魔剣装着
家族だけでそっと見送らせましょう、と沈痛な顔をした医師や、泣きじゃくったりため息を繰り返したりしている召使い達が部屋の前に押し寄せている所をデボラがかき分けてくれて、俺達はヴァリアンナの部屋に入った。
……嫌な臭いが立ちこめている。病院の臭いをもっと酷くしたような臭いだ。
泣きながら手を握り、ヴァリアンナの名前を何度も呼ぶ母親、歯を食いしばってベッドの側に立っているミハエル、レクスはその隣で小さく震えていた。
ガリガリに痩せたヴァリアンナの髪の毛がほとんど真っ黒になっていて、一部だけ金色がかった色を残している。もう意識は残されていない。
後はこのまま死ぬだけだった。
「……カイン」
レクスが俺達に気付いた。俺はすがるような視線に、頷いて返す。
約束だからな。助けるって。
『属性変更って出来るよな?』
『無論だ。だが、この女は!』
『デボラが生きている。だろ?』
『……チッ』
俺の影が俺の体にまとわりついた。
【魔剣ドゥームブリンガー――展開】
【鎧形態へ変更……装着完了】
挿絵では見たが、魔剣を鎧として装着した後って――中二病の暗黒騎士っぽいな!?
【捕食対象を選んで下さい】
変身した俺を、レクスがポカーンと目を丸くして見ている。
「なんか……かっこいいな?」
『ヴァリアンナ・エウェヌ・スキピオだ』
俺は手を伸ばしてヴァリアンナに触れた。ヴァリアンナが一瞬で魔剣ドゥームブリンガーの闇の中に飲み込まれる。レクスの両親が驚いて、それから『娘に何をする!』と俺に飛びかかる前に――。
【ヴァリアンナ・エウェヌ・スキピオの解析完了】
【魂の属性と肉体の属性が乖離】
『どちらへ変更した方が安定する?』
【光属性を推奨】
『直ちにやってくれ。完了したらベッドに戻すように』
【了解】
――バシュン!と音を立ててヴァリアンナの体がベッドに放り出された。
『おい、病人は優しく丁寧に扱え!』
【生命維持に問題ありません】
『……もう良いよ……』
【装着解除】
「ふぇ……?」
その声に、俺の首を絞めようとしていたミハエルと花瓶で俺を殴ろうとしていたレクスの母親が止まった。振り返った先の、ベッドの上でヴァリアンナが目を覚ましていた。
「おとうさま?おかあさま?」
「「「ヴァリアンナ……!?」」」
「みんな、こわいかお……どして?」
ヴァリアンナがむくりと体を起こして、でも体力が無くてフラついている。
「ヴァリアンナ!寝ていなくて大丈夫なの!?」
ヴァリアンナにすがった母親に、
「でもあたち、おなかがすいたのぉ!おかしちょうだい?」
「――うわあああああああああああああああああっ!」
そのまま泣き崩れる母親にへたり込むようにして床に座ってしまうミハエル、レクスは俺とヴァリアンナを交互に見ていたが、ポツリと言った。
「ほんとうに……たすかったのか!?」
そしてレクスは、くしゃくしゃと顔を歪めるなり、ワーワーと大声で泣き出した。
「……まにあってよかったね」
「ええ……本当に。レクス君も、よく頑張ったわね」
デボラが泣きじゃくるレクスの頭を撫でてくれた。




