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第五話 頼れる友人②

「何してるんだ?」


 隣を歩いていた健二からスマホに真剣に何かを入力している優人に疑問が飛んだ。


「葵に買う予定のものを連絡してる」


 スマホから顔を上げずに答える優人。

 その様子を見て健二が笑う。


「何笑ってんだよ」


 ようやく顔を上げて怪訝な顔をした優人が健二の方を見る。

 健二が何を面白がって笑っているのかがわからずより不満を募らせる優人を見て満足したのか健二が口を開く。


「いやぁ、不思議でね。あの優人がここまで他人に対して真剣になっていると思うと」


 話の真意を察して納得した優人は強張らせていた頬を緩めていつも通りに話し始める。


「梓は他人な感じがしなくてな。そんなにロマンチストじゃないけど言ってしまうなら運命みたいな…そうだな、悪く言ってしまうと贖罪…みたいな感じだ。上手く言えてないけどなんとなくわかるだろ?」


 曖昧で言い訳のような言葉を並べる。


「つくづく優人は優人だな」

「なんだよその言い方」

「そのうちわかるさ」


 健二らしくいつも通り飄々と躱している。

 もう今となっては慣れた健二のこの対応もさっきの葵のテンションにも何度も救われてきたのだろう。

 そんなことを考えながら葵への連絡をし終えた。


「ちゃんと全部漏れなく伝えたかい?」


 いつも通りの様子でも少しは梓のことが気になっているらしい。


「そうだな…多分大丈夫だと思う。そんなに心配か?」

「そうだなぁ、どっちかっていうと葵のテンションについていけるかの方が心配かな」

「ごもっともで」


 実際、優人も今の梓には葵みたいな元気さが必要だと思いつつも少し心配している。

 葵なら梓の過去については何を知っても平気だとは思っているが梓がそれを話して大丈夫だとは思っていない。


「渡したメモ、見てるといいけど」

「何を書いたんだ?」

「葵なら何を話しても大丈夫だっていうことと変なこと言ってたらある程度無視していいってこと」

「異論無しだね」


 恋人がそれでいいのかと思うと同時に彼らなりの信頼の証なのだろうと妙に納得させられた。


「はぁ、つくづく頼りになる友人たちだよ」

「それはなかなか光栄なことだね。でもため息をついていうことじゃないんじゃないと思うんだが」

「なんかこう、出来すぎてて癪に触る」

「…鏡って知ってるかい?」

「俺は違う。仮に健二から見てそうであったとしても俺はまだ自分が許せない以上、出来た人間だなんて言うつもりはない」


 優人の中に昨日誓った決意が思い返される。

 責任感、罪悪感、自己嫌悪。

 全てを背負ってでも一人の少女を助けると決めたのだ。

 それを果たさずして自分をできた人間などと言うことは優人にはできない。


「なんとなく、わかってきたかな。優人が決めたんだ。頑張ればいい」

「…そうだな」

「そんなに辛気臭い顔しててもいいことないよ」

「ああ、そうだな」


 そんな会話をしながら歩いているとピロリンとスマホが鳴った。

 ロック画面に映った名前を見ると案の定葵からの返信。

 開くと思っていたよりも先に進んだ内容だった。


『梓ちゃんから全部聞いたよ。買い物のことは任せてね』


「思ったよりも早かったな」


 優人はそう呟くと神妙な面持ちで健二に続けた。


「健二、今からの話は他言無用だ」

「本人が話すまで待つんじゃ無かったの?」


 何についての話かは見当がついていたらしく悩む様子もなかった。


「さっき葵から連絡があった。梓が全部話したんだと」


 とりわけ、葵が無理に迫っていないかだけが心配だが…今考えても仕方がないだろうと割り切ることにした。


「なんかその言い方だと取り調べみたいだね」

「またお前は…割と深刻な話なんだ」

「……そうだなぁ…個人的にはそこまで心配してないけど」


 健二が珍しく真面目な顔を作った。


「実際、人によってはそっとして何も言わずにそばにいるだけの方がいい人とか何でもかんでも親身になってあげるべき人とかその他諸々色んな人がいると思う。緋衣さんの場合は…おそらくだけど親身になってあげるべき人だね」

