デボラの母上はマジで怖い
「だが……たっぷり財産もあって楽に落としやすい男がここにいると仮定してだ。どうして彼女はその落としやすい男を集中して狙わずに、周りに余計な火だねをまき散らす必要があるのだね?」
ヴァロの疑問はもっともである。
あんなアホなハレンチ行動をすればクロエ嬢が女子という女子から敵視されて居づらくなるし、何よりハリカルナッシン家の養子の話も消えてしまいそうである。
いや、留学して1年も過ぎていないのにハリカルナッシン家の本家の直系であるヴァロがここまで不快感を覚えていたら、もう養子云々の話は完全に消えてしまったと考えて間違いないだろう。
「そんなの、落とすのが超簡単だからだろ!」
「おいレクス、それは吾輩が『カモネギ野郎』だとでも言いたいのか」
憤るヴァロをまあまあと俺はなだめてから、
「うーん……そこまではまだ分からないけれども、もしかしたら彼女は貴族派の子弟の弱味を握りたいのかも知れないよ」
ああ……とレクスもヴァロも納得の顔をした。
「いわゆる『色仕掛け』であるか」
ヴァロがぽつりと呟く。俺は頷いて、
「だってクロエ嬢は皇太后派の一番の重鎮であるトロイゼン公爵家の関係者だろう。あり得ない話じゃあなさそうだとは思わないかい?」
クロエ嬢の正体が、皇太后派が留学生として派遣した、貴族派の令息達へのハニートラップの仕掛け人だとしたら。
「その可能性がとても大きいな。だがカイン、俺達と同じ男のカインがどうしてこの事に気付けたんだ?」
レクスのもっともな指摘に、俺は……仕方なく白状した。
「……僕の母上に『こんなとんでもない子が留学してきた』って愚痴をこぼしたら、すぐに僕の話からクロエ嬢の情報を整理して分析して……」
風魔法を操るデボラは『分析』も得意だし(『分析』は風魔法の中でも高等技術なのである)、西の離宮の筆頭女官だからか、やたらと女を見る目があるのだ。週末に家で大酒を飲んでは俺達相手に『息子が2人とも可愛いのよーーーーーーーーーーーーーーーー!』と奇行をやらかす癖に。
だからって、「恐らくその子は皇太后派のスパイか何かでしょうね」って推察を聞いた時には、俺もカインもビックリしたけどな……。
『流石はデボラの母上……しかし……怖いな、母上は』
敵に回したら、一瞬で潰されそうである。
前世のように少しの事でムカついた程度で『ウゼーんだよクソババア!』『あっちに行けよクソババア!』なんてほざこうものなら、俺は生きていられないと思う。
……いや、想像しただけで怖くなってきた。勝手に体が震えてきたよ……。
「西の離宮の筆頭女官は、伊達じゃないのだね……」
ヴァロもビビっていた。




