届いていたのに、触れられなかった。
幼なじみは、恋愛の対象にならない存在だと思っていた。隣にいるのが当たり前すぎて、わざわざ意識する理由がなかったから。
小さい頃から同じ帰り道で、同じ公園で遊んで、同じように叱られて。名前を呼ぶのも自然すぎて、特別なんて言葉は到底似合わなかった。
だから、彼女が誰かに告白されたって話を聞いたときも「へえ、そうなんだ」と流した。その一言で済ませた《《つもり》》だった
―――胸の奥が、少しだけ痛んだことに気づかないふりをして。
変わったのは、些細な瞬間だった。夕焼けの帰り道、彼女がふいに言う。
「ねえ、私たちって、ずっとこのままなのかな」
笑いながらの一言だったのに、やけに心に残った。このままってどういう意味だろうか。友達?幼なじみ?それとも、まだ名前のついていない関係?
その日から、彼女の仕草が気になり始めた。髪を結ぶ指先も、眠そうに目をこする横顔も。今まで見てきたはずなのに、全部が少し違って見えた。
そして気づけば、彼女の話をする友達の言葉に少しだけ胸がざわつくようになっていた。
ただの友達だと思っていた。幼なじみだと思っていた。でもそれは、恋愛として絶対に好きにならない理由にはならなかった。
勇気を出して伝えたその想いは、震えていたと思う。失うのが怖くて、壊れるのが怖くて、それでも。
彼女は少し驚いた顔をしてから、困ったように笑った。
「気づくの、遅いよ」
その一言で、世界が一気にひっくり返った。
幼なじみだった時間は消えない。友達だった記憶もなくならない。ただそこに、新しい感情が重なっただけ。
いちばん近くにいたからこそ、いちばん大事なものを見落としていた。
でも今は、ちゃんと分かる。当たり前だった隣は好きになるには近すぎるぐらいの距離だったんだ。




