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天よ、真意を問う~太陽と神に叛いた日~  作者: いづかあい


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第五節 籠中の鷹


「く、くそ!覚えてろよ!」


分かりやすい恨み言を唱えながら去っていく男たち。

慌ててそれを追いかけようとしたリベラだったが、ゼノに止められた。


「追わなくていい、リベラ」

「でも…」

「…あいつら、騎士じゃないから」

「え?それって…」

「ライラ!!このバカ!」

「ゴ、ゴメン…つ、かっとなって」

「全く…」


ミシェルが怒声が聞こえると、ダインがこちらを向き、頭を下ろす。


「お見事な采配でした、ゼノ殿。…正直、助かりました」

「ああ、お気になさらず」


言いかけて、隣のリベラが怪訝そうな顔をしているのに気が付いた。


「どうした?」

「あの、あいつら騎士じゃないって…もしかして、偽物ってことですか?」

「鎧は確かに酷似してるが、正規の鎧じゃない。…というより、任務もないのに甲冑を着て、こんな場所をうろうろするなんて、普通じゃないだろ」

「そ、それは…まあ」


(うーん…しかしあの馬鹿、どっかで見たことあるんだけどなあ)


「飾りと言えど、いい装備をしている。おおよそ、騎士になりたい叙勲前の金持ちの坊ちゃんというところだろう」

「あー…なるほど」


一通り騒ぎが落ち着くと、群がっていた人ごみがはけた。

救出された少女もロンになだめられ、笑顔を見せるようになった。


「やるな、ロン」

「!へへ…兄ちゃんもカッコよかったぜ!」

「お兄ちゃん、ありがとう!」


気が付くと、西の空は夕焼け、赤く染まった筋状の雲が沈みゆく太陽に向かって伸びていた。

ゼノの黄金の勲章は、血のような色を纏い、どこか禍々しく見える。

たまらず、ダインは尋ねた。


「…勲章を見せてしまってよかったのですか?」

「別に。こんなのただの金の飾りですから」


リベラは一瞬、言葉を失う。


「俺にとっては、無意味な枷にすぎん」


(この人ならそう言うだろうな)


「…もしよろしければ、今日はこちらに宿泊されては?」

「え?」

「少し、心配なこともあります。すぐに帝都に戻るのは…」

「ああ…さっきの連中のこと、ですね」

「心配なこと…?とは、なんだ、ゼノ」と、ライラ。

「あいつらが、どこかの良家の坊ちゃんだとして…良識のない金持ちというのは、厄介なんだ」

「…え?」

「では、お言葉に甘えようか。お前もいいか?リベラ」

「はい!わかりました」


去っていく三人を見送りながら、いまだ納得がいかなさそうな表情のライラを、ミシェルは小突く。


「…あなたが、馬鹿みたいに突っこんで、あいつに怪我でもさせたら…色々大変だったの。少しは自覚なさい」

「だが、悪いのはあいつで」

「そのその手を出した瞬間、あなたが加害者になるの!!…戦争の口実になる。結果的にゼノ将軍が止めてくれたから、良かったけど」

「そんなの理不尽じゃ」

「……理不尽なんて、世の中にたくさん溢れてる。正義だけ振りかざす前に、一度冷静になりなさい!!」

「…う、すまない…」


(…あいつ、だから)


――忠義?そんなもの、あるわけないだろう。


あの言葉の通りなら、ゼノにとっての勲章は、本当に要らぬ鎖の一つであろう。


「……一体、どんな思いで」



夜は完全に更け、辺りは静寂に包まれている。

少しだけ開いた窓から、夜啼きの鳥の声が、微かに聞こえた。


「まさか、こんなことになるとはなあ」


2人が案内されたのは、簡素なベッドが二つ並んだ古城の一角にある部屋だった。


「なあ…あの騎士モドキ、どっかで見たことあるような気がしているんだが」

「あ!それ、俺も思いました!…なんっか、見ているだけで苛つくというか、なんというか」


しばし、二人は過去に出会った人々の顔を思い浮かべるが、途中で思考を放棄した。

ゼノはそのまま横になり、無造作に勲章の付けた上着を放り投げ、天井を見る。


「あの…そう言えば、俺、初めて見ました」

「なんだ?」

「ゼノさんの勲章です。…黄金の勲章は、騎士の中でも上級職に与えられるモノでしょう?騎士ならばつけてこそ、と思っていたので」

「ああ…ロベルトの阿呆は胸にじゃらじゃらつけてご満悦だが。俺は、よほどの式典かない限り身に着けない」


黄金勲章は、戦果を挙げた者に一部の者にのみ、ヴァネッサ王から授与される。

帝国広と言えど、その胸に付けているのはほんの一握りであり、騎士を志す者達の憧れの象徴でもあった。ゼノはぞんざいにリベラに放り投げた。


「欲しけりゃ、やるよ」

「そう言う問題じゃないでしょうに…でも、俺もいつかもらえたらな」

「…お前の実家は、貴族だったか」

「アハハ、落ちぶれた家ですけどね」

「順当に行けば、一個小隊を率いる隊長職まで行けるだろうな」

「ヘヘ、相当頑張れば、ですよ」


思いがけない言葉に、リベラの胸は高揚する。

――しかし、ゼノの表情はさえない。


「ゼノさんは…騎士が嫌、ですか?」

「ん?…夢を見るお前に言うことではないが、騎士なんて所詮戦を高尚だと考える連中の駒に過ぎない。金を貰えるだけありがたい、とは思うかな」


自分とあまりにも違う価値観に、絶句した。


「俺は、階級が上がれば、もっと楽に…って、思っていましたが」

「別に、お前の価値観を否定るするつもりはない。ただ、そう言う純粋な想いは、少し眩しい」

「……すみません」

「……俺の国は、もうない」

「!」

「お前も知ってるだろ?8年前の統一戦争…隷属か、滅亡か。そのどちらかしか、力を持たない国は選択の余地がなかった」

「………はい」

「隷属を選んだ国の人間は、身分も階級も与えられない。一生帝国の一兵士として前線に送られ続け、生ける屍として帝国にしがみつく…それが、宿命だ。そんな扱いの奴は、勲章なんてものを好んでつけないだろう?」


