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今も昔も星は僕らを見ることを繰り返す  作者: raira
原初の孤独と悠久の誓い
3/7

新たな傷と小さな希望

うなり声が森に響き渡った。

それは、生と死の境界線を引くような、血肉を求める咆哮だった。目の前に現れたのは、一頭どころではない。狂った牙の虎は、三頭いた。どれも通常の虎より一回り大きく、脂の乗った巨体には無数の古い傷跡が刻まれていた。そのぎらつく眼差しは、飢えと狂気に満ちている。

カイは咄嗟にナギを背中に庇い、石斧を構えた。背中に伝わるナギの震えが、この状況の絶望的な危険度を物語っている。「逃げろ、ナギ!」カイは叫んだ。しかし、ナギは動かない。その手には、石の短槍が握られていた。

「一緒だから!」ナギの声が震える。

逃げ場はない。三頭の虎は、まるで計算されたようにカイたちを囲む陣形をとった。一頭が低い体勢で喉を鳴らし、注意を引きつける。残りの二頭は左右から回り込もうとしていた。経験に基づいた連携プレーだ。

カイは冷静さを保とうとした。考えるんだ。原始の森では、力だけが全てじゃない。知恵だ。視線は常に三頭の動きの中心を捉えながら、カイは地形を探った。すぐ後ろには大きな岩壁がある。背後を塞げば、一度に対処するのは一頭か二頭で済むかもしれない。

「岩壁まで走るぞ!俺が前を塞ぐ、ナギは隙を突いて薬草を!」

カイがそう叫んだ瞬間、正面の虎が地を蹴った。巨体が宙を舞い、鋭い爪が風を切る。カイは身を捻って避け、石斧を虎の側頭部に叩き込んだ。手応えはあったが、虎はバランスを崩しただけで、すぐに体勢を立て直す。皮膚は硬く、石斧の刃は浅い傷しかつけられなかった。

その隙に、右側の虎がナギに襲いかかった。ナギは恐怖で体がすくみそうになりながらも、教えられた通りに槍を構え、虎の突進を受け止めた。槍先が肉に食い込むが、虎は怯むことなくナギの腕に噛み付いた。

「ナギ!」カイは駆け寄ろうとするが、左側の虎がそれを阻む。

このままでは二人とも死ぬ。いや、ナギだけが死ぬ。俺は、死ねない体かもしれないが、ナギは違う。ナギは、死ぬ。その事実に、カイの頭は氷のように冷たくなった。

もし、自分が死なないのなら。

カイは決死の覚悟で、左側の虎の牙が剥き出しになった口元に、自らの左腕を差し出した。虎の牙が肉に食い込み、骨に当たる鈍い音が響く。激痛が走る。だが、その一瞬の隙を逃さなかった。

カイは石斧を振り上げ、無防備になった虎の首筋に、渾身の力で打ち下ろした。ごつり、という音と共に、虎は血飛沫を上げて倒れ伏した。

残るは二頭。血の匂いに、虎たちはさらに凶暴になった。

「カイ!」ナギは噛み付かれた腕を振り払い、傷口から落ちた薬草を拾い上げた。

カイは正面の虎と対峙していた。腕からは血が流れ出し、視界が滲む。だが、彼は諦めなかった。虎が再び飛びかかってきた瞬間、カイは横に飛び退き、虎の腹部に石斧を深く突き刺した。虎は苦悶の叫びを上げながら、力なく地に伏した。

残る一頭は、仲間たちの死に怯えたのか、あるいは元々負っていた古い傷が開いたのか、血を吐きながら森の奥へと逃げ去っていった。

静寂が戻った森の中、カイは崩れ落ちた。左腕の傷は深く、骨が見えていた。普通なら、ここで意識を失い、やがて命を落とすだろう致命傷だ。

ナギが駆け寄ってくる。その目には大粒の涙が浮かんでいた。「ごめん、カイ……」

ナギは震える手で、必死に薬草を傷口に押し当てた。冷たい薬草の感触が、焼けるような痛みを和らげる。そして、ナギは自分の服の一部を破り、傷口をきつく縛った。

「俺は、大丈夫だ」カイは掠れた声で言った。意識は朦朧としているが、不思議と死の気配は感じなかった。体の奥底で、何かが蠢いているような、奇妙な感覚があった。

村に戻った二人を待っていたのは、安堵だけではなかった。「禁じられた森」に入ったことへの咎めと、虎を仕留めたことへの畏怖の視線。そして、何よりも、カイの傷の治りの早さに驚愕する村人たちの視線だった。

傷は確かに致命傷だった。だが、数日後、その傷口は驚くべき早さで塞がり始めていた。人間の治癒能力を超えた回復力。村人たちは囁き始めた。「あの少年は、呪われているのかもしれない」「神の化身か?」

カイは知った。自分は、簡単に死ねない体なのだと。

夜、再び星を見るために岩山に登った。隣にはナギがいる。腕に残る真新しい傷跡を撫でながら、カイは思った。

この力は、呪いではないのかもしれない。この温かな手を、いつか冷たい泥の中に消えさせないための、小さな希望なのかもしれない、と。

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