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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レイ

とある侍女の願い

作者: 美緒

残酷な表現を含みます。

苦手な方はご遠慮ください。

――……あぁ……どうか、あのお方を助けてください…………



私は、あるお方の侍女を勤めておりました。

私が仕えるようになったのはあの方が6歳の頃でした。

初めてお姿を目の前で拝見した時に、この世に存在するのかと思ったほど美しく整った容貌に見とれてしまい時が止まったかと思う程でした。

それは不躾にも凝視してしまったほどで、キツイお叱りを受けるかと瞬時に背中に汗をかいてしまいました。

身分の高い方には身分の低い者を人と思わず、ないがしろにされる方がいらっしゃいます。

そんな者に不躾に見られたとあっては、激怒されることもあるのです。

それだけですめばいいのですが、中には首にする方や悪ければ命を落とすこともあるほどです。


しかし、私の主となった方は、表情一つ変えずに挨拶をした私めにたいし、よろしくとお声をかけてくださったのです!

「……はいっ、精一杯務めさせていただきます!」

一瞬何を言われたか判断出来ず、遅れてしまいましたが私の意気込みをお伝え致しました。

こんなに下の者を気遣ってくださる主人になる方は少ないです。

しかもまだ6歳と言う幼さですよ!

幼い中にある高貴で聡明な一面を感じました。

その反面、幼いのに無邪気さや表情がないのが気になりました。

これからずっと一緒にいることになる新しい侍女がついたりしたら、期待や不安などが表情に出てもおかしくはないと思うのですが…………



私の心配は杞憂には終わってくれませんでした。

残念なことに私の見惚れたその容貌が動く事はありません。

ずっと拝見していたところ若干の変化があることに気付く事は出来ましたが、このお方に気を配っていない方には到底気付く事ができないほど僅かでしかありません。

なにが姫様を追い詰めたのか、すぐに検討出来てしまったのがとても悲しい事実だと突きつけているようでなりません。

その人物はなんと!姫様の親族の方達でした。


なぜと思うほど、あの姫様をないがしろに扱うのです。

姫様が生粋の嫡出であるのは間違いないのですが、私の雇い主である旦那様だけでなく、奥様牽いてはご兄妹全ての方が冷たく接するのです……。

姫様に対して接する時よりも私などの下の者を相手にしているときの方が優しいほどです。


たからと言って私の考えが変わるわけではありません。

もしろ、姫様の支えに慣れるよう今まで以上に精神繊維込めてお仕えいたします。



隣国の方と結婚されることになりました。

今まで優しさに触れられなかったこの方の心の拠り所になれるような優しい方であれば良いのにと思ってましたのに……



ご結婚された殿方は姫様のご親族と同じ人種だったのでございます…………

祝儀の儀を終えた姫様に対して大変失礼な事を申されました!

「噂通り人形みたいだな。それを見乞おして結婚したのだ。今まで通り…………いや、今まで以上に言われた通りに過ごせ。お前に意思はない。生きた人形だと思え。もし、それを違えたときは死しかないと思え。これは貴女の両親からも言われていることだ。では、下がれ。呼ばれるまで部屋から出るな」

続けざまに語られる内容は姫様の心を抉る事ばかりなのにも関わらず、それに対して一切口をはさむことを許さない口振りでした。

しかもご両親まで!!

怒ることも嘆くこともしない主人であるあの方に代わって死を覚悟で一言申そうとしましたが、視線で止められてしまいました……。

なぜそこまで我慢なさるのか理解できませんでしたが、姫様が止めろというのならばと従いました。

ご結婚されてしばらくすると、人形姫と揶揄されあることないこと囁く不届きものもいましたが、姫様付きになったからや姫様と接しられた人のなかに姫様を指示する人も増えてきました。

嬉しいばかりです。


そんな浮ついた気持ちで仕事をしていたからでしょう。

やってはならない失敗を犯してしまいました…………

しかし、私には一切お咎めはありません。

その代わりに姫様がひどく当たられてしまったのです。

自分の失敗で姫様がひどい目に合っている事に我慢出来ず、止めてという制止を振り切って旦那様に直訴致しました。

しかし、その結果は余計にあの姫様に降りかかってしまうという悪循環を生みだしてしまいました。

こうしたことがあり、私どもが自分の主を守ろうと表だって動けば、めぐりめぐってあの姫様を辛い目に合わせてしまうと分かってからは、決して失敗をせず、何かがあった時は秘密裏に誰にも知られることなく処理するすべを身につけました。

それは次第に姫様の評判を落としていくこととも繋がっていくこととなりました。侍女にさえ見放された人形姫とささやかれる中傷、嘲り……。私たち侍女は声を大にして姫様を庇いたいのを押しとどめたのでございます。



