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心は決まった。ならば次は求婚だ。
ハミル王は彼女をうながして外へ出た。
結婚に夢や希望は抱いていなかった。……ついさっきまでは。しかし、今は違う。彼は今日という日を、きっと死ぬまで何度も思い出すだろうと感じていた。
その思い出が、洗濯小屋一色に彩られるのは、そういうことにあまりこだわりのない彼でも、いかがなものかと思った。つまり、ここはふさわしくない。
では、どこがいいだろう。
彼は自分が小脇に洗濯籠を抱えているのも忘れたまま、あたりを見回した。
この教会に美しい庭園はなさそうだった。肥料の臭いのする畑は論外である。では、司祭長室でも借りるか。
そう決心しかけた時、屋根の上高くに輝く星飾りが目に入った。
ああ、そうだった。ここは教会ではないか。礼拝堂がある。
神の御前で求婚。それ以上にふさわしい場所があろうか。
王はあいている手で彼女の手を取り、その目を覗きこむようにして、真摯に頼んだ。
「あなたに話がある。礼拝堂まで一緒に来てはもらえないだろうか」
彼女は、はっと息を飲み込んだ。それから、とても真剣な顔でぎくしゃくと小さく頷くと、ぎゅっと彼の手を握り返してきた。
「うむ。私でよければ、あなたの懺悔を聞こう。未熟者だが、共に神に赦しを願うことはできる故」
「いや、そうではなく、」
私はあなたに求婚したいのだが、とここで予告したら、とても間抜けな気がして、彼は言葉に詰まった。
彼女は彼の言葉の続きを待っている。その熱心なまなざしに見られれば見られるほど、答えようがなくなっていく。そのうち痺れを切らしたのか、彼女から聞き返してきた。
「そうではなく?」
「その、えーと、相談したいことが」
「うむ。相談か。わかった。一緒に考えれば、良い考えも浮かぶかもしれない。あまり頼りにならないかもしれないが、私も精一杯力になろう。だがその前に、すまないが、その洗濯物を干してからでもいいだろうか?」
彼女の視線が彼の小脇に向けられる。
彼はようやく自分が今どんな格好をしているのかに気付き、どれもこれも締まらない情けない自分の現状に、数瞬呆然としたのだった。