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「おい。誰か」
王は背後へと振り向き、大声で呼ばった。木立から護衛の騎士が一人、姿を現す。
「井戸に行って水を汲んでこい。それから、包帯も用意しろ」
短い返答と共に、別の物陰からも一人が出てきて、二人ですぐにその場を飛びだしていった。
それから王は向き直って、彼女たちから少し離れてしゃがむと、低く柔らかい声で子供たちに話しかけた。
「泣いてないで、痛いところはどこか、シスターに見せろ。水と包帯がすぐにくる。そうしたらシスター・シアが手当てしてくれる」
王にはわかっていた。かまってほしい相手に、すがりついてもいい理由があれば、それがどんな些細なものであっても、子供は駆けていって見せる。
義母である王妃に、自分もどれくらい小さな傷を見せに行ったか。
こんな風に、おろおろする人ではなかった。微笑みかけられたことすらなかった。いつでも厳しく接し、叱られてばかりいた。でも、愛情を疑ったことはなかった。
むしろ、王にとって笑みとは、心を隠すための鎧であることの方が多かった。そうやって、誰も彼もが友好的な態度を装って、己の言い分を通そうとしてくる。
彼女はまだ、出会ってから一度も彼に笑みを見せてくれてはいない。だからといって、よそよそしいわけでもなかった。無表情に近い顔の中で、瞳だけは素直にその心を映しだして、彼に伝えていた。
彼にとっては、それは好ましいことだった。偽りの微笑みなど、たくさんだった。
子供たちは王を見て、彼女を見て、彼女が頷くと、我先にと痛いところを見せはじめた。転んでいない子供たちでさえ、袖やズボンの裾を捲り上げて、なんでもない場所を示している。
彼女は疑いもせず、その全部を検分していた。
やがて先に水がやってきて、傷口を洗い流している間に、包帯もやってきた。
彼女は自分が痛そうな顔をしながら、不慣れなのだろう、幼児を抱えてゆっくりとやってきた尼僧に教えてもらいつつ、もたもたと子供たちを手当てしていく。
王はその様子を、しゃがんだまま、ずっと見ていた。