みいちゃんと空飛ぶコタツ
みいちゃんは、小学一年生の女の子。今日はお母さんのお手伝いで、春を迎えるための準備をしています。みいちゃんは次、二年生になるのです。
「みいちゃん、次はコタツをしまおうか」
お母さんがそう言いました。みいちゃんの家には和室の真ん中にコタツが置いてあります。そのコタツを物置にしまうのです。
冬の間大事に使ってきたコタツとのお別れは、みいちゃんにとってとても悲しいことでした。
「お母さん、しまうのやめにしない? このままここに置いておいちゃだめ?」
「ダメよ。春にはコタツなんていらないでしょう? コタツをしまうかわりに、夏になったらこの部屋で楽しいことをしましょ」
お母さんの言葉に、みいちゃんはしぶしぶ片付けることにしました。去年の夏にみんなで流しそうめんをしたことを思い出したのです。
みいちゃんが持ち上げようとコタツにかけたときでした。
プルルル、プルルル
お母さんが持っていたスマートフォンが鳴り出しました。
「あらいけない。お父さんから電話だわ」
お母さんは「ごめんね、ちょっと待ってて」と手を合わせながらみいちゃんのもとから去っていきました。お父さんが電話をかけるときはだいたい急用なのです。
慌ただしくお母さんがいなくなり、みいちゃんはどうすれば良いのかわかりませんでした。
そのとき、急にコタツが浮き始めたのです。
「ちょ、ちょっと待ってコタツさん!」
思わずみいちゃんはコタツにしがみつきます。なすすべなく、コタツとそれにしがみついたみいちゃんは空へと昇っていったのでした。
みいちゃんは、空を飛んでいくコタツの上にこしかけます。足の下にみいちゃんの住む街が、ぐんぐんと小さくなっていくのが見えました。
「コタツさん、どこまでいくの?」
コタツは答えません。無機物ですから。
「コタツさん、みいは雲の上に行ってみたいな」
コタツは答えません。それでも、みいちゃんの言葉に応えるようにぐんぐんと速度を上げていきました。
気づけば道を歩く人も米粒より小さくなり、みいちゃんは落ちそうで少し怖くなりました。みいちゃんの乗るコタツは、ぐいんと飛んで雲の中へと入っていきました。
雲の上には、たくさんの人が歩いていました。
「はじめまして、君、このコタツに乗ってきたの?」
目の前にはきれいなお姉さんが立っています。
「うん。そうだよ。お姉さんはなんでここにいるの?」
「私は雲の上で神様の見習いをしているんだよ。人間はあんまり知らないけれど、雲の上には神様がたくさん暮らしているんだ」
お姉さんはニッコリと笑って言いました。右手には雲のようにふわふわな綿あめが握られていて、それをみいちゃんに差し出しています。
「ありがとう、お姉さん。ここにはたくさんの神様がいるんだね。みい、雲の上を歩いてみたいな」
「もちろんだよ。ようこそ、雲の上へ」
お姉さんは笑顔でみいちゃんに手を差し伸べて言いました。
コタツから降りたみいちゃんは、お姉さんと手を繋いで雲の上を歩いていました。
「雲の上はきれいなものがたくさんあるんだね」
「そうなんだよ。どこか行きたいところはある?」
お姉さんの言葉に、みいちゃんはうーんと考え込んだあと、元気いっぱいに言いました。
「みい、雲食べてみたい!」
「みいちゃん、いま食べている綿あめはこの雲からできているんだよ」
にこにこしながらお姉さんが教えてくれました。雲みたいな綿あめだと思っていたら、本当に雲だったようです。
「えへへ……そうなんだ。お姉さんありがとう。じゃあ、お姉さんのおすすめの場所に連れて行ってほしいな」
「じゃあ、雲の上でトランポリンできるところあるんだ。そこに行こうか?」
お姉さんと手を繋いで、みいちゃんは雲の上をぴょんぴょんと歩いていきます。
「お姉さん、あっちのかわいい建物はなあに?」
「あれは小学校。神様にも小学校や中学校があるのよ」
みいちゃんが疑問に思ったことに、お姉さんが丁寧に答えてくれます。雲の上の神様の世界は、いたるところがファンシーなデザインでできています。みいちゃんは、あっちへきょろきょろ、こっちへきょろきょろ、落ち着きません。
みいちゃんが街を歩いていると、人間をあまり見ないのか、沢山の人が手を降ってくれます。
「わあ、神様ってみんないい人なんだね」
みいちゃんがそういうと、お姉さんは顔を曇らせました。
「神様だって人間と一緒だよ。いい人だって、悪い人だっているんだ」
急に暗い顔をしたお姉さんを、みいちゃんが心配そうに見上げます。
「……いけないいけない。こんな話じゃなかったね。そろそろトランポリンにつくよ」
お姉さんが道の先の方を指さしたので、みいちゃんもつられて前を向きます。遠くの方に、大きなトランポリンが見えました。
「わあ、楽しみ!」
「さあ、ここが大きなトランポリンだよ。心置きなく跳んでおいで」
「わあ……!」
雲の色をしたトランポリンの上で、子どもの神様たちがきゃっきゃっと跳んでいます。
これまで歩いてきた雲の道と同じ色をしているのに、そこだけ空高くまで飛ぶことができるのです。
みいちゃんはおそるおそるトランポリンの上に昇り、ぴょんぴょんと跳んでみました。地上ではありえないくらいに上へ飛べます。
「楽しい……!」
「ふふ、みいちゃんに雲の上で思い出ができたのなら良かったよ」
お姉さんも微笑んでいます。
と、そこに。
「みいちゃんっていうんだね。一緒に遊ばない?」
おじさんが現れてみいちゃんに手を差し伸べました。
「いけない、正義の神だわ」
お姉さんが焦った様子でみいちゃんに瓶を差し出しました。
「そこには、雲が詰まっているから。そのまま、コタツに乗って帰ってね」
お姉さんが手を軽く振ると、みいちゃんが乗っていたコタツが現れました。
「……お姉さん?」
「みいちゃん、楽しかったよ。ありがとう」
みいちゃんがコタツに乗ると、急に眠気が襲ってきました。
たくさん歩いたから、疲れたのでしょうか……
「みいちゃん、寝ちゃったの? さあ、コタツの片付けするわよ」
みいちゃんが目を覚ますと、目の前にはお母さんがいました。
「お父さん、弁当を忘れちゃったみたいなの。『とどけて』って言われたから、『休み時間に取りに来い!』って言っておいたわ。みいちゃんとの大切な時間を減らしたくないものね?」
おちゃめなお母さんはウインクをしてコタツに手をかけました。
コタツを片付け終わって、みいちゃんは手に持っていた瓶を開けました。
お姉さんから渡された雲が、空に昇っていきました。
「お姉さん、ばいばい」