しかし、悪いことは重なるものです。

姫様がお体を崩されました。

ご実家に居られたころは健康で風邪という風邪をひいたことがないあの姫様の身体が徐々に蝕まれて行きました。

最初はふらつくことがあっただけでしたがついには倒れ、床から起き上がることもできなくなってしまわれました。

何が原因か分からず、顔を青くしながら医師を呼び診察を行いますが原因は不明としか伝えられず、私たち数名の侍女が入れ替わりで看病をすることになりました。

しかし、一向に回復の兆しは見えず、目に見えて衰弱していくのが分かりました。

そんな中一度だけ旦那様がお見えになりました。

私たち侍女全員の退室を命じられ、衰弱される姫様のそばを離れるのを躊躇している私を静かに大丈夫だからと下がらせました。

二人の中で何があったのか存じ上げてはいません。

その二日後、姫様は息を引き取られました。

幼いころからお傍に居させていただいた姫様が居なくなったという事実を最初受け入れることが出来ず、涙さえ流す事が出来ませんでした。その他の侍女の方は静かに泣き崩れる方や声を少し上げ泣く方ばかりでした。

しかし、私だけが泣くことはできなかったのです。

恐らく姫様が亡くなったことを受け入れたくなかったからだと思います。

葬儀は質素に身内ともいえない、姫様付きの侍女と旦那様とが行い、御墓は誰も来ることはないだろうと思われる領内の外れに誰のものとも分からないものでした。

あの姫様を失った悲しみに囚われ過ぎて批判することも忘れ、そのまま葬儀は完了してしまいました。

葬儀が終わってもあの姫様の死を受け入れられない私は、いつも目にしていた姫様の部屋に赴いても見つけることが出来ないこと、静かで優しい時の流れが止まった部屋の空気を感じると胸にぽっかりと穴があいているのを感じました。

徐々に徐々に、姫様の死を受け入れていった時の事でした。



私たち姫様付の侍女は他の仕事に割り振られましたが、しばらくの間はこのままでいいとのことと、姫様の部屋の後片づけをいいつけられていたのでいつものように姫様のお部屋で後片づけという名の名残惜しさをかみしめていた時でした。

なにやら外がやけに騒がしくなり、その喧騒は何か族でも入ったかのような悲鳴が響き渡っていたのです。

何が起こっているのか分からず互いに他の侍女の方と目を合わせ、外に確認しにいくことにいたしました。

姫様の部屋から出て廊下を歩いている最中に出会ったのは、まぎれもなく私たちのお慕いしている姫様でございました!

しかし、亡くなられた姫様がここにいるのか不思議でなりませんでした。

また会えた事に対する喜びを噛みしめた次の瞬間に、姫様の白く陶器の様な手が真っ赤に染まっている事に気付きました。

よくよく見れば、手だけではなく全身が真っ赤に染まっていたのです。

私たちの姫様がこのような事を!と思わず否定したくなりましたが、姫様の死後噂に聞いていたことがあったのですぐに納得しました。

姫様は病死ではなく毒殺だったと――――。

あの噂は本当だったのだと。

姫様の美しい黒曜石の様な瞳は、何かを移すことを忘れた紅い瞳に変わっているのを見て確信いたしました。

他の者たちを手にかける姫様は、生前言われていたように人形のように一寸も表情を変えられず、その瞳も光とともさずご自分で何をしているか分かっているのか不思議に思ったほどでした。

しかし、私たち姫様付の侍女一団を目にされた際に若干の変化があったのを私たちは見逃しは致しませんでした。

私たちは周りの者たちのように醜く泣き叫びも逃げまどいも致しませんでした。

姫様がそれで満足されるのならばとその身を捧げました。

最後の瞬間に若干悲しみを帯びたその表情に、姫様に付けられた次よりも深く心を抉られる思いでした。


どうか……どうか、悲しまないで。

何もできなかった私たちを憎みはしても、殺してしまったことで罪悪感を抱かないで欲しい。


そして、生前は受けることのできなかった喜びを……

生きることの楽しさを……

愛することの大切さを……

知って欲しいと願うばかりです。



だれか……

誰か…………!!

私たちの姫様に幸せと優しさを与えてください――――。



そして、彼女達は息を引き取った。

命に換えてまで守りたかった者を守り切れなかった悔しさを胸に、守りたかった者の手にかかって――――。


侍女たちの願いが通じたのかは分からない。

彼女が多くの命の灯を消やした後、彼女は一人の青年と出会う。

その青年との出会いで彼女は、生きることの楽しさ、嬉しさ、思いやり

さらには、人を愛することの大切さを知ることとなる。


名を捨て新たに付けた名は、(レイ)――――。


人としての優しさを知るのは死んでから。


悲しくも優しい話はもう少し先の事。


本編を書いているときに、なぜかこっちの方が先に出てきました^^;


ちなみに、作中のレイが回想している最中の「私のことを気遣ってくれた人たちが少なくともいたことに。」と言っていた人たちはこの侍女の事を指します。


よろしければ、本編もよろしくお願いします。

いつも読んで下さる方、もう少しお待ちくださいませ……。

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