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それぞれの休日

いつもは日曜ですが、最近いいことと悪いことがあったのでちょっと速めに投稿♪

 

 クリスティ視点


 私が偶発的にイェーガーを召喚してから1週間が経った。


 功績を打ち立てるために冒険者ギルドで金ランク1の依頼を受け、それを半日で済ましたり。


 周辺にいる盗賊を虱潰しに殲滅しまくって王都周辺の治安を向上したり。


 非合法な薬を売り捌いている地下組織を殲滅したり。


 血生臭いことばかりしているようだけど、充実した1週間だった。


「お嬢、ちょっと今日だけ別行動してもいいか?」


 おそらく召喚して初めて自分の願いを口にしたイェーガーに、私はとりあえず理由を聞くことにした。


 正直私1人でも1日くらいならどうにかなると思っていたし、何より四六時中このイェーガーと顔を突き合わせるのは精神衛生上非常によろしくないことを、この1週間で嫌というほど理解させられたからである。


「ちょっくら娼館にでも行って来ようかと」


 しょうかん……商館?


 首を傾げた私に、イェーガーがニヤニヤしながら具体的な説明をしてきた。


「娼館っつーのは、まぁ娼婦を抱きに行くところだって。

 ギルドで話してるの聞いて思い出したんだけどよお、オレ様最近女抱いてなかったんだよ!!」


 ああ、娼館ね、ようやく分かった。


 幼い頃からギルドに入り浸っていた所為もあってか、私はかなり耳年増な面がある。


 冒険者の男がどこの娼館がよかっただの、あの女の中は良かっただの、まあ下世話な話はかなり耐性があるといってもいい。


 私と係わり合いのある話じゃないから割り切れていたけど、いざ身近になるとかなり来るわね、これは。


 けど、男というのは往々にしてソレ(・・)を溜め過ぎると良くないと数少ない友人であるジョナもそういっていた。


 何でも、使えなくなるとか何とかいっていた気もするけど…まぁいいわ、許可しよう。


「…ああ、あなたも男なのだから当然よね。

 いいわよ、ただし、帰ってきて変な臭いしていたら潰すわよ?」


 とりあえず、くさい臭い撒き散らされても困るから、念押しだけしておこう。


 幸い、盗賊や裏社会の男相手を最近頻繁に相手しているおかげか、蹴り上げるのが非常に得意になっている。


「お、オウ、了解したぜ…最近お嬢がアクティブで困るぜい」


 一瞬だが姿勢を正したイェーガーだったが、気を取り直して外へ飛び出して行く。


 よほど娼館に行きたかったのだろう、週に1度くらい息抜きをさせた方がいいかもしれないと思った。


「お、お嬢様、先ほどイェーガー殿が部屋から出て行ったのですが…何かあったんですか?

 なんだか気持ち悪い顔をしていたんですけど」


 すれ違いで入ってきたのは私のダメ執事見習い兼従者のレーヴェ。


 私に対しては丁寧だけど、イェーガーに対しては微妙にあけすけな物言いで、意外と関係は良好みたいね。


 ふと思った。


 そういえばレーヴェって男よね、つらくないのかしら?


「イェーガーとは今日は別行動よ」

「よ、よろしいのですか?

 お嬢様の護衛が今の彼の主な任務だと思うんですが?」

「イェーガーは今日は娼館に行くって言って部屋を出て行ったわ。

 私はこれからジョナと買い物にいくし、王都から出る予定はないから心配は無用よ」


 最近働きすぎなせいでおいしい食べ物も食べていないし、鍛冶師のボウリとも会わないといけないわね。


 ていうか、機械弓が完全に別物に変わったことを、どう説明すればいいのかしら。


「しょ、しょうか、しょうかんって!

 だ、だめですよそ、そんなふしだらな!!

 お嬢様も、そ、そんな恥ずかしげもなく言わないでください!!」


 あっという間にヤカンみたいに顔を真っ赤にしたレーヴェが怒っていた。


 恥じらいって…別に下品なこと言ったつもりはないのだけれど?


 あ、もしかして…、


「ねえレーヴェ」

「なんですか!!

 お嬢様は侯爵家のご令嬢なんですから、もっと慎みを…!」


 貴族としてのマナーはともかく、そんな深窓の令嬢じゃあるまいし。


 私に求めるなんてお門違いね。


「あなた、童貞?」

「………うぅ」


 泣き出してしまった。


 なんで?





