戦鬼VS剣聖(上)
平日なんですが、お休み取れちゃいました、ので、早速1発!!
「へぇ、元の世界でもオレ様の攻撃を手加減とはいえここまで避けるたぁ…中々いなかったぜ?」
「そりゃお褒めに預かり光栄ってか?
俺もここまで長時間同じ奴と戦っているなんてここ最近じゃお前さんくらいだ…ぜっと!!」
ガンガンと剣戟が鳴り響く中、クリスティとヴィルヘルムがその音の中心に視線を向けていた。
あまりの突然の出来事に、お互い固まってしまっていたようである。
すでに他の近衛騎士たちは午後の訓練を開始しており、かなり離れた場所にいるようだったが、先ほどからチラチラとこの音の主たちを盗み見るようにしていた。
「…あやつめ、仕事を放ってまで戦いたいとは、まったく!!
だから魔導騎士団は馬鹿にされるのだ!」
と、意外にもヴィルヘルムが心配するような小声が聞こえ、クリスティがヴィルヘルムに小声で尋ねてみた。
「ヴィルヘルム卿、近衛騎士団と魔導騎士団は仲が悪いのでは?」
その質問に、ヴィルヘルムはむすっとしながら小声で返した。
「…別にパトリックと私は仲が悪いわけではない。
貴族派も改革派も、元はこの国を思うからこそ出来た派閥だ。
それに…」
長々と言い訳がましく迂遠な言葉を垂れ流すヴィルヘルムだが、要は『派閥は違っても仲は良い』と言いたかったらしい。
話の殆どを右から左へと流していたクリスティであったが、終始ヴィルヘルムの言い訳は同じ言葉の繰り返しだったようである。
クリスティは当初、このヴィルヘルムと言う人物にあまり良い感情がなかった。
謁見の際も自分をいつ斬り殺そうかと微弱な殺気を漏らす人間に、心を許すわけもなかったが。
イェーガーには手を出すなと念話で伝えていたが、もし止めていなければあの場でマスターであるクリスティ以外殺していた可能性もあって、戦々恐々としていたクリスティなのであった。
それにしても―――
「それにしても、終わりませんね、この模擬戦」
「さっさとあの英霊にパトリックを倒すよう命令してくれないか?
明日は各騎士団の報告会があってだな、あいつはいつも適当な報告書を作ってくるのだ」
いつの間にかただのオカンと成り果てているヴィルヘルムをよそに、クリスティはこの戦いを見ていた。
『剣聖』パトリックと『戦鬼』イェーガーの真剣勝負を。
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クリスティはパトリックと一緒にヴィルヘルムの説教を聞き終え、即座に帰ろうとしたのだが、やはりと言うことなのかパトリックに呼び止められた。
「なあお嬢さん、名前を聞いても良いか?」
クリスティはパトリックと見つめあうが、何も色めいたことを考えたつもりはない。
平民の殆どが貴族のように端正な顔立ちをしているわけ―――貴族間の結婚は基本的に美男美女でするため、必然的に生まれてくる子息子女も高確率で美形なため―――ではないのだが、パトリックはその少数派であり、きわめて整った顔立ちをしていた。
性悪で鼻持ちならない貴族然とした高慢そうな表情はないが、甘いマスクの彼は高確率で彼を嫌う女性はいないほど、いわゆる母性本能をくすぐられるような容姿をしていたのである。
蛇足ではあるが、クリスティは母性本能をくすぐられるような体験は生まれてこの方1度としてない、目の前のパトリックにしてもこれまた同様であった。
強さを測ろうとして、魔剣と魔弓の双方から戦ってはいけないとものすごい勢いで警告音が流れてきたため、固まってしまっていたのである。
「クリスティ、クリスティ・ツヴァイ・リンデンバーグです。
御会い出来て光栄です、『剣聖』パトリック卿」
軽くお辞儀をするクリスティだったが、パトリックは気にせずに肩を掴んだままクリスティに話しかけていた。
「さっきの一撃すごかったな、あのヨハンセンを倒しちまうなんてすごいもんだ」
「きょ、恐縮です」
「そういえば昼も過ぎているし、ちょっと城を降りてお茶でもしないか?
