決闘しています(主に1人で)
幻獣メルメルロの持つ能力『不可視』はランクAの判定を受けている。
ランクAならば攻撃のその瞬間まで相手が気づくことはまずないだろう。
さらには契約している主と魔力同期を果たすことで、一時的にその主にもその不可視を可能にすることも出来るのだ。
メルメルロのマスターであるフセインはまず外れないだろう至近距離、1メル(約2メートル)まで近づいて魔力を練る。
英霊でもあるイェーガーも気づいていないのか、フセインのいる場所に見向きもしない。
本来は暗殺や諜報に役立ちそうなスキルも今はウィリスのいい小間使いである。
普段は気に食わない学生の弱みを握るためにフセインを使っているが、闇討ちも頻繁にさせられていた。
平民生徒のフセインは父親の商会を潰すと脅され、仕方なく従っている派閥の最も最下層にいる学生である。
そして決闘が始まったと同時にクリスティに魔法を打ち込む。
クリスティは気づくことなく背後から中級魔法『獄炎槍』を受け、炎に包まれた。
「いまだ、やれっ!」
合図と共にウィリスが更に一斉にクリスティに魔法を打ち込むよう命じる。
見る者によってはウィリスが一瞬の隙をついてクリスティに一撃を加え、続いてイェーガーに魔法による一斉掃射を仕掛けたように見えるだろう。
しかし実際はフセインをも巻き込む形でイェーガーに魔法による攻撃を仕掛けたのである。
流れ弾でフセインに当たってもまったく気にしないような布陣にしていたのでフセインとしてはただ自分に当たらない事を祈るのみである。
しかし、そんな祈りは誰にも届くことはなかった。
いきなり襟首を掴まれたフセインはぎょっとしたが、すでにもう手遅れ。
どうやって、いつのまに。
そんなことを考えるまもなく、攻撃魔法がフセインの視界を埋め尽くしていた。
最後に見えたのは英霊イェーガーのニヤついた顔、どうやら最初から気づいていたようで、気づかない振りをしていたようである。
そして、
「盾の役目、ご苦労様」
中級魔法を受けてもなお平然と立っていたクリスティの声であった。
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風・火・水・土・光・闇などの属性を持った弾丸がクリスティたちがいた側の闘技場部分を埋め尽くす程に目標もバラバラに撃ち込まれる。
そして煙に巻かれてようやくウィリスが手を上げるようやくその攻勢が収まった。
そう、ウィリスの作戦は完璧であった。
視認出来ないフセインの背後からの奇襲、そして追い討ちをかけるようにとどめの一斉攻撃。
殆どが初級魔法であるが、数でその威力は中級以上、そして中には上級魔法まで何発も放っていて、英霊といえど耐えられるはずもない。
もし立っていたとしても無事でいられるはずもないため、更に一斉掃射をかければ決闘は早期決着を迎えたことだろう。
しかし、ウィリスの目論見は最初から砕かれていた。
視界が晴れ、倒れているはずのクリスティとイェーガーに勝者の声を聞かせようと口を開く。
「はっ、この私に逆らったりするからこんな事に―――」
「―――何か言ったかしら、間抜けなお坊ちゃんと愉快なお笑い集団さん」
酷く落ち着いた、しかし冷ややかな声が闘技場、そして観客席にまで響く。
「哀れだわ本当に、こんなに攻撃を受けてしまって。
本当に可哀想」
―――彼、あまりのショックに気を失っているみたいよ?
ウィリスとその取り巻きたちが見たのは、無傷のまま踏ん反り返っているイェーガー。
無傷なままイェーガーの横にいるクリスティ。
そして、そのクリスティに盾にされた背後からの襲撃者、フセインであった。
フセインはウィリスたちから受けた魔法を受け全身を強く打って気絶していた。
本来ならば死んでいてもおかしくない程の攻撃であったが、頭と心臓はイェーガーが仕方なく守っていたようである。
しかしフセインの召喚した幻獣、メルメルロはどこにもいない。
あるのは青い血に塗れた地面だけである。
「敵に回ると厄介だし、とりあえず召喚獣は殺しておいたわ。
そのショックの所為かもしれないけど…まぁ、いいとしましょうか」
クリスティはフセインをウィリスのいる方へまるでゴミを捨てるかのように放り投げる。
「ひ、卑怯だぞ、人を盾にするなんて!!」
ウィリスはクリスティに騎士のやり方じゃないと非難するが、クリスティの心には何も響いてこない。
むしろバカを見るような目でウィリスを諭した。
「何でもありのルールなのだから、卑怯もクソもないでしょうが…。
自分から指定してきたルールなのだから、イチイチ目くじら立てないでちょうだいお坊ちゃん。
…というかイェーガー、貴方さっき奇襲かけてきた学生の事気づいていたでしょう。
わざとほっとくなんてヒドイじゃない」
軽く睨んだクリスティだったが、イェーガーは誤解だぜといって首を振った。
「いやいや、だってお嬢わざと当たる気満々だったじゃんかよお。
しかもお嬢の装備だったら傷つかないの分かるしだったら放っておいてもいいかなーって」
そう、クリスティは背後からの魔法による攻撃を最初から察知していた。
なんでもありのルール上、正面からの一斉攻撃だけですむ筈がないと最初の布陣を見てすぐに気づいたクリスティは、背後からの攻撃を警戒していた。
案の定、背後から足音だけが聞こえてきていたが姿が見えない誰かが近づいてきており、クリスティは決闘開始と共に放たれる獄炎槍をわざと受けた。
