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第1話 社畜のトラウマを必死に忘れようとする悪役令息

-side ジークハルト-




「フハハハハハ!父上……、とうとうやってしまったか。昔は信じていたのだがな……」



 俺様は負ける事が、大の苦手だ。

 勝利こそ絶対。そこに妥協は許されない。

 俺様も、周りもみんなそんな奴らばかりだ。どんな手を使ってでも勝つ。手段は選ばない。

 そんな事を考えているうちに、我が家の大黒柱である、父上が取り返しのつかない事をしてしまった。人身売買に手を出してしまったのである。

 しかし、父上は圧倒的な経済力と軍事力を持つ、デズモンド公爵家の当主。

 普通なら御家取り潰しとなっても、おかしくないこの騒動を、握り潰した。そう……握り潰せてしまえたのだ。

 


 おかげで、俺様たち一族は以前と変わらない、裕福な生活は出来ていているものの、貴族家としての信用は地に落ちた。今、我が家は裏で“悪の一族”、俺のことは“悪役令息”という不名誉極まりないあだ名で呼ばれているらしい。

 それでも、生き残っているのは我が家に従っている少なくない貴族家がいるからだろう。だが、その数は以前と比べてかなり減ってしまった。このままでは、我が家は没落してしまうだろう。



 --ここは、俺様が前世の知識を使い、なんとかしないといけない。父上は確かに悪いが、家族や使用人、領民は全然悪くない。



「……とはいえ、正直、俺様、過去は振り返らない主義だから、前世などくだらぬことなどほとんど、何も覚えてないのだが。」



 前世で社畜としてブラック企業で働いていた事など、もうどうでもいいのだ。……というか、いい加減あのトラウマを忘れさせてくれぇぇ!!



「まあ……、俺様の根性を持ってすれば、きっと何とかなるはずだ。必ずや、我が家の信用を取り戻す。」



 やらなければいけない事は、多々あるが、まず必要なことは、父上を家から追放することだろう。いくら、俺が頑張ったところで、犯罪者が我が家のトップをやっている現状を変えられない限り先は見えている。



「……とはいえ、堂々と言える事では無いが、俺様の交友関係はあまり広くはない。」



 公爵家の権力を恐れて、俺様の取り巻き以外は余計なことをするまいと、12歳の頃から、約5年間通っている学園では、話かけてこなかったからな。

 ……ま、まあ、こっちはこっちで、話しかけなかったのはいけないのだが。

 正直、言って俺様は根暗だから、こう……、本来、身分も近く、向こうからもフランクに話しかけてくれた、同学年にいる無駄にキラキラした光属性の第二王子であるウィリアムのような人には、無意識にビビっ……ウォッホン、反射的に他人だと思ってしまうのだ。



「しかし、今回ばかりは流石に、彼の力を頼らざるを得ないだろう。なぜか、俺様のことを気遣ってくれているのか、こうやって手紙も送ってきてくれているようだしな。」



 俺様はウィリアムから、送られてきた手紙を読む。手紙には俺様のことが、心配だから、何か行うなら手伝わせて欲しいと言うことだった。

 おそらく、頭脳明晰な彼には俺様がこれからやろうとしている事も、手に取るように分かっているから起きってきたのだろう。

 ……シンプルに陽キャサイコパス怖い。



 俺様は、なるべく丁寧に手紙の返事を書くことにした。身分が上の人に対して、礼儀は必要だからな。当然のことだ。

 書き終えたところで、一息つく。明日は学園だから、歯を磨いて寝ようか。



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