その言葉には、リベラには計り知れない重さがあった。


「なぜ…この国に留まり続けるんです。あなたほどの実力なら、他に方法が」

「…この話はこれで終い。お前は、もう寝ろ」

「…すみません、でも。これだけは言いたいです」

「ん?」

「俺は、ゼノさんを尊敬してますッ!!…動くときは、俺を置いてかないで下さい。そういう連中が、たくさんいるってこと、忘れないでくださいね…」

「……バカなやつ」

「正直なだけです!」

「はは、ありがとう。リベラ……」

ふと、微かにもの音がした。


(今、誰か外に…?)


ドアを開くと…そこには、綺麗に折りたたまれた外套と、酒が置いてあった。


**


「ここは、星が綺麗だな」

「!」


壊れかけた城壁の上の見晴らし台の上に、ライラの姿を見つけた。

ゼノは持っていた外套を広げて自分の肩にかけ、その隣に寄り掛かった。


「返してくれるとは思わなかった」

「言っただろう、ちゃんと返す、と」

「じゃあ馬は?」

「……う、馬は、まだ返せない…」

「はは、まさか覚えてくれていたとは!」

「それが筋というものだろ?!」


(真面目というか、不器用というか)


「いいよ、君に贈ろう」

「?!」

「花のように美しいものではないが、ライラにとっては宝石にも勝る贈り物だろ?」


ちらりとライラを見ると、顔を真っ青にしている。


「…その反応は何だよ」

「そ、それは困る。無償でもらうのは施しも同然だ!なぜそんなにお前は親切なんだ?!」

「なぜって…女性に無償で贈り物ができるのは、男性の特権だろ?…お近づきになるための」

「?!!お、お近づきだと?!」

「二度の再会だ。まさに運命だろ?」

「ば、ばかばかしい!そんな体たらくでよく無事に生きて来たな?!」


ゼノの軽口に対し、ライラは青くなったり赤くなったり忙しい。

それがとてもいとおしく、不思議と心が穏やかになっていく。…不思議なほどに。


「おまえ、さっきの話聞いてただろ」

「!!!な、何のことだ」

「俺の身の上話」

「……き、聞きたくて聞いたわけではない」

「有名な話さ。…奴隷将軍・ゼノは、何も望まない、何も得ない…帝国の『籠中の鷹(こうちゅうのたか)』生ける屍、ってね。俺には鷹の爪も無ければ翼もないというのに」

「…それに、一番囚われているのは…他でもない、お前じゃないか?」

「!…俺、が?」

「いや…」


ライラは何も言わない。そして、振り切るように空を見た。


「し、しかし、まだ、あの人間以下たちの群れの中にいるのか?!不甲斐ない奴!」

「…ミシェルもだが、ここの戦巫女は皆、攻撃的だな」

「……昼間の一件、見事だった。私は、お前の持つ冷静さが羨ましい」


ざあ、と風が那ぎ、ライラのフードから長い銀色の髪がなびいた。

それを眩しそうに見やり、ゼノは目をそらす。


「冷静…は、裏を返せば慎重で、臆病なだけだ」

「…ふふ。バカを言え!剣を持った相手に、木の枝で立ち向かうお前のような奴が、臆病なわけなかろう?」


(…笑った)


それだけで、心の奥の方が少し熱を持つ。


「本当に、臆病というのは、私の事だ」

「――どこが?あの状態で飛び出す奴は普通、いない。」

「そ、それは…反省してる」

「でも、守ろうとしたんだろう?」

「…命も、誇りも…奪う奴が許せないだけだ」

「……ライラ…………俺は、奪わない方になりたい」


――目の前で、何もかも奪われた。

後に残るのは、動かない肉の塊と、虚無。


(もう、誰にも何も奪わせやしない)





**


「うわああん!兄ちゃんーーーきいてくれよお!」


同じ頃、アルベト帝国、王宮にほど近い高級住居がひしめく一角。

長きにわたる遠征任務を終えた栄誉ある称号を持つロベルト将軍は、ゆったりとくつろいでいたのだが…弟の泣き言によって、終焉を迎える。


「なんだなんだ…お前、また甲冑つけてうろうろしていたのか?!」

「だってカッコいいんだもん!どうせ来月には俺も騎士になるんだし、いいじゃないか!」

「そう言う問題じゃ…」

「それより、聞いてくれ!今日嫌な奴に会ったんだ!!スカした野郎でさ、恥知らずって言われたんだよ?!あいつ懲らしめてよーー」

「恥知らず、ねえ…で、どんな奴だ?」

「金髪で、紫色の目の…」

「…なんだと…?そいつをどこで!!」

「南東の砦さ。…ちょっと気になったから行ってみたんだけど…あの、兄ちゃん?」

「ククッ…なるほど」


(紫の瞳なんて、あいつしかいない。聖十字教団の本部の一つ…そこに、あいつが?ゼノが?!)


「ははは!あーっはははは!!!」

「に、にいちゃん?」

「でかしたぞ!!ピエール!!!お前は今日から俺の副官だ!!」

「え?ほんと?!」

「…うまくすれば、あいつを…亡き者にできるかもしれない!!」


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