「何か判断基準でもあんのか?」


 変に自信を持って言う健二に優人は質問してみる。


「個人的には環境の変化があったかどうかだと思ってる。違うかな?」

「…まだ中身については話してないが」


 確信しているかのように語る健二。

 健二の知っていることはほとんど無いはずだが、まるで全て知っているかのような話し方だ。


「じゃあ逆に聞くが…環境の変化なしに今まで接点のなかった男女で日用品を買いに来るかって話でしょ。ましてや高校生で」

「…それもそうか。いわれてみればおかしな話だな」


 妙に説得力のある健二の言い分に納得した優人はそういうことならと話し始める。


「まず初めに言っておく、梓に家族はいない」

「……は?…えっと、まじ?」


 満を持して発せられた言葉に健二が珍しく取り乱した。


「そんなつまらない嘘はつかない」

「まぁ、そりゃあ…そうだろうけど」

「じゃあなんでそんなに驚いてるんだよ」


 優人には不思議でならなかった。

 何せ健二が有る程度の予想をもとに聞いていると勝手に思っていたのだから。


「いや、もっと…こう、『私たち付き合い始めました』みたいな幸せな話かと思っていたかな」

「そんなにおめでたいことが俺にあるとでも?」

「あながちないとも限らないんじゃないかな」

「…ないな。というか今はそんなことより梓のことだ」


 優人が軌道修正をすると健二も思い出したように深刻な表情に切り替わった。


「そんな真面目な顔作れたんだ」


 またも健二の珍しい姿にペースを崩されそうになるが何とか持ち直して言葉を続ける。


「まぁいいや。……梓の住んでいた家は火事で焼け落ちた。ニュースにもなっていたし知ってるんじゃないか?」

「確かに、僕らの住んでる町で火事はあったな…ってことは本当に家族は…」


 今朝のニュースでも報道されていた。

 住宅一軒が全焼、家の中には身元不明の焼死体が3名。


「残酷な話だが全て起こってしまった事実だ。さっき言った通り梓には住む場所も金も家族も残っていない。それが事の大まかな全容」

「………」


 健二はとうとう立ち尽くして言葉を失った様子。

 しかしそんなことは意にも返さず優人は質問をぶつける。


「俺は…俺のしたことは、間違っていると思うか?すべてがなくなった人に生きていろというのがあまりに酷だったのは理解してるんだ。それでも間違ってなかったって言ってくれるか?」


 昨日からずっと分からなかった。

 偽善か悪か、正義か自己満足か、似て非なる言葉のどれで自分の行動が形容できるのか。

 優人は自分の行動の正誤性が分からなくなっていた。


「…言えないかな」


 しばらく時間が経って健二はあっさりと言ってのけた。


「そう…か」


 まさかこの状況で否定されるとは思ってもいなかった優人は言葉に詰まった。

 そんな優人を見て健二が言葉を続ける。


「別に間違っていたって言いたいわけじゃない。ただ、()()()()()()()ってだけだよ。自分の行動が正しかったかどうかなんて自分が決めるんだ。これから優人には彼女にやってあげなくちゃいけないことが大量に残っている。それをすべてやり切って正しさを証明するまで正しさなんてわからないからね」

「何を…わかったような口で」


 優人が小さく愚痴をこぼす。


「分かってるさ。何せ()()()()()()()……いやなんでもないや。とりあえず一度決めたことなんだからやり通しなよ。優人だってダサいことはしたくないだろ?」

「…まぁ、そうだな」


 健二が言ったように途中で投げだすような無責任なことはできない。

 しかしするべきこともわからなければしてはいけないこともわからない。


「具体的には…どうすべきなんだろうか」


 もうこの際、健二に頼り切ってみることにした。

 優人としては明瞭な回答じゃないにしても何かしらの意見が欲しい。


「なかなか難しいことを聞いてくれるね。そういうのは当事者じゃない僕からは触れづらいところだけど…そうだなぁ…強いて言うなら優人がネガティブになってはだめだろうね」