良い店しっているんだ、3番街の突き当たりの…」
「え…あの?」
話の方向があさっての方向へ向かっていき、いつの間にか昼食に誘われていることに気づいたクリスティだったが、予想以上の腕力の強さに抵抗が出来そうにないでいた。
「あーちょい待っただぜお兄ちゃん、うちのお嬢をナンパしねえでくれよ。
ただでさえその手のことになると鈍感なんだ、ホイホイ連れて行かれちゃたまったもんじゃねえ」
失礼な発言が多々目立っていたが、助け舟を出したのはイェーガーであった。
クリスティは判然としない表情でイェーガーを見つめていたが、『だまっとれ鈍感お嬢』とぴしゃりと言われて仕方なく口を閉ざすしかなかった。
クリスティの肩を掴んでいたパトリックの手を振り払うと、はぁとため息をつくのだった。
「あんた…強いな」
とパトリックがイェーガーに言うと、イェーガーはぎゃははと笑いながらパトリックを指差す。
「あんた…弱いな…ぎゃっはは!」
その返しが気に入ったのか、パトリックは楽しそうに笑って見せた。
「ははっ、さすがに俺より強い奴に言われたら立つ瀬はねえな。
俺はパトリック、パトリック・ズィーベン・ブリッツという。
名のある戦士と見たが、名を聞かせてもらえないか」
イェーガーが魔法を使っていたことに気づいていたのにも拘らず、パトリックはイェーガーのことを『戦士』と判断したようである。
この段階でパトリックが何をしようとするのか予想がついたのか、ヴィルヘルムが若干上擦った声でパトリックを止めに入った。
「パ、パトリック、明日は大事なかいぎ…」
「まあ硬い事いうなってヴィル」
「お前が柔らかすぎるのだろうが!!」
と暖簾に腕押しな状態である。
「で、パトリック?
お前さん、俺と手合わせしてえのか?
さっきも見てたと思うが、俺は”魔導師”だぜ?
近接戦闘にかけちゃお前さんのほうが有利だと思うんだがね?」
クリスティからすれば寝耳に水な発言であったが、とりあえずこの状況を静観する事にして、イェーガーがどうするのかを見守ることにした。
「それは違うな、その剣ダコを見る限り、かなりの技量だって事は分かる。
さっきそこのお嬢さんの名前で思い出したが、あんたが件の英霊なんだろう?
それなら、魔法と剣術両方卓越していたっておかしくはねえ話だろ?」
どうだといわんばかりな顔をしたパトリックに、イェーガーもさすがに否定しなかった。
いや、否定しても良かったのだろうが、面倒だと思ってやめたのだろう。
「んーそこまで気づかれてるんなら、まぁなに言っても諦めそうにはねえか。
お嬢のご機嫌しだいだな、一応俺様お嬢の使い魔だし?」
フラストレーションが溜まっているのか、イェーガーの方針は逃走から迎撃に移り変わったらしい。
あまり良い手ではないと―――クリスティにとっては嫌な予感しかしない―――分かっても、クリスティにはどうこう言える立場にはない。
「―――だそうだがクリスティ嬢、そこの英霊と手合わせをしたいんだが、いいかな?
そうか、いいか、それはありがとう!!」
クリスティは一貴族の子女でしかなく、国の最高位の騎士が願い出て、否やとは言えないのだから。
一瞬だけ真面目な口調になったパトリックの一方的な了承をされて、クリスティは首肯する暇もなく許可を出したことになっていた。
「おーいお嬢、いいの?
一応殺す予定はねえけどさ、テンション上がったらうっかり殺しちまうかもよ?」
その様子を見ていたイェーガーは念の為にと確認をクリスティにしたが、結局クリスティは2人の手合わせを止めようとはしなかった。
面白い対戦カードということもあったし、剣聖の力を間近で見られるというのは勉強になるということもあったからである。
そして―――、
「お腹が空いているから、手早く済ませなさい。
けど、殺しはダメよ…あ、でも殺しても生き返らせられるし、それもアリなのかしら?」
「良い訳あるか!!」
首を傾げるクリスティに対して即座にヴィルヘルムからのツッコミをもらった為、やはり当初の予定通り純粋な手合わせ、ただし今回はクリスティとヨハンセンの時とは違い、刃引き無しの真剣勝負のようである。
「…ところでイェーガー、あなたって実際どのくらい強いの?」
もちろん、武術についての質問である。
魔法関連においての知識、実力はすでに十分といってよいほど見ているため心配はしていなかったが、武道面についてはいまだ未知数な点があるからであった。
スキルを見る限り、剣術より遠距離攻撃を主とした戦闘を得意としている様に感じていたのだが、ライルとの戦闘時に見せたあの大剣の扱いを見て、剣術もかなりできるのでは、と思っていたのである。
