第1章 近づけない“緑色”
第1章 近づけない“緑色”
私は影。
灯りの隙間をすり抜け、甘い匂いを辿って歩く。
クッキーの缶、ソーダの瓶、氷菓子の冷たさ──どれもすぐに喰える、ひと口の孤独。
だが、その路地の先にだけは近づけない。
緑色の袋が軒先に吊るされていた。
薄紙に描かれた若草の色。それだけで、胸の奥に痛みが走る。
癒しの色。
私を拒む色。
私は孤独を糧とする。
だが緑は、孤独を繋ぎ直してしまう。
触れれば、私自身が欠けてしまうのだ。
だから私は、緑を避ける。
その袋の前を通らず、別の灯りに狙いを定める。
──そこに、ぽてっと立つ小さな影。
耳の赤いクマが、私の進路をふさぐ。
私は緑を避け、甘い匂いの漂う方へと身を伸ばした。
孤独の味を、今すぐにでも口にしたかった。
だが──
「だめっ!」
闇の中に、不釣り合いなほどやわらかくしっかりした声が落ちた。
次の瞬間、そこにぽてっと小さな影が立つ。
丸い耳、ふわふわのしっぽ。
瞳はビー玉のようにきらめき、胸元には小さなリボン。
──クマ。
「これ、みんなで分けるものだよ」
両手を広げ、ちょこんと自販機の前に立ちはだかる。
その姿はまるで、舞台に降り注ぐスポットライト。
私の闇を切り裂き、ただそこにいるだけで眩しい。
私は影。
あの小さな熊に触れれば、きっと崩れてしまう。
だが──どうしてだ。
こんな小さな存在に、私は退けられている。
(つづく)
【友情】をテーマに、完結作品『色喰らいから始まる虹色の絆~』(N7930KJ)の“色喰らい”と、《みなとかちょう》の、ぽふ物語(N8248KR)の“クマちゃん”が登場する物語で、湊花クッキーを守るために果敢に立ち向かいます。
毎日更新予定です(^^)