心臓♡の病気だよな?って俺に訊くなよ!
「私はクロエ・アプ・イオと申します。アカデメイア学園から留学でこちらにお邪魔しております。平民出身ではありますが、トロイゼン公爵家で行儀見習いとして多少のマナーを学ばせて頂いたつもりです。とは申せ至らぬ所も多々あると思いますので、皆様の中で研鑽を積ませていただければ幸いに存じます」
「き、綺麗……」
クラスの女の子が呟いた。俺もポケーッと口を開けて自己紹介をする彼女を見つめていた。
顔立ちも凄く綺麗なんだけれど、それよりも彼女の所作の一つ一つが完璧で、デボラが面接しても『合格!』の太鼓判を一目で押しそうなくらいに佇まいが美しいのだった。
……クロエ嬢って俺達と本当に同い年?
色の薄い緑色の髪の毛と瞳が辛うじて『平民』だと示している以外は、貴族の深窓の令嬢だと押し通しても疑われずに通りそうだ。
「……なあ、カイン……」
「何だよレクス?」と言いながら俺は隣に目をやって、凄く慌てた。
「俺は……もしかしたら……心臓の病気かも知れない」
レクスがこのまま熱を出して卒倒してもおかしくないくらいに顔が真っ赤で、胸を押さえて、ブルブルと震えているのだ。しかしその視線はクロエ嬢に釘付けである。
すっごく分かりやすいなレクス!?
「大丈夫か、保健室に一人で行けそうか?」
この前の春休みに雷親父の所で武者修行してきたと自慢そうにレクスは言っていたが、これじゃ何のための修行か分からない。
「あ、ああ。無理だっ」
俺は挙手して叫んだ。
「先生、すみません!レクス君が頭が痛いそうです、保健室に連れて行っても良いですか?」
「おやおや、それは大変だ!」
担任の先生はすぐにレクスを連れて行こうと言ってくれたけれど、それは級友に悪いので俺が連れて行くと言い張って、すぐさまレクスに肩を貸して教室を出た。
「む、胸が苦しいんだ……」
レクス、重たくなったな。筋肉が付いてきたんだろうな。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
何とか保健室のベッドに寝かせる事が出来た。
保健室の先生は大講堂で倒れちゃった新入生の手当が必要らしくて、今は不在にしている。人が多いのに慣れられなくて、気持ち悪くなる人もいるもんな。
「クロエ嬢と視線が合った瞬間に、俺の心臓が突き刺すように……!」
「もしかして……それ、恋じゃないのかな」
『……バカか』
『黙れ。レクスはバカなのが良いんだよ!レクスがバカじゃなくなったら信じられなくなる』
『ハァ……』
ため息をつかれた。
「こ、恋ぃいいいいいいいいいいいい!!!?!?????」
素っ頓狂な悲鳴を上げかけたレクスの口を咄嗟に封じた俺、誰か褒めてくれ。
『誰が褒めるか!』
カインには頼んでねえよ!
「だってレクスは剣術でも魔法戦でも怖い物なんて無いだろ」
「ああ」
「でも女の子の瞳に一瞬で負けちゃったって事は……僕は恋だと思うんだよね」
「そ、そんな、そんな軟弱な……ひ弱な男に俺はなりたくない!」
「それはレクス次第だけれどさ。でも大事な人が出来て、その人を守るために強くなるってのはそんなに悪い事じゃないと僕は思うよ?恋愛とかそう言うのは抜きにしてもね」
「……守る、か」
レクスは黙ってしまった。