 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■





 落ち込んだときこそ女だ、とファーンに言われた私は、歓楽街へやってきていた。


 ライルは今日はゆっくり休みたいそうなので、別行動である。


 昼間だというのに噎せ返るような熱気があるこの場所に、私は暗い表情で歩いている。


 薄い壁のある娼館からは娼婦たちの嬌声が聞こえてきて、少し顔が熱い。


「ねえあなた、今日あたしをどう?

 銀貨5枚よ」


 娼館の扉の前では、娼婦たちが呼びかけなどしているが、私は素通りしていく。


 顔色の悪い娼婦を抱いても正直なんともいえない、しかもこの娼館はなんだか他と比べて怪しい気がする。


 病気を移されても敵わないので、いつもどおり貴族御用達の娼館へ行くことにした。


「申し訳ありませんケイロン様、本日は館の娼婦たちが臥せっておりまして…」

「なんだと!?」


 どうやら、1人の男がやってきて館の娼婦たちを残らず平らげていってしまったらしい。


 どこの絶倫大魔王だソレは。


 というより、そもそもここは貴族御用達の高級娼館。


 1人あたりの金額も金貨10枚が最低価格という、平民には手の届かないほどの高嶺の花たちの群生地なのだ。


 そもそも、この高級娼館自体貴族の紹介がなければ入店不可能な店な為、客層は絞られるが。


「…誰なんだ、その男は?」


 そこまで激しいのなら、噂くらいは聞くはずだと思ったから館の主に聞いてみた。


「…その、冒険者の方でして、最近金の1になった冒険者ギルドでも噂になっている人物でして。

 紹介状も持ってきていましたのでお通ししたのですが…まさか娼婦たちを全て、いえ、他も含めて全て抱き潰していきました…おかげで強制的に閉店状態の次第です」


 しどろもどろに答える娼館の主に、少しばかりむっとしながら声音を少しだけ荒げた。


「だから、だれなのだ、そいつは!」

「クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグ様からの紹介状で、お名前はイェーガーというお方です。

 …ケイロン様が以前決闘をされた相手ですね」


 こういう場所にはよく情報が集まると良く聞くが、まさか実体験するとは夢にも思わなかった。


 クリスティ…クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグ。


 僕の…私の想い人にして目標、憧れの人である彼女の…召喚英霊だと!?


 …最近の自分の行いを嫌というほど思い出してきた。


 きっかけは学院初等部の入学式の日、入試成績1位とはならないものの、座学も実技もトップクラスで入学した僕は有頂天になりながら入学式に望んでいた。


 新入生代表となったのが、あの(・・)リンデンバーグ家の面汚しといわれたクリスティであったのはその場にいた新入生どころか保護者席にいた者たちも驚いたことだろう。


 しかし、後で知った私は愕然とした。


 クリスティは座学を全て満点で突破し、実技においては年に似合わないほどの錬度のある身体強化魔法、しかも部分強化までこなしていたのである。


 実技の魔法は何の括りもないため、身体強化魔法という地味な魔法でありながらも2位以下を突き放す形で彼女はトップに君臨していた。


 まだ10歳にも満たないあの小柄な体躯は襟までつめたシャツに黒い儀礼洋服を纏って、しかも皮製の手袋―――これも黒かった―――幼い表情は同年代と比べて不愉快そうな顔をしていた。


