プロローグ
よろしくお願いします。
俺がその高校を選んだのは他校にはない図書施設の充実その一点のみだった。
俺は重度の本好きだ。
しかし我が家には小遣い制というものがないので滅多に本を買うことができない。
なので図書施設の充実は俺にとってとても重要なことだった。
そんな俺が入学式前に図書施設を訪れたのは必然以外の何物でもないだろう。
「うわぁすげぇ」
入室したときに目に飛び込んできた蔵書の数々にテンションが急上昇したのも仕方のないことだろう。
たくさんの名作達に俺の目はとても輝いていたことだろう。
そんな中俺が手を伸ばしたのは俺の大好きなジッドの『狭き門』だった。
決してハッピーエンドとは言えないが独特な空気感がとても好きだった。
しかし俺が本に手を伸ばしたと同時に横から手が伸びてきた。
本に触れたのは二人同時だったと思う。
ふと横を向くと黒髪の美女がいた。
「私の方が先だった!!」
しかし最初に聞いた彼女の言葉は綺麗な外見からは想像もできないような自分本位なものだった。
「そうか。悪かったな。」
狭き門自体は数少ない我が家の蔵書の一つなのでもともとパラパラめくる程度にするつもりだったので当たり障りのないようにそう告げると遅刻しないように入学生の集合時間にセットしていた携帯のアラームのバイブがポケットの中で振動していたので慌ててクラスの張り出されているエントランスに走って行った。
これが彼女ー帚木 蓬との最初の邂逅だった。