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Sweet&Bitter  作者: みずの
眠る時はせめて私の夢を
127/152

14


 次に目が覚めた時には、拓けた視界は真っ暗だった。

 部屋の電気が消されているだけだとは分かっているのに、その飲み込まれるような闇に一気に不安に揺れる。

「…先生…?」

 呼びかけても返る声はない。自分がどれくらい眠っていたのかも見当がつかなかったので、もしかしたらあれから随分時間が経過しているのだろうか。

 そう思うと、途端に心細くなる。



「先生…っ」

 眠る前に握ってもらった手の温かさから、もう大丈夫だと思っていたのに…。

 やはり孤独を実感すると胸に蘇るのは、恐怖に似た不安と動揺ばかりだ。



「~っ」

 思わずベッドから立ち上がり、手探りで部屋のドアの方へ向かう。

 駆け巡る胸中のざわつきに涙が出そうになるからこそ、先生を探しに行こうとしたんだと思う。

 もつれそうになる足で歩き、手にしたドアのノブを手前に引いた。



 ドアを開いたそこも、何の物音もしない真っ暗な闇だった。

 リビングもダイニングも、明かり1つ点いていない。

「先生……」

 求めようとするからこそ、叶わないと焦りが募る。

「先生!」

 そうなると思い出すのはやはり、あの蓮くんの目と指先の冷たさだけだ。



 たまらずに大きな声を上げて呼ぶ。返る声がないと予想していても止められなかった。

 だけど……。



「何だ、起きたのか」

 不意に私の先にあるリビングのドアが開き、パチっという音の後に頭上の照明が点く。

「…先…生…」

 明るくなった視界にその姿を映した瞬間、ぶわっと堪えていた感情が飽和状態になってあふれ出す。

 呼びながら、私は子どものように泣きじゃくってしまった。









「大げさなんだよ、お前は」

 先生がいなくて真っ暗だった部屋に、明かりが灯る。

 どうやらお風呂に入っていただけらしい先生は、タオルで頭を拭きながら苦笑い気味にそう言った。

 私が不安になっていたことも分かったらしい。まるで子どもをあやすように、寝室に私を戻すとベッドの中に押し込んだ。



 時計を見上げると、時刻は午前2時を回る頃だった。

 先生がお風呂に入ること自体がこんなに遅いなんて…私が寝ている間に仕事でもしていたんだろうか。

 そう思いながら見上げた先生は、シャツにスウェットというラフな格好で欠伸を1つもらした。



「…先生、寝ないんですか?」

 ベッドに押し込まれた私は布団から顔を出して、そう尋ねる。

「寝るよ。俺はお前ら学生とは違って明日も早ぇんだ」

「えっ? 休みじゃないんですか?」

 明日は日曜日。暦通り学生は休みで、月曜日が文化祭の最終片付けに割り振られている。

「いいよなお前らは。散々遊ぶだけ遊んで片付けは後回しにできるもんな」

 ニッと笑いながら嫌味を言われて、私は小さく首を竦めた。そしてそんな先生がクローゼットから大きめの毛布を取り出しているのを見て、「そういえば」とふと思う。

「…先生、どこで寝るの?」

 全くそこまで考えていなかった。自分のことばかりで自己嫌悪に陥りそうだ。

 でも先生は全く気にした様子もなく、「リビングのソファ」と平然と答える。



「え…っ! 風邪引いちゃいますよ!」

「気にすんな。それくらいで風邪なんか引くか」

 その根拠のない自信は何なのだろう。でもベッドを奪い取ったのは私自身に他ならないので、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「じゃ、じゃあ私が…!」

