#1 過去の走り屋
ー雨の日、1台の赤い車、RX-7は夜の濡れた車道を走っているー
ゴゴゴゴゴと轟音を響かせ、段々と加速していく。緩やかなカーブに差し掛かるとギャァァァァと音を立て後輪を滑らせドリフト走行を見せつけた。
しかし、運転している若い男は不思議そうな顔をしていた。男の視線は車のミラーへ注がれている。奥から「なにか」が来る。最初は眩しいヘッドライトの明かりしか見えなかったが、段々と鮮明になる。
RX-7の赤いリアライトに照らされ姿を現したのは、白いクラウンだった。そのクラウンはクラクションを2回鳴らしRX-7の運転手に勝負を挑んだ。
「200系クラウン…オートマが勝負を挑んでくるなんて…何がしたいんだ…?」男はそう呟きながら合図を返す。
急なカーブに差し掛かる。
男はハンドルを切りドリフトを決める。
(所詮はオートマ…俺の走り込んだドリフトには追いつけないだろう…)
頭の中でそう思っていると、後ろからギャァァァァという音とエンジン音が聞こえてくる。
(オートマ車のクラウンがドリフト…!?)
白いクラウンは男のRX-7の隣に並んだ。
(まさか…叩き(Nでエンジン回転数を上げ、一気にローに入れる)なのか…?)
クラウンはさらにスピードを上げる。
(この先は急カーブの連続…何を考えているんだ…)
クラウンはギャァァァァという音と共に急カーブへ突っ込んで行った。
(そんなスピードで突っ込んだら…事故るぞ…!)
しかし猛スピードで突っ込んで行ったクラウンはまるで滑るようにカーブを通過する。
(あの足回り…クラウンには有り得ない程の切り返し性能…まるで峠専用カスタムだ…)
連続急カーブをものともせずドリフトを決めるクラウンの運転手は、涼しい顔をして片手離しで運転している。歳は高校卒業間近と言った感じだ。
RX-7を追い越す。
(さらに加速しているが…命知らずな奴だな…)
急カーブの最後にはこの峠最大と言って良い特大ヘアピンがある。男はドリフトで侵入しようとする。しかしクラウンは曲がる仕草を見せない。
とうとう歩道に乗り上げ、クラウンは中に浮いた。
しかし男が曲がり切る頃にはクラウンは前方でドリフトしていた。
(もしや…空中ドリフト…?わざと歩道に乗り上げ高くジャンプして空中で叩き、ドリフトの形を保ったまま着地し俺の前に出たと言うのか…!?)
その後直ぐに、クラウンは真っ赤なテールランプを見せつけて夜の闇に消えていった。
リアには微かに走り屋が貼るチームのステッカーが見えた…