーガーの詠唱、のような言葉と共に何も無い空間から真っ黒な棺が現れる。
数は18個。
奇しくもそれは残りの召喚獣たちと同じ数であった。
空間が震え始めた。
この現象は高密度の魔力が一箇所に集中した際に起きるもので、普段は自然現象の1つとして数えられていたものである。
それを魔法の行使、しかも前段階である詠唱で引き起こしているイェーガーは酷く楽しそうにしていた。
『次に剣を用意しよう
いくつだって?
もちろんたくさんだ!!』
イェーガーの詠唱と共に今度は大量の剣が現れる。
刀身や柄の部分さえ全て黒の気味の悪い剣でしかもその全てが魔剣である。
『棺が空っぽだって?
それは大変だ!!
急いで中身を入れないと!!』
ぎぃ、という軋んだ音がする、棺が開く音だと誰もが聞こえ、そして見てしまった。
棺の中にはびっしりと大量の目が所狭しと張り付いていたのである。
「―――っ!?」
学生たちの絶叫が響こうとしたが、なぜか響くことは無い。
イェーガーが楽しみを邪魔されたくないと遮音していたからである。
『『あああああああああああああああ!?』』
そして聞こえてくるのはその学生たちの相棒である召喚獣たちであった。
1体1体が棺おけに強制的に引き込まれると、ウィリスの召喚獣『力天使』が最後に引き込まれていった。
「―――っ!!
―――、―――!!」
ウィリスが顔を真っ赤にして何か叫んでいるようだが、クリスティには遮音されていて何を言っているのか分からなかったが、他の学生と似たようなもので『やめてくれ』という懇願なのだろうと思うことにした。
喩えそうだったとしても、クリスティの答えは『絶対にイヤ』となっていただろうが。
「お嬢、そろそろ特等席にいろよ、もうすぐド派手なのだすばい」
「そう、なら少し離れておかないと。
けどイェーガー、これなんとなく地味な気がするんだけど?」
クリスティは棺に剣と見た目がなんとも地味なものばかりで、これのどこが”ド派で”になるのか小首をかしげていた。
「ま、まぁ、そこは最後のお楽しみだってばよ!!」
明らかに慌てているイェーガーだが、明らかに演技なのは他人の機微に疎いクリスティにも分かったので、特に追求しようとはしない。
『棺に剣を納めよう
何故かって?
見栄えがいいからさ!!』
ロクでもない詠唱は続き、詠唱通りに黒い剣は棺の中央に深々と突き刺さりそのまま貫通する。
『おっといけない忘れ物だ!!
葬儀に一番大事なものだ!!
それは…!!』
急速に魔力が棺に収束し始める。
しかも高密度の魔力で、観客席からも肉眼で視認できるほどにそれは形を成し始めていた。
紅い魔力が剣に集まる。
『手向けの花だ!!』
棺を覆い隠すほどの紅い魔力は次第に紅い薔薇の形を形成していく。
学生たちが泣き崩れていく、あの紅い魔力が一体何なのか、学生たちにはすぐに分かったのである。
あの紅い魔力は棺の中にいる魔力を核に周辺の魔力を吸収していったものだったのだから。
大輪のバラは咲き誇ったと同時に弾けていく。
同時に棺も剣も木っ端微塵になったのか、黒い欠片がちらほらと紅い魔力と共に弾けていく。
世界中どこを探しても見つからない、文字通り命を懸けた芸術である。
クリスティも満足したのか、控えめだが拍手していた。
「よくやったわイェーガー、最初は地味なのかと心配したけど、十分ね。
いいド派手っぷりよ」
観客は自分たちの見たものが信じられないのか、言葉を失っていて闘技場は静寂としていたが、クリスティの小さな拍手が寒々しいほどに良く響いた。
「そうね、全員立ったまま気絶しているようだし、勝敗は付いたからかえるとしましょう」
クリスティはこの後どうなるかすでに予想していた。
学院はこの事態を間違いなく看過しないだろう、必ずクリスティに何らかの制裁措置をとるのはまず間違いない。
何しろ学院の貴族学生、しかもかなり上位の貴族家の子息子女の召喚獣を皆殺しにしているのである。
「…ああそうそうイェーガー、貴方1人で戦争出来る?」
責任の追及の矛先はまず間違いなくクリスティの生家であるリンデンバーグ侯爵家にも波及するだろうが、クリスティの父でありリンデンバーグ家当主であるダニエルはこの責任をとることは無い。
たとえそれが2大公爵家の一角であるラフティル公爵家であろうとそれは変わらない。
全ての責任は今回の決闘の挑戦者側、ウィリスが仕掛けたことで、クリスティはその挑戦を受けて撃退しただけに過ぎない。
『子供同士のケンカに親が出しゃばるなんて非常識』とミハエルあたりならばそう切り捨ててしまうだろう。
「お嬢、そんな楽勝な事聞くなよ
戦争なんて一大イベント、独り占めしなきゃ損だろ!!」
たとえ実力行使を仕掛けてきたが最後、この最悪な英霊は嬉々として戦場を文字通り真っ赤に染めてしまう、間違いなく。
召喚獣の死亡というだけで召喚主である学生たちは生きているのである、自分ではないのだから喜ぶべきところなのだが、そこまで考えられないのだろう。
「ふふっ、今回も十分な功績となるに違いないわ。
未熟とはいえ召喚獣、しかも天使や精霊種すらも容易く屠れるこの実力を。
…早く卒業したいわね」
そして魔導騎士団入団試験に挑戦したい、とクリスティは内心で呟く。
静寂で包まれている中、最悪な主従の笑い声が染み渡るように響いていった。
感想、レビュー、評価などなどくださると作者が悶え喜びます。
よろしくお願いします。