 まるで何かに失敗してしまったかのような、苦虫を噛み潰した顔をしていた。


 今になってみれば分かる、アレはまさか自分がトップ合格などすることなど念頭に入れていなかったという自分の認識の甘さに吐き気を催していたのだろうと。


 それから僕は彼女を見続けた。


 解かった事は1つだけ。


 彼女は違いすぎた。


 学院の成績になど見向きもしない姿勢。


 誰も必要としない生き方。


 金銭に貪欲なところ。


 どれもこれも、貴族とは掛け離れた在り方―――いや、金銭についてはそうでもないかもしれないが―――である。


 結局のところ、僕は彼女が羨ましくて、憎らしくて、妬ましくて、眩しかったんだと思う。


 だから僕は彼女に―――、


「んー楽しんだ楽しんだ、やっぱ抱くのは女が1番だな、今度お嬢に週1ペースで行かせてもらえるよう頼んでみっかなぁ。

 …あ、あの時のクソ生意気なガキじゃねえか、昼間っからこんなところに来ちまって、なんか忘れたい悪夢でもあったのか?」


 階段から降りてきた真っ赤な男、まるで一仕事終えてきたような雰囲気を纏わせた色男がいた。


 男の僕から見ても色っぽく見えて、思わず凝視してしまった自分を恥じてそっぽを向く。


 傍らには表情をとろんとさせた娼婦が抱かれていて、いっちゃやだと駄々を捏ねていた。


 なんというか、見せ付けられるようでさらに気分が悪くなってきた。


 他の高級娼館へ行くことにしたのだが、いつの間にすぐそばにいたのか、さりげなく肩を掴まれた。


「…いい機会だ、あん時のお嬢に仕出かそうとしていたことを、ここで清算させてやるぜい」


 嫌な予感しかしない。


 掴まれた手もなにやら気持ち悪いぐらい揉まれていて、軽く掴んでいる様に見えるのにまるで身動きが出来ない。


「な、貴様なにをーっ!」

「あー心配すんなって、何もお前をとっちゃ食おうなんて思ってねえからさぁ。

 ちょっとイジメられるのが病み付きになるような、そんな性癖植えつけてやんよ♪」


 ロクでも無い上にえげつないというのはこういうときに浮かぶ言葉なのだろう。


 クリスティ…いつもながら君を恨むよ。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



「………?」

「あらクリスティ、どうかしたの?」


 ジョナがクリスティの様子に気づいて声をかけた。


 クリスティとジョナは久々に休みを会わせ、最近出来た定食屋で遅めの昼食を食べていたのであるが、クリスティが呼ばれもしないのに振り返ったのにジョナが心配したのである。


 この定食屋は個室もついており、予約をすれば最大4人まで小さなパーティが出来てしまうが、ここにいるのはクリスティとジョナだけである。


 テーブルには大皿が何枚も空になっており、その量は成長期の男子も形無しの量である。


「―――悲鳴が聞こえた気がしたのだけど…まぁいいわ、別に助ける義理もないし」

「クリスティ…あんたこの1週間でさらに冷たくなってない?

 前は…前からね、うん、そうだったわ、あんたはやっぱり冷たいわ」


 うんうんと納得したジョナに、首を傾げるクリスティ。


「何を言っているのジョナ、当たり前でしょう?

 何で私が見ず知らずの人間を助けなければならないの、しかも報酬も無しに。

 …ああ、けど最近は報酬無しで人助けはしていたのよね…最悪だわ」


 ジョナ以外誰もいないとあってか、クリスティは不快そうな表情を隠そうともしない。


 基本的にクリスティは金銭に対して貪欲だ。


 生まれてからこの方金という存在に苦労させられたクリスティは、現在王都の一級地に土地と屋敷をセットで1ダースは買えるほどの大金を手にしていても、その性格は変わっていなかった。


 イェーガーと一緒に金の1の依頼を受け続けて一気にランクを金の4まで駆け上がったクリスティは冒険者家業もそろそろ潮時なのかと考え始めていたが、それでも引退するとまでは考えていない。


 魔導騎士は基本的に副業を禁止されていないため、副職に就いている者もいなくはないらしい。


 変わったところで定食屋の料理長をしているという変り種の騎士もいるという、王都でも有名な定食屋である。


「…まぁ、あんたの場合目的の為の一手段に過ぎないって丸分かりだから、別にいいのよ。

 結果、あたしたちにもおこぼれが来ている、それだけで十分だわ。

 それで…さっきのことだけど」

「ええ、私が魔導騎士になったらジョナにも来てもらいたいのよ、副官としてね」


 そう、今日クリスティがジョナと一緒に行動を共にしているのは、いわゆる引き抜き(スカウト)であった。


 別段ジョナにギルドの機密情報を横流ししてほしいといっているのではなく、単純にジョナの能力が欲しいからであった。


 ジョナの冒険者としての実力は銀の7と中堅所に位置している。


 主に斥候として活躍していた彼女には、探索系のスキルや危機感知などのスキルで満載であり、さらにはこれまでの経験で生き残るという技術において他の冒険者を圧倒するものがあった。


 そしてそれは、クリスティが近い将来得るだろう部下たちに最も学ばせたい技術であった。


 錬度よりも優先して、生き残る兵士を作る。


 時間をかければ最低でもソコソコ使える兵士を作り上げるため、彼女はすでに計画を立てようとしていたのであった。


 余談だが、クリスティはそのためだけにジョナと仲良くなったわけではない。


 単純に一緒にいても苦痛じゃないから普段から付き合っているのであって、利益(メリット)だけなら必要がなければ話しかけもしないのがクリスティの性分なのだから。


「ギルドの受付、あそこにいてもいい出会いなんていないし、いい男、騎士団には沢山いると思うわよ?