無傷なのはイェーガーの言ったとおりクリスティの着ているローブはイェーガー製の手作りローブのお陰である。
材質不明の糸から紡ぎ出されたローブは魔法による攻撃を一切受け付けない。
限界はあるらしいが、少なくとも学生の中級魔法程度では埃も付かないというまさに超級の出来である。
更にローブの下にはライトアーマーも着込んでいて、そちらも物理防御を殆ど受けないという出来で、まさに絶対防御といえるだろう。
更にブーツや手甲には魔法付与によって敏捷や筋力、そのほかステータス上昇効果や特殊魔法などが仕込まれており、今のクリスティを倒すことの出来る者はこの国に数人もいないだろう。
ましては相手は実践など殆どしてこなかった学生たち、魔法によるアドバンテージがあろうと、勝敗は目に見えて明らかである。
なんでもありというルール上、背後からの奇襲や圧倒的多数からの一方的な攻撃があろうと、要塞と化したクリスティには何の痛痒もないのである。
「いいわけないでしょう、あなたは私の護衛なんだから、大丈夫だからってほうっておくなんてありえないわ。
お陰で手近な盾を使う羽目になるし…もういいわ、さっさと片付けましょう。
どうせ1時間もしないうちに終わるわ」
イェーガーの説教を途中でやめるクリスティは、イェーガーが何の反省もしていないところをみて諦めたようである。
クリスティが無造作に魔弓【フェイト】を構えると、ウィリス以外の後方にいる学生たちや召喚獣に魔弾を撃ち込んだ。
しかも容赦なく頭にである。
学生には配慮したのか、頭部に直撃を受けるものの辛うじて気絶で済んでいるようであったが。召喚獣には酷いものであった。
召喚獣は避ける間もなく頭部を破壊され無残な姿で闘技場にべシャリと落ちる。
幻獣や精霊が次々と殺されていき、あまりのショックに契約している学生たちの悲鳴が聞こえてくる。
「いい悲鳴だわ、もっと、もっとよ。
この私に調子くれた罪、召喚獣を殺すだけで済ませているんだもの、感謝の悲鳴を上げてちょうだい」
クリスティは魔剣【フレイ】を抜いて接近戦に持ち込むが、さすがにウィリスもそう黙ったままやられるつもりはなかったらしい。
「魔法でアレの動きを止めろ!!
ナドレ、フェルナンド、お前たちは剣であいつを止めるんだ!!」
「あ、ああ」
「わかりました!」
ナドレと召喚獣の水の精霊ウィンディーネが右から、フェルナンドと幻獣である白狼が左から挟み込む形でクリスティに襲い掛かる。
「お前たちは2人を援護しろ、反撃させる隙を与えるな!!」
「「「はい!」」」
続けてウィリスが指示を出す、今度は遠近両用から攻めるらしいが、クリスティ1人にこれだけ戦力を過剰に配置してイェーガーには何の戦力も差し向けていない辺り、目先の危機にしか対応が追いついていないようであった。
クリスティはスキル戦乙女を発動してナドレたちを迎撃する。
ナドレはナイフを両手にもってすばやく連続攻撃を仕掛けてきて、その隙間を縫うようにウィンディーネが水弾を放つ。
フェルナンドは大剣の魔剣で超重量の一撃を加えてくる。
白狼がクリスティの注意を引こうと足を噛もうとしたりタックルをしてバランスを崩させようとしていた。
ようやっと距離を取れたと思いきや遠距離からの攻撃魔法が雨のように降ってきて、休む暇もなく戦闘は続いていく。
イェーガーはその様子を観戦するだけで、援護や防御をする気配などまったくない。
むしろ特等席でクリスティを応援するつもりなのか、メガホンをどこからか取り出して『お嬢、ファイトー』と気の抜けた声をかけていた。
結局のところ、クリスティ1人でこの面子と戦うことになるのであった。
「…まぁいいわ、別にイェーガーがいなくても勝てる予定だったしね」
「すきありっ!!」
ナドレが再度接近してクリスティの背後に回りこみナイフを両手のナイフを膝裏に向かって切りかかる。
フェルナンドは大剣を振りかぶってクリスティの頭上に振り下ろそうとしていた。
いつの間にか前後左右を囲まれたクリスティは魔剣【フレイ】による戦況解析による導きに従い、その場で停止した。
魔剣を左の手甲で受け止め、魔弓【フェイト】でウィンディーネを撃ち抜く。
「ウィンディーネ!?」
ナドレのナイフが止まるとそのまま白狼を蹴り飛ばしウィンディーネがいた場所へ転がり込む。
ウィリスたち後方からの援護は一瞬遅れてしまったが、クリスティにはそれで十分である。
蹴り飛ばされた白狼は転がりながら止まり立ち上がろうとするが、すでに遅きに失した。
クリスティは魔弓を以って白狼に向けて放つ。
弾丸は白狼の胴体に直撃して胴を真ん中にして離れ離れになった。
「くっ、イリア!」
名前からしてメスだったのだろう白狼の死にフェルナンドが悲痛な声を上げた。
両名とも召喚獣を失って途方に暮れていたが、クリスティからすれば格好の餌である。
魔剣による形態変化で頭部を殴りつける、戦乙女により殺傷力が上がっているが、それでも十分に威力は抑えた一撃である。
体勢の崩れたナドレから、次いで遅れて攻撃を加えようとしたフェルナンドにも剣を弾いて即頭部に魔剣を叩きつけた。
近接戦を仕掛けてきた2人の学生はここでリタイヤとなった。
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