ジンとカイン
帰りの馬車の中で、カインが話しかけてきた。
『……デボラの母上が……本当に生きていらっしゃるとは。おい、貴様。貴様はどこの何者だ?』
『事情を話したところで、信じてはくれないと思うけれど……』
『信じる。貴様がどこの何者であれ、貴様がデボラの母上を助けたのだろう?』
『……』
『貴様、名は?』
『この体に入る前の名前は……ミナモト・ジン。異世界で生きていた。だけど、家族全員を殺したヤツにキッチリと復讐してから自殺したんだ。でも気付いたら、この……2才のカイン・コンスタンティンの体の中にいたんだよ。
自殺する前……俺にも弟がいてさ。どうしてか弟はこの世界の情報を「小説」って形で知っていて、俺によく教えてくれたんだ。デボラが無理心中しようとするのをギリギリで防げたのは、それがきっかけで至る、ほぼバッドエンドの未来を知っていたから。
でも今のデボラは帝国城の西の離宮の筆頭女官として、俺とディーンを育てながらバリバリ働いているぜ』
『どうしてあのゴミまで……!』
『それがさ……』
俺はかいつまんで事情を話した。デボラとサリナの悲劇を何とか回避したと思ったら、レーフ公爵がよりにもよって帝国城で俺を殺そうとしサリナを暴行したこと。それでディーンが生まれてしまったこと。だからデボラはサリナにとても同情的で、今はマグヌスとサリナの後見人までやっていること。
『だから、この世界ではデボラもカインも、ディーンに憎悪も怨恨も抱いていないんだ。むしろ大事な息子で弟としてスゲー可愛がっている。
……アンタの恨みは仕方ないしどうしようもないけれど、俺の大事な弟を痛めつけるのは止めてくれよ』
『大事な弟……俄には信じられん』
『だろうな。俺だってこの体に入った最初は訳が分からなかった』
『まさか……神々の差し金か?』
『神々の差し金?神様がこうなるようにしたってこと?』
何だ、それ?
『ああ。俺はあのゴミの存在を許容した世界を破滅させることだけを望みとしてこの魔剣の持ち主になった。そして俺の命を代償に、その願いを実現させた……つもりだった』
『……それって、カインがディーンの目の前で嗤いながら自殺した後の話か!?』
弟はそこまで話してくれなかった。
違う。
弟の読んだ『小説』はカインの自殺でオールバッドエンドで終わっていたから、弟もその先は知らなかったのだろう。
『そうだ。腐ったこの世界も神々をも滅ぼしてようやく俺は眠れると……安堵したことまでは覚えている』
『……じゃあ、あの世界は一度滅んだのか』
登場人物全員がバッドエンドを迎えている鬱小説じゃなくて、まさか世界そのものさえ終わっていたとは……全く予想していなかった。
『だが、未だに神々の存在を感じる』
『どう言うことだ?』
『どうやら俺は神を滅ぼし損ねていたらしい。残った神々が……この世界を復元したのだろうな』
『……凄く壮大な話になってきたな』
話していたら、俺は眠くなってきた。
『貴様、疲れているな?』
『そりゃ6歳児の体で、しかもあんな大騒動を起こしたからな……うう』
『……寝ろ。どうせ家に着いたらデボラの母上から、また……叱られるだろうから』




