戦鬼VS剣聖(下)
『マスター、今の攻撃は刺突3連からの袈裟切り、および逆袈裟の計5連撃です』
「…突きなら伸びる筈だからまだ視認が出来ると思ったのだけど、意外に見えないものね」
「ほぉ、今の連撃が見えたのか。
さすがに慣れてきたのか?」
ヴィルヘルムは当然とばかりに視認出来ていた様で、さすが近衛騎士団団長といったところだろう。
ただのオカンじゃない、と認識を再々度改めるクリスティなのであった。
『…フレイ、今のは逆袈裟してから何をしたの?』
初撃だけ視認出来たのか、クリスティが魔剣に解析結果を促している。
『あれは逆袈裟を2回連続で行っています、マスター』
―――逆袈裟を2回…もう訳が分からないわね。
逆袈裟、通常の袈裟切りの返し技のようなもので、簡単に言うと下からの攻撃のはずである。
通常ならば逆袈裟の逆、つまり普通の袈裟切りということでまた下に戻るはずなのだが、どうやらイェーガーはどういう技術なのか逆袈裟を2度行ったらしい。
クリスティも剣の道の端くれにいる身ではあるが、ただ速いからという理由でそんなことが可能なのだろうかと首を傾げるのだが、魔剣からの解析結果は予想に反した答えだった。
『…解析完了、【造魔】イェーガーの2連逆袈裟は空間魔法を使ったもので、純粋な剣技とはいえません。
残念ながらマスターでは習得不可能です』
種明かしは単にイェーガーが魔法を編みこませた剣技を使っていただけであった。
クリスティはイェーガーが魔法の技術も常識を覆す実力があるのを思い出し、無詠唱でしかも剣を扱いながら魔法を使うという離れ業をやってのけるのに、得心いったような顔をするのであった。
そうなると、逆にすごいのはパトリックなのではないかと考えるクリスティ。
一連の攻撃を防御、それに切り返しているのは、いくらイェーガーが手加減をしてるといっても目を見張るものがある(実際は見えていないが)。
もっとこの模擬戦を見たくもあったが、クリスティにも事情がある。
「…イェーガー、お腹が空いたの、速く片付けなさい」
―――いい加減、小腹どころか本格的に腹が空いてきていた。
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「おっと、お嬢から注文が入っちまった。
名残惜しくもねえが、そろそろこの遊技も終わりか。
つーわけでパトリック、わりぃとはいわねえがこれで仕舞いだわ」
わざと殺気も込めた一撃を無造作に繰り出すイェーガーに、パトリックは魔剣でその一撃を逸らしながら距離をとった。
「ちぃっ!!
まだ1度も斬れてねえのに終わりかよ!!」
まだ戦い足りなかったのか、肩で息をしているパトリックが悔しがる表情をみせるが、なおも攻撃を緩めようとはしない。
「まぁ人間にしちゃあよく頑張った方だわ。
この調子で頑張れば普通に【頂の座】に届くかもな」
【頂の座】というのは英霊となる者が辿り着くいわば『兵達の園』、実も蓋もなく言うと『化け物たちの巣窟』である。
クラスや属性によって場所は各層で分かれており、たとえ同じクラスであろうと属性が違っていれば英霊同士であろうと出会うことはない。
会えば間違いなく血で血を洗う文字通り戦争になるのが目に見えているからである。
イェーガーは英霊になって日は浅いが、その層にいる英霊相手にケンカを振っていた。
英霊というのは通常の人より強力な魂を持っているため、1度や2度くらい魂が砕けても再生するが、何百と破壊すればさすがに元には戻らない。
その場合、破壊された魂は完全に分解され、倒したものに吸収されることになる。
属性が悪になっている者ほどその傾向が高く、最終的には『蟲毒の法』如く強力で凶悪な英霊がそのクラスの頂点に座すことになるのである。
イェーガーのいる『猟兵』はすでに彼しか居らず、層にはただ一人ゴロゴロとしている所に、クリスティからの呼びかけがあったのである。
一目散に行こうとしたが、呼びかけに反応した連中との説得に手がかかった為、その処理に手間取っていてギリギリのタイミングで駆けつけることになったのである。
完全に破壊尽くしていない為、いつか出会う可能性があるが、そのときは今度こそ始末をつける気でいるイェーガーなのであった。
「そんなとこに興味はない!!
