表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第5話 先輩!神殿に侵入します!

 勢いよく建早が扉を開ける。

 その瞬間だった。扉の内部で鳴り響いていた記憶の声が、水を打ったように静まり返った。

 神殿中には、幾重にも続く回廊が待ち構えていた。

 先ほどの喧噪が嘘のように、回廊は深海のような静けさに包まれている。

 建早が神殿に足を踏み入れる。葦原が続いた。靴音が響いて、神殿が輪郭を帯びる。

 壁には、何枚もの肖像画がかかっている。その全てが、曖昧な描線で《《視えない》》でいた。

 葦原が鈴を鳴らす。音の振動に沿って、絵画に、女の子の姿が浮かび上がった。


「これは……!」

「データによると、クライアントの蛇室正司は、学生時代に恋人だった少女を事故で失った過去がある」

「じゃあこの子は……! 蛇室さんの彼女……!」


 建早がうなずく。


「蛇室は目の前で倒れる彼女を、《《見なかった》》。いや、《《見えなかった》》と自分に言い聞かせたんだ。その罪悪感が、長い間世界観を脅かし、今や自分の視界すら浸食しようとしている」

「だから、《《視ること自体が怖くなった》》んだ……!」


 葦原と建早は、神殿の最深部に向かって進んでいく。つきあたりに、大きな両開きの扉があった。葦原は、扉の前で足を止めた。


「ここ……嫌な雰囲気がします」

「ここか。この扉の向こうに歪みの核があるはずだ」


 建早が剣を抜いて構えながら、扉に手を伸ばした。視界は最早完全にぼやけおり、輪郭を留めていない。だが、二人の聴覚は研ぎ澄まされていた。建早の手が扉を押す。

 ゆっくりと扉が開いて行く。

 内部は、一点の光もない暗闇だった。二人は慎重に、内部に侵入して行った。

 葦原の鈴の音が、足元の空気を震わせて広がって行く。そのたびに、空間の輪郭が少しだけ視える。しかし、それはすぐに闇に溶けて、黒い無に戻って行った。


「完全に……視界が崩壊しているな……」

「先輩……っ気を付けて……!」


 葦原は額に汗をにじませて、建早の背を追った。

 前方に、大きな扉が出現する。二人は手探りで、扉に手を置いた。

 大扉がドクリと振動して、扉自身がつんざくように声を上げた。

 それは悲鳴だった。


『見なかった! 俺は見なかったんだ!』

「……っ……!」

「……チッ……!」


 建早が低い声で言った。


「この先は蛇室の最深の記憶がある……視ることを拒否し、認識ごと封印した場所……この扉の先に、歪みの核がある」

「……視ることでしか、救えないんですね……!」


 葦原は覚悟を決めて、鈴を強く鳴らした。

 その音が開かなかった扉の封印を解いた。扉は、軋みながら開かれた。

 中は、真っ白だった。

 床もなく、壁もなく、天井もなく、ただ白い空間が広がっている。

 中央には、ひとりの青年がうずくまっている。


 蛇室正司。


 彼はうずくまったまま手で顔を覆っていた。

 目の前には、セーラー服姿の少女が倒れている。

 少女は眼をおぼろに開けたまま動かない。鼻や口からは、どす黒い血がゆるゆると流れ落ちていた。









✧••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✧


面白いと思ったら、☆評価・レビュー・ブクマよろしくお願いします!

評価ボタンは最新話の下にあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