「…フフンお嬢、オレ様に出来ねえことなんて―――」
「―――はいはい、『片手ほどもねえんだぜ』でしょう」
「ぎゃふんっ!!」
クリスティにセリフを奪われながらも気を取り直したイェーガーが取り出したのは、あの時の大剣ではなかった。
装飾過多な―――見るからにゴテゴテした柄周りは花で覆われている―――その剣は、本当に切れるのかと疑いたくなるほどの剣である。
しかし、クリスティはその見た目には騙されずに、思わず口元を押さえた。
ヴィルヘルムも気づいたようで、不快そうな顔を隠さずに出していた。
「骨の剣か…悪趣味な」
そう、剣身から装飾、柄や護拳にいたるまで、その材質を除けば見事なまでの美しさと認めただろう一品である。
「こいつはある聖人49人の骨を加工・圧縮して作った魔剣の中でもまぁまぁな作品だな。
ちなみにこいつを作る為に元いた世界の聖人を皆殺しにするのに半年もかけちまったっつー意外と思い出のある剣だぜ?」
ロクな思い出ではない、とイェーガー以外はそう心をひとつにしてそう思った。
聖人というのはクリスティたちの世界にもいる、いわば『超人』の類とされる人種である。
神の恩寵を受けた愛し子であり、時代によっては『神子』と呼ばれた存在だ。
癒しの力・破壊の力と力の種類は様々あったが、とにかく偉人たちである。
大半は世界にその功績を認められ英霊となっているが、英霊召喚の中でも『勇者』・『聖女』のクラスは召還する事が出来るのは教会の一部でしか知られていない秘術らしく、通常の英霊召喚とは術式構成からして違うと集めた資料にあったとクリスティは思い出した。
「お、そうだった、魔剣の特殊能力は使わねえから心配すんなよ?
これ使ったら5秒も持たずに終わっちまうからな」
聞きたくもないのに再び語りだしたのは、その骨の魔剣のおぞましい特殊能力だった。
いわく、指の骨を尖らせた螺旋状の矢(ちなみに被弾すると爆発するらしい)、脊髄を無数につなぎ合わせた異形の鞭、肋骨で編みこまれた奇怪な檻、その他モロモロ、人間性を疑うような吐き気のする、まさに『身の毛もよだつ』魔剣であった。
当初は良好な関係を築けると思ったクリスティだったが、イェーガーにこういった趣味がある以上、そう簡単に良好な関係になりたくないという気持ちが浮き上がっていた。
「そうそう、剣術に限定するがなお嬢、これでも剣聖クラス相手にゃ一方的な勝負ができるくらいな腕前はあるぜよ?」
という具体的な答えが返ってきて、クリスティはパトリックの命運を祈ることにした。
イェーガーは基本的に嘘などつかないことはクリスティもこの短い間に理解していて、それが己の自信に繋がっているからということもなんとなくだが把握していた。
審判はいない、ヴィルヘルムが務めようとしたが、クリスティが止めたのである。
確実に巻き込まれるから死にたくないならやめた方が良い、という理由に、ヴィルヘルムも難しい顔をして離れていた。
「さってと……はじめるかい?」
軽く剣を振るだけで豪風が鳴り響かせているイェーガーに、パトリックが不敵な笑みを浮かばせて魔剣を構える。
魔剣【ゴドウィン】、迷宮最下層付近でパトリックが手にした、最高クラスの魔剣である。
元の持ち主は高位死霊騎士で、パトリックが単騎で打ち倒した戦利品でもある。
「ああ、それじゃあ胸を借りるとしようかぁっ!!」
剣が走るが、もうその段階でクリスティにはパトリックの剣速に反応できていなかった。
「む、さすが魔導騎士団団長ね、剣が速過ぎて見えなかったわ」
『解析いたしますか?』
魔剣【フレイ】が進言してきているので、クリスティはパトリックとイェーガーとの戦闘解析を一任した。
逐一あの攻撃は角度と速さが最適だとか、この攻撃パターンはクリスティにも実現可能だとか、報告を重ねていく魔剣に、仕事熱心で助かると労いの言葉をかけるのであった。
とはいえ、クリスティはその説明を受けなければ、目の前の戦闘がどういう状況なのかさっぱりなのである。
何しろ、2人の肘から先はすでに残像を残すほどの速さで動き回っていて視認が殆ど出来ず、打ち合う音で辛うじてまだ続いているのかと思うほどであったからだ。
なので、クリスティが見る2人の戦闘風景は、笑いながら剣を振るっている(ように見える)イェーガーと、同じく楽しそうな顔をしたパトリックが剣を振るっている(はずである)の姿なのである。
「…次元が違うとさすがに参考に出来るか、怪しいものよね」
『『マスターならば可能です!!』』
と断言する魔具たちに、嘆息する主なのであった。
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