俺が望んでいるのはあんたとの勝負だ!」
パトリックの集中力が切れ始めたのか、クリスティでも見切れるほどの速さで剣が走った。
しかし先ほどまでと打って変わって動きが粗野で、振りも無駄に大きい。
何事も集中力が切れると物事の経過には雲泥の差が出る。
ただでさえ基本性能の差があるのに、ここまで来るとイェーガーならば目を瞑っても避けられた。
「…おっと、今のはやべかった、さすがによそ見するのはよくねえな、髪の毛が2ミル(約4ミリ)ほど切れるとこだったわ」
と冗談めかしているイェーガーはそのまま魔剣の腹を勢いよくパトリックに叩き付けた。
魔剣自体が両刃で峰打ちという技術が使えないから仕方なく行ったのだが、これはこれで十分に危険である。
速攻のカウンターが決まり、パトリックはその場で蹲ってしまった。
勝敗は決した。
分かりやすい光景である。
這い蹲っている敗者と見下ろしている勝者の図にクリスティは『自分の最強が壊されている』近衛・魔導両騎士団の騎士立ちの間抜け顔を見てほくそ笑んでいた。
『…お嬢、将来の自分の同僚や上司の醜態見て喜ぶとかドSだな!!』
『ドSが何かは知らないけど、褒め言葉よね?
ならありがとうといっておくわ』
念話では和やかな主従の会話が流れているが、現状はまるで時間をとめたように固まっていた。
遠くで訓練をしていた近衛騎士たちも固まっていたし、魔導騎士団本部のある建物から見ていたパトリックの部下たちも口を開けて固まっていたのである。
「…ははっ」
そんな中、うめき声をあげながら笑っていたパトリックは魔剣を手放すと地面に転がった。
大の字になって倒れこんだパトリックの表情は明るく、とても敗者のそれとは思えないほどである。
「はっは、あっはっはは!!
あー、まけた、完敗だ、ははっ!!
アレで手加減とか本気でやればどんだけだよっ!
差がありすぎて嫉妬する気もおきねえぜ!!」
「……はぁ」
パトリックの豹変にヴィルヘルムは処置無しと頭を振って、固まっている近衛騎士たちの指導に向かっていった。
好きに帰りたまえ、そういい残したヴィルヘルムにクリスティはその後姿を見ながらボソッと呟いた。
「…やっぱり変わっているわね、あの人」
「お嬢も人のこと言えねえぜ?」
魔剣をしまったイェーガーはクリスティの元へ戻ってきて、『さあオレ様を褒めろ称えろ』といわんばかりに両手を広げていた。
「…良い催しだったわ、次はもう少し派手になさい」
とはいえ、変わっているイェーガーの主の賛辞もこんなものであり、『だから遠まわしに自分褒めてるだろお嬢』とぼやくのであった。
「…パトリック卿、ご気分はいかがですか?」
「いやー、良い気分だよ、口の中が若干苦酸っぱいが、負けるっていうのは良いもんだ、不甲斐無さが如実に現れて、以降どう改善すればいいのかがよく分かる」
クリスティの言葉にパトリックは聞きもしないことまで吐き出し始めた。
どうやら最近良い勝負のできる相手がいなくてフラストレーションや鬱憤が溜まっていたらしい。
ギリギリの勝負がしたかった、もしくは完膚なきまでに負けてみたかった、というのが最近の願いだったようで、クリスティとしては正直どうでも良い話であった。
「…私が魔導騎士団に入ったら、週に1度イェーガーを貸し出しましょうか?」
2週間に1度でも良かったかも、というクリスティはすぐに言い直そうとしたが、パトリックは遠慮するといって苦笑いする。
「さすがにこういうのは1回でいいな。
他の騎士団や俺たちの部下たちの目もある、何より最強といわれちまっている俺が週に1度も地べた這い蹲るとか魔導騎士団の信用問題に関わっちまうからな」
現状多くの者が見ている中でのパトリックの言葉はいまさらな感がクリスティにはあったが、それも一理あるといって軽く頭を下げる。
「…そうですね、失言でした。
それでは私はこれで失礼しますがもう帰ってもよろしいですか?」
「ん、ああ。
長く拘束して悪かった、帰ってもいいぞ」
気分も落ち着いたのか、パトリックは快諾してくれた。
「そうですか、それでは、今度こそ失礼させていただきます」
再度軽く頭を下げたクリスティはイェーガーに軽く合図をして練兵場を去っていった。
クリスティの背中を見つめるパトリックは、嬉しいのか困っているのか複雑な表情をしてぼやいていた。
「…あれが来年俺のとこに入ってくんのかぁ…女性初の魔導騎士ね。
しかもあの錬度なら訓練にも耐えれそうだし今までのとは違う、本当の初めてかぁ。
近衛騎士団とも面倒かけてるし、来年は大変だなぁ」
まるで人事の様に呟くパトリックに、誰も答える者はいなかった。
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