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龍神池の主


「ケッシテ、裏手ノ龍神池ニ近ヨッテハ、イケマセーン!」

 それがこの家を購入する為の条件だった。



 会社を退職して、念願の年金暮らし。

 できれば都会を離れ、自然豊かな土地でミーコ(猫)とのんびり暮らしたい。


 そんな夢をかなえる為、旅行をかねて各地の不動産屋をめぐったが、条件に合う場所はなかった。

 あきらめかけていた時、出会ったのがこの物件だった。


 住んでいたのは日本家屋を研究する、初老のカナダ人。

 故郷に戻る為、手放すという家は、古民家を改造したもので、シックでモダンな造り。

 俺は一目で気に入ってしまった。

 

 だが、この家の購入には先に述べた変な条件が付いていたのだ。


 家の裏手の踏み入れてはならない龍神池?

 今時、田舎のじいさんでもそんな事は言わないが・・・。

 俺はさほど気にも留めず条件を飲み、この家を買った。


 とはいえ、裏手の龍神池とはどのようなものか・・・、

 近づくなと言われれば、それがどんなものか知っておきたくなるのが人間だ。

 まあ遠くから見る分には問題なかろう。

 そう考えた俺は、引っ越したその日に探検してみることにした。


 問題の池とは、裏手の森の中にあり、深い緑色の水をたたえた比較的大きなものだった。

 神秘的な美しさはあったものの、そのほとりにはカナダ人が置いたと見られるバーベキューセットやベンチ、さらにはハンモックまで設営されており、龍神の住んでいそうな恐ろしげな風景を想像していた俺はずっこけてしまった。


 まあ、そんなもんだろう。

 と思った矢先、水中を黒い巨大な物体が横切った。

「やばい。本当に竜神がいるのか?」

 その場を離れようとした俺の目に、とんでもない光景が写った。


 俺の後を付けて来たミーコが、周辺を跳ねる蛙に惹かれ、池のほとりにまで来ていたのだ。


「いかん! ミーコ、離れろ!」

 俺は龍神池に突進したが、間に合わなかった。


 ものすごい水しぶきと共に、猫の悲鳴が聞こえ、何か巨大な物が現れたかに見えた。

 あまりの衝撃的な光景に俺の記憶はそこからない。



 本当にミーコは、あの時龍神に食われたのか?

 それとも只のまぼろしだったのか・・・。

 分かっている事は、ミーコがあれ以来消えてしまったということだ。


 もしかすると、池の対岸にでも逃げ込んだまま、帰れなくなったのでは?

 そう思って、何日も何日も探し回ったが、ミーコは見つからなかった。


 ところが大雨が降った数日後、ミーコは変わり果てた姿で現れた。

 裏山が崩れて沢の水が流入し、透明度が増した為、池の底が透けて見えたのだ。

 そこに眠る小さな白骨死体には、赤い首輪と真珠のアクセサリーが付いていた。


「おのれ龍神め!」

 俺は龍神に対する恐れも忘れ、池の真ん中に向かって悪態を吐いた。

 と、そこに腹を上に向けて浮かんでいる物体があった。


 それは4mを超す、アマゾン原産の大ナマズだった。


 どうやら何者かが(たぶんあの外人だろう)、この池に放流し、大きくなりすぎたので龍神伝説を流していたのだろう。


 大ナマズは、先日の土砂崩れで死んでしまったようだ。

 ならばもう安全だろう。

 俺は池に入ってミーコの白骨死体を回収し、ちゃんととむらってやることにした。


 この時、俺はそばにもう一つ、大きな白骨死体があることに気付いた。

 その白骨死体が着ているカザリン・ギャムネットのシャツには見覚えがある。

 それは俺だった。


 ニャーオ・・・。

 茫然と自分の死体を眺めていた俺の足元に、なんとミーコがやって来た。

 ミーコの幽霊は、俺が自身の死を認めた瞬間に見えるようになったらしい。


 俺は自分が死んでいたと言う悲しみも忘れ、ミーコとの再会を喜んだ。

 ところが抱きあげようとしたその瞬間、そのミーコがギャッという悲鳴を上げたのだ!


 振り返ると、そこに巨大なオオナマズの幽霊がいて、俺達を飲み込もうと口を開けていた。


     バクッ!!


      【 おしまい 】


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