 立ち上がろうとした瞬間、長い指で頭をコンと小突かれる。

「だーから、お前がそっちで寝たら意味ねぇだろ。いいから子どもは余計なことに気回さないで寝ろ」

「子ども……」

 言われた言葉を復唱して、私は複雑な気分で眉を寄せた。

 確かにここまでワガママいっぱいだったし、そう言われても仕方ないのだけれど…。



「……」

 だけど本気で、ここで先生に風邪でも引かれたら自己嫌悪どころじゃ済まないと思う。

 そう思って私は、そのまま部屋から出ようとした先生の服の袖を引っ張った。

「何だよ」

 毛布を抱えた先生を掴む手に、縋るように力をこめる。

 どうせここまでワガママ放題だったんだ。後1つくらい懇願しても大差ない気がする。



「じゃあ先生、一緒に寝てください」

「はぁぁ!!?」

 いつもクールな先生が、この時ばかりは珍しい大きな声を上げた。



 今夜1人になるのが怖いのは本当だ。さっきだって起きた瞬間に先生がいないだけでパニックになりそうだったほど。

 先生の傍が、私にとって一番安らげる場所だった。



「いや、無理」

 きっぱり言って、先生は身を翻そうとする。その腕を更に掴んで、私は一歩も引かない思いでしがみついた。

「だって先生がさっき私のこと『子ども』って言ったんですよ!? 大人なら不安で眠れない子どもをあやしてくださいっ」

「嘘つけ! お前さっき思いっきり寝てただろうが!」

「それは先生が眠るまでいてくれたからで…今リビングに行っちゃったらまた眠れなくなっちゃいますっ」

「お前……っ、なんか随分元気になったんじゃねぇか?」

 半ば呆れたような口調で言う先生は、吐息まじりに私を見下ろす。

「お願いします、今日だけでいいから。明日の朝にはちゃんと帰ります」

「………」

 顔の前で拝むように手を合わせると、先生はもう一度大きく息を吐き出した。

 分かってる。こんなワガママを言うこと自体が自分らしくないから、先生も驚いていると思う。

 付き合っている時だってこんなこと言えたことはなかったはずだ。



「……お前たまにびっくりするような爆弾ぶち込んでくるよな」

 何の比喩なのか、言って先生は私をまたベッドに押し戻した。そしてそのまま、観念したのか私の要求通り自分も布団の中に滑り込む。

「言っとくけど俺、今横になったら多分すぐ落ちるぞ。お前が寝るまで待ってられねぇ」

 よっぽど眠いんだろうか。また欠伸を漏らしながら言う先生に、私はコクコクと頷いた。

 さっきは眠るまでいてほしかったけれど、今はこんなに近くにいてくれるんだからきっともう不安と恐怖に駆られたりしない。

「おやすみなさい、先生」

 今日やっとここで笑みを漏らせた私は、微笑んで先生にそう言う。

 「ん」とだけ答えた先生は、言葉通りそのまま目を閉じた。

 懐かしいな、と思う。先生の寝顔を見られるのは何ヶ月ぶりだろう。



 そのまま先生を見つめていられたら、今日あったことなんて段々と薄れていく気さえしてくる。

 この幸せが、辛い気持ちも全てかき消してくれるだろうか。1人では乗り越えられなさそうだったその壁も、先生が傍にいてくれたら蓮くんのあの眼差しすら記憶の彼方に吹き飛ばせそうにも思う。