「…ん?」


 いまいち健二の言うことがピンとこず、優人があからさまに疑問符を浮かべる。

 優人からしてみれば自分のことは梓に関係がないように思える。


「人間は意外と周囲の影響を受けるものだよ。葵のことを見ていたらなんとなくわかるだろう?」


 葵は少し過剰な気はするが健二の言い分もなんとなく理解できたような気がする。


「つくづく、健二でよかったと思う」

「お礼は手料理でいいよ」

「また葵が泣きつきに来るだろうからその時にな」

「拒否しないのが優人だな」


 少し肩の荷が下りたような解放感が優人の中に顔を出す。

 昨日までの重圧も少し和らぎ、ある程度の安心感が優人を柔く包んだ。



「お疲れ…なんかいろんな意味で」


 買い物が終わったと二人から連絡を受けて別れた場所まで戻ってくると目元を赤くはらした葵と両手いっぱいの買い物袋を持った梓がベンチに座っていた。

 違和感しか感じない空間に恐る恐る声をかけると梓が少し疲れた様子で言葉を発した。


「あぁ、優人君。そっちこそお疲れ様」

「いや、こっちはいいんだが…葵に何があった?」

「えぇっと…」


 梓が言葉に詰まった。

 なんとなく事情を察せなくもないが、もらい泣きだとしたらあまりに泣きすぎである。

 さっきも話題に上がった葵の感受性にまさかこんなに早く対面することになるとは思ってもいなかった。


「まぁ、なんとなくわかるからいいや。それに葵の飼い主もいるから大丈夫だろ」

「か、飼い主…」


 さすがの梓も健二のことだとはすぐには思えなかったらしく一瞬疑問符を浮かべた。


「だから、それ失礼じゃない⁉」

「まあまあ、落ち着きなよ。いつものことだろう?」

「んっ…」


 すこし遠くから大きな声が聞こえたかと思えばすぐに頭をなでられて落ち着いた葵。

 もはや本当にペットと飼い主である。


「な?」

「…否定はしないことにしておこうかな」

「梓ちゃんに変なこと教えるんじゃないよ!」

「まあまあ」

「んっ…」


 完全に飼いならされていることを自覚してから反論したほうがいいとは思うがこれ以上言うとかえって面倒になる気がした優人は無視して梓に話しかける。


「買いたいものは全部買えたのか?」

「うん。あっ、そうそう、このお金余ったから返すよ」


 少し薄くなった封筒を差し出して梓が言う。


「いや、そのまま持ってていいよ。もともとその予定だったし」

「え?いやいや、申し訳ないよ」

「もらえるものはもらっとけ。いつか使うんだし」


 半ば強引に封筒を突き返して梓に持たせる。


「でも…」

「それを口実に脅したりしないから大丈夫だって」

「いや、疑ってるわけじゃないんだけど…いいの?」

「もちろん。まぁ、昨日の約束ではいつか返してもらうことになってるけどな」

「わかった。ありがとう」


 少しぎこちない笑みを浮かべた優人から受け取った封筒を買い物袋の中に仕舞った。

 まだ申し訳ないという気持ちがあるのか梓は気まずそうにあたりをきょろきょろとしたり少し俯いたりしている。

 そんな様子でいられると優人としても非常にいたたまれない。


「じゃあ今度こそお暇するとしようかな」


 そんな時健二たちが声をかけてきた。


「もう帰るのか?」

「まだ帰らないけど」

「は?」

「これでも私たちはデートに来ているからね。やることがあるのだよ」


 謎にマウントをとるような言い方で勝ったような笑みを浮かべる葵。


「…まるで『うらやましいだろう?』みたいに言われてもそんなことないから安心しろ」

「ちぇっ」

「「あはは…」」


 わざとらしく舌打ちをしてふてくされたような表情を浮かべる葵を見て苦笑いを浮かべる梓と健二。


「こんなのが日常でもいいのかもな」


 誰にも聞こえないような小さな声で優人が呟く。

 しかし日常に戻るにはもう少し時間がかかりそうなのもまた事実。

 梓の問題はまだまだ終わりそうにない。

お久しぶりです。花薄雪です。

今回は健二の性格がよく分かったんじゃないかな。

いいやつですけど性格は悪いです。

優人とか葵には相当優しいですけどね。

今後梓に対してどうなっていくんでしょうね。

僕もまだわかりませんが…


最後に、気に入っていただけましたらブックマークと拡散をお願いします。

していただけたら僕が泣いて喜びます。

それではまた次回の後書きでお会いしましょう。

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