 玉の輿、だったかしら、アレ狙えるんじゃない?」


 茶々を入れるのも忘れないのは、数少ない友人であるジョナだからである。


 別にジョナは玉の輿、というものを待っているわけではないが、結婚する相手の経済力や容姿、その他数多くの条件をクリアできるのは、すでに貴族の男子くらいになっていたので、クリスティの待遇に心動かされている。


「…別にいいんだけど、友達がいきなり部下と上司の関係になるのってちょっと抵抗があるわね」

「そこは他の者がいなければ普段通りでいいわ、別に私はハイハイ言うだけの部下が欲しいわけじゃないもの。

 ジョナが優秀だから、私は欲しいと思ったのよ、これで何か不服があるのかしら?」


 欲しいものの為には手段や言葉も問わないのがクリスティなのだが、ジョナは嬉しいのやら恥ずかしいのや、もじもじと椅子に座りなおす。


「…クリスティ、あんたってほんと女にしておくのが勿体無いくらいの男前振りね、あんたが男だったらあたし惚れてるわよ?」

 顔を赤らめながらやっとのことで応えるジョナだが、条件を最後に1つ付け加えることにした。

「そうだね…クリスティ、あんたが自分をもっと大切にしなっていったら、了承してくれるかい?」


 ジョナはクリスティがいつも心配だった。


 ジョナが初めてクリスティと会ったのはまだお互いが幼い頃である。


 当時はジョナがギルドの受付として研修を受けていた、そんなある日のことであった。


 クリスティは薄汚れた姿でジョナのいる受付へ魔物の討伐証明を出していたときのことである。


 ジョナは驚いた、見たところ10にも満たない少女が鉄ランクにすでに至っていたのだから。


 実際にそれは間違っていた、すでにクリスティはギリギリ(・・・・)10歳であったが、それでも驚いたのは10歳の少女がすでに一人前である鉄の4という冒険者であったからだ。


 その才能が羨ましいという思いが当初はあったが、すぐに気づいた。


 立っている位置が違いすぎたということに。


『何で冒険者をしているかって?

 生きて強くなって欲しいものを手にする為に決まっているじゃない』


 10歳の子供、しかも聞けばあの大貴族、リンデンバーグ侯爵家の直系姫である彼女の言葉はジョナにとって胸に来るものであった。


 クリスティはあらゆることに躊躇しなかった。


 はるか格上の魔物との戦いも。


 はじめての殺人も。


 何もかもだ。


 からかう者も当初はいたが、大の男からすれば胸ほどの身長しかない少女に半殺しにされるという悪夢に耐え切れず、次第にそのような輩もいなくなっていった。


 実際彼女についている2つ名など片手では足りない程にあるが、『銀閃』以外認めなかったので死蔵しているだけなのだ。


 そんな彼女を近くで見続けてきたジョナだからこそ、不安なのである。


「あんたはきっと自分を省みない、何を目指しているのかは皆目見当はつかないけど、その目的の為には自分すら磨り潰す勢いで突き進んでいくんだろうね。

 別にするなとは言わないよ、そうでもしなければいけないのならするべきだ、とあたしも思う。

 だけどだからこそ、その目的を達成したときにあんたの手に何が残っているのか、あたしはそれがたまらなく心配なんだ。

 ……ねえあたしの親友、あたしの最初で最後のお願い、いや約束をして。

 もっと自分を大切にして、せめてあたしとこうやってバカ言い合えるくらい、あんたが少し笑ってくれるだけでも、あたしはもう胸が一杯なんだ」


 いつの間にか手を握っていたジョナに、クリスティはただ黙ってその切実な願いを聞いていた。


「…まるで情熱的な告白ね、ちょっと顔が赤い気がするんだけど、鏡あるかしら?」

「クリスティ!!」

「あーはいはい、分かったわよ。

 まぁイェーガーもいることだし、そこまで自分を蔑ろにするようなことは控えるわ。

 約束します」


 右手を上げてしぶしぶといった様子で頷いたクリスティに、よしとジョナは満足してベルを鳴らした。


 少しして扉からが入ってきて女給に注文をすると、一礼して部屋を出て行った。


「…というかクリスティ、あんた来年の魔導騎士団入団試験、本当に大丈夫なの?

 先に色々と準備しておくのはいいけど、もし落ちたりなんかしたら…」

「問題ないわよジョナ、これだけの功績を叩き出しているのよ?

 この王都周辺で私の評判を落とそうというのなら、これまで助けてきた商会が一斉蜂起するわ」


 おそらくはそういった契約を交わしているのだろうが、本当に手段を選ばない親友だとジョナは呆れるのやら感心するのやら、複雑な思いでいるのだった。


 女給がやってくると料理が運ばれてくる。


 最後のデザートは料理長自慢のフルーツケーキで、やはり女子ということなのか、アレだけ食べたのにも関わらず、甘味は別腹の様であった。




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