「…あのなぁ」

 見つめ続けてしばらくした時、ふと閉じていた目を開けて先生が呆れたように呟きを漏らした。

「そんなに見られたら寝れるもんも寝れねぇだろうが」

「気にしないでください」

「いや普通気になるだろ!」

 言って、先生はぐりっと私の頭を自分と反対側に向ける。容赦ないそれに体ごと向きを変えさせられて、私は先生に背を向ける形になってしまった。



「これじゃ寝れないです」

 傍にいてほしいという私の要望は確かに満たされているのかもしれないけれど、顔も見えないんじゃ結局1人でいるようなものだ。

「うるせぇな、お前」

 面倒くさそうに呟いた後、すっと先生の腕が伸びてきた。

 まるで抱きしめられるように両腕が首の辺りに回されて、ドクンと胸が大きく脈打ったのが分かる。



「これで文句ねぇだろ」

 耳元で囁かれる声に、心臓辺りがキュンと切ない悲鳴を上げた気がした。

 片方の腕は腕まくらをするように首の下に差し込まれ、もう片方の手が私の髪に撫でるように添えられる。

「…っ、これはこれで寝れないです…っ」

「……お前本気でうるせぇな」

 緊張の余りそう言うと、先生は吐息まじりに呟いた。

 だけどその手をどかしてくれるつもりもないらしく、やがて宣言通りに後ろから静かな寝息が聞こえてくる。



 幸せと緊張と混乱が入り乱れて陰鬱な気分なんて吹き飛んでしまったのは、もしかしたら先生の狙い通りだったんだろうか。

 この時の私には、まだそこまで計り知れなかった。




******



 あんな状況であの後ろくに眠れたわけもない。

 明け方になってようやくウトウトし始めたけれど、もうその頃には起きなければならない時間だった。

 学校へ行くという先生に最寄駅まで車で送ってもらい、私はそこから家へと戻る。

 本当は先生は家まで送ると言ってくれたけれど、気持ちも大分落ち着いたし夜でもないのでそこまで甘えるのも気が引けた。



 この時間なら、蓮くんはもう学校へ向かっているはずだろうから近所で鉢合わせることもないと思う。

 そう思っていつもの道を歩き、家へと進んだ。





 先生の家に置いてあった荷物は持てるだけ持ってきた。

 先生が一瞬何かを言いたそうな顔をしたようにも見えたけれど、私の気のせいかもしれない。

 服やパジャマから、シャンプーなど日用品の類まで結構な量を置きっぱなしにしていたので、両手に持った袋はかなりの重さだった。



 その荷物の中にストールが一枚あったので、首元にそれをかける。

 制服姿にストールという妙な格好ではあったけれど、昨日のあの「痕」を隠すにはこの方法しかなかった。




 駅から大荷物でひょこひょこ歩いていると、やがて近所のレンタルビデオ屋の前を通りかかる。

 そこから家までは後ほんの数分だ。肩から提げた鞄を持ち直してその前を通りすぎようとした瞬間、後ろから声をかけられた。

「かーのじょ、お茶しない?」

 いつの時代のナンパのセリフか、眉を寄せながら私は後ろを振り返る。

「……!」

 そしてその目に映った相手の男の人の姿を捉えて、思わず目を見開いてしまった。



「修司さん…!」

「おはよ、和美ちゃん」

 ここのところ会えずじまいだった修司さんが、そこでニッコリと笑ってみせた。






「なんか随分と大荷物だね」

 私の荷物を横目でチラリと一瞥してから、修司さんはそう言った。

 どうやら修司さんは私に会いに来てくれたらしい。今朝から私の携帯が繋がらないから、直接会いに来たようだった。

 そう言えば携帯電話は昨日の夜から充電が切れたままだ。



 レンタルビデオ屋に車を停めて、修司さんはもう一度私に連絡をしようとしていたところだったらしい。

 偶然そこを通りかかって、会うことができて良かった。促されるまま車に乗せてもらって、修司さんは私の大荷物を後ろのトランクに押し込んだ。

「どこか行ってたの? 珍しいね朝帰りなんて」

「……えーっと…」

 修司さんには散々迷惑をかけたし、説明したいのはやまやまだけれど何から話せばいいのか分からない。

 答えあぐねていると気を遣ってくれたのか、「ふーん」とだけ呟いて笑うとそれ以上は追求しないでいてくれる。

 この分だと違和感ありすぎるストールにも気づいているのだろうけれど、あえて問われることもなかった。修司さんはこういうところが本当に優しいと思う。



「朝食べた? お茶くらいなら付き合ってくれる?」

「あ、はい」

 そう答えると、修司さんは私の家とは反対方向に車を走らせる。まだ10時前だからほとんどのお店は開いてないだろうけれど、セルフサービスのカフェくらいなら早朝からやっているだろう。



 修司さんが連れて行ってくれたのは駅の方へ戻った場所にあるカフェで、休みの日の割には早い時間だからかまだ客もまばらだった。

 コーヒーを買って2人席に向かい合って座る。フロアの一番端の席を選び、周囲に人がほとんどいないことを確認してから私は口を開いた。

「修司さん…あれから、大丈夫ですか? お仕事とか…」

 私の遠慮がちな問いに、修司さんは砂糖を入れたコーヒーをかき回しながら「うん」と短く答えた。

 だけどその時の笑顔がいつも通りのものだったので、嘘や気を遣っての返事ではないと分かる。



「そのことで和美ちゃんに話したいことがあったから、会いに来たんだ」

 そう言った修司さんは、もう一度ニコリと微笑んでみせた。



「今朝、事務所から連絡があったんだ。クレームの件、訴えるなんて話にもなりそうだったけど全部取り下げられたって」

「え…?」

 口をつけないままのカップを両手で包み込んだまま、私は思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

「無事に話がついたみたいだから、和美ちゃんには一番に知らせておきたくて」

 心配かけてごめんね、と修司さんは笑ってそう続けた。

「諒子の方も同じ。今朝になって和解したみたいで、謹慎もとけたんだ。…まぁ偶然とは思えないんだけど…そっちで何かあった?」

「……」

 驚きの余り即座に答えられない私の顔を、修司さんは穏やかな表情のままじっと見つめる。

 声を失ったように喉から出てこない言葉。それが分かったからか、やがて彼はまた微かに笑った。

「まぁ…ユキ、だろうと思うけど」

 呟くようなその言葉に、私は「…え?」と首を傾げる。

「今回の原因は、やっぱり成川先生だったんだよね? それが急に収束するなんて、ユキが何とかしたとしか思えないよ」

「……」

 そう…なんだろうか。確かにあの蓮くんが、昨日あの場で先生に殴られただけで全てから手を引いてくれるとも思えない。だから何かきっかけはあったのだろうけれど、先生は昨日私とずっと一緒で…。



 ? 「ずっと」…?




