星の色を知らぬ子供たち
空の色は、いつだって変わらない。
例え地面の上を這い回る命が、石の槍を振り回していようが、あるいは――まだ見ぬ遠い未来で、鉄の箱に乗って空を飛んでいようが。頭上に広がる濃紺の深淵だけは、数万年前から同じ表情で僕を見下ろしている。
僕の名前は、カイ。
この集落で一番の「皮なめし」の息子であり、そして――この世界で一番の「異物」だ。
「おい、カイ! また空を見てるのか。そんな暇があったら、マンモスの筋をほぐすのを手伝え!」
背後から飛んできたのは、乾いた獣の骨だ。僕の後頭部に当たり、カランと虚しい音を立てて転がる。
振り返ると、そこにはナギがいた。黒曜石のように鋭く、けれど陽だまりのような暖かさを宿した瞳を持つ少女。彼女の髪には、狩りの戦利品である鳥の羽が乱雑に刺さっている。
「……ナギ。空を見ていたんじゃない。雲の動きを見ていたんだ。もうすぐ、北の山から冷たい風が来る」
「ふん、長老みたいなことを言って。あんた、まだ僕らと同じ十四の冬を越したばかりじゃないか」
ナギは鼻を鳴らし、僕の隣にどっかと座り込んだ。
十四。そうだ、この集落の数え方では、僕は確かに十四だ。
けれど、僕の胸の奥にある「記憶の澱」は、もっと長い時間を語っている。
異変に気づいたのは、三つ前の冬だった。
集落の子供たちは皆、冬を越すごとに背が伸び、声が低くなり、顔つきが険しくなっていく。厳しい自然の中で生きる僕らにとって、「成長」とは「戦力」になるための絶対条件だ。
なのに、僕は違った。
三年前から、僕の背丈は一分も変わっていない。
声は変わりかけのまま止まり、鏡代わりに覗き込む水面に映る顔は、あの日から時を止めたように幼いままだ。
最初、母さんは「精霊の悪戯だ」と笑った。父さんは「たくさん肉を食べれば伸びる」と、血の滴る肉を僕に押し付けた。
けれど、今はもう、誰も笑わない。
集落の大人たちは、僕と目を合わせる時に、森の奥に潜む名もなき獣を見るような、薄寒い「恐れ」を浮かべるようになった。
「ねえ、カイ。本当は知ってるんでしょ?」
ナギが不意に、真剣な声を出した。彼女は半分に割れた黒曜石の破片で、鹿の皮を削っている。
「何を」
「あんただけ、ずっと変わらないこと。……あんたの時間は、凍りついてるみたいだ」
僕は黙って、自分の手のひらを見つめた。傷一つない。昨日、鋭い石で切ったはずの傷が、朝起きたら跡形もなく消えていた。
死なない。老いない。
それがどんなに恐ろしいことか、この時代の人間には理解できないだろう。
命とは、一瞬で燃え尽きるからこそ、冬の火のように尊いのだ。
「……ナギ。もし僕が、おじいさんになってもこの姿のままだったら、君はどうする?」
冗談めかして聞いたつもりだったが、声は震えていた。
ナギは手を止め、真っ直ぐに僕を見た。そして、悪戯っぽく、けれど何よりも熱い拒絶を口にした。
「決まってるじゃない。あんたが老けないなら、僕が追い越してやるわよ。それで、あんたが迷子にならないように、僕が手を引いてやるんだ」
彼女は僕の手を掴み、力強く握った。
その手の熱。ドクドクと脈打つ、有限の命の鼓動。
それは三万年後の未来にまで響く、僕の最初の「青春」の音だった。
しかし、この時の僕はまだ知らなかった。
この温かい手が、冷たい泥の中に消えていく日が来ることを。
そして僕だけが、そのぬくもりを抱えたまま、終わりのない荒野を歩き続けることになることを。
遠く、北の山で雷鳴が轟いた。
時代が、ゆっくりと動き出そうとしていた。
こんにちは!ライラです今回からやる「今も昔も星は僕らを見ることを繰り返す」は僕にとっては記念すべき第一作品目です!まだ初心者ですがよろしくお願いします!更新は不定期ですができる限り早く出せるように頑張ります!これからよろしくお願いします