 でも自分が眠っている時までどうだったのか、私に確信は持てないということにこの時になってようやく気がついた。




「ユキがさ、動いたんならもう何も心配ないと思うよ、和美ちゃん」

「修司さん…」

「まぁユキが本気で何とかしてくれたんなら、成川先生の方が逆に心配だけどね」

 言われた意味が分からずに小首を傾げると、彼は悪戯っぽい笑みで眉を下げた。

「ぼっこぼこにされてるんじゃないかな、きっと」

「……まさか…」

 …そうは言うものの、昨日蓮くんに一発殴りかかった先生の剣幕を思い出すと強くは否定できない。

「公務員が傷害沙汰なんて問題だけど、成川先生の方も今回ばかりはユキに殴られても表に出せないだろうしね」

 確かに、蓮くんにとっても殴られたからと言って大事にはできないだろう。先生に殴られたいきさつなんかが知られたら、それこそただじゃ済まないはずだ。



「あ~、でも、ちょっと悔しいな」

 私が頭の中で色々なことを考えめぐらせているその時、修司さんはそう言って小さく苦笑を浮かべた。

「『悔しい』?」

 その単語を復唱すると、小さく頷き返してくれる。

「こっちが何とか画策してうまくいかなかったことも、ユキが出てきたら一発で収まっちゃうんだもんな」

 テーブルに頬杖をついた態勢で、修司さんはそう言った。

 …そうだろうか。私は、あの時にああやって修司さんが咄嗟に嘘をついて助けてくれなかったらもっと悪い方に話がいっていた気がする。

 たとえば私と先生の関係を知ったのが今回のように蓮くんだけで済まずに相澤先生もだったら…もっと学校を含めた大問題に発展していたんじゃないだろうか。



「私は…修司さんに感謝してもしきれません」

 先生だって、きっと同じことを思っているはずだ。

 確かに結果的に先生が蓮くんと直接話をつけて収まったとしても、修司さんが助けてくれたことは無駄でも迷惑でもなかったはず。

 その部分に関しては確信に似た思いがあった。



「諒子も反省してたよ。あいつが文化祭で変に成川先生を煽ったんだって? 和美ちゃんに迷惑かけたって」

「…そんな…!」

 ぶんぶん、と私は首を大きく横に振る。諒子さんと蓮くんの間でどんなやり取りがあったのかは結局聞けずじまいだったけれど、私のために何とかしてくれようとしただろう諒子さんの気持ちが嬉しい。

「私は…恵まれてると思います」

 こんなに自分のために何かをしてくれる人たちがいる。困っていたら手を差し伸べてくれる人たちがいる。

 それは当たり前のようになっているけれど、本当は稀有でありがたいことなはずだ。



「…和美ちゃん、普段はこんなに素直なのにねぇ」

 やがてそう呟いた修司さんは、コーヒーを飲みながら小さく肩を竦めてみせた。



「『普段は』?」

 その単語1つで、褒められている気がしない。眉を寄せて唇を尖らせ聞き返すと、修司さんは今度はニヤッと笑った。

 いつもの私が好きな笑顔ではなく、今回ばかりは少し嬉しくない笑みだ。



「周りの人間にはとても素直だと思うよ。そうやって正直な感情を言葉にしてくれるから、俺たちも和美ちゃんのためなら何かをしたいって思うんだ」

「……?」

 頭に疑問符を浮かべる私に、修司さんは同じように首を傾けて笑う。

「ユキのことに関してだけは、途端に頑固になるよね」

「! ……っ」

 思わず絶句して、私は目を丸くした。そこでそんな風に言われるとは思ってもみなかったからだ。



「違ったらごめん。和美ちゃんさ、もしかしたら今日、ユキのところから帰ってきたんじゃないの?」

 さっきからそう見当はついていたのか、修司さんは何でもないことのようにそう言う。

 私はというと、図星を指されてごまかすこともできず、ためらいがちに頷くしかなかった。

「昨日…蓮くんとちょっと色々あって…先生に助けてもらって…」

 言い訳のように口ごもりながら何とかそれだけ言うと、修司さんは「そっか」と優しく相槌を打ってくれる。

 なんだか無断外泊を父親にでも言い訳しているような心境になったことはあえて言わない方がいいかもしれない。



「それで、どうだった? ユキの部屋。相変わらずだったんじゃない?」

「…え?」

「和美ちゃんが思ってたように、由香子さんとヨリを戻したような感じや他に女の人がいるような感じじゃなかったんじゃない?」

「……」

 言われて、思わず私は言葉を失う。

 そう言えば…昨日は自分のことで精一杯で、そんなことまで頭が回っていなかった。

 確かに、先生の部屋は「誰か」特別な人が通っているようには思えなかった。



「和美ちゃんさ、本当はもう分かってるんじゃないの?」

「え…?」

 尋ね返した私は顔を上げて修司さんを見つめ返す。だけど彼は、もうあの柔和な笑みを浮かべたりはしていなかった。



「ユキが今誰を想ってて…誰を待ってるのか、本当はもう分かってるんだよね?」




「………」

 修司さんの言葉が、店内を流れるBGMに乗って私の耳と胸に届く。

 だけどそれに答えることもできないまま、私は声と一緒にゴクリと息を飲み込むしかなかった。






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