レクスの妹
ヴァロとコンモドゥスが激論を交わしている隣で、俺とディーンとレクスはチャンバラごっこをして遊んだ。チャンバラごっこと言っても、指導役は元近衛騎士(定年退職)のアグリッパさんなのでほとんど剣術の稽古である。
「中々に筋が宜しい!」
元近衛騎士だけあって、超強い!
俺達は一方的にやられるだけだったが、アグリッパさんはとても楽しそうだった。
「これなら将来の近衛騎士も夢ではありますまい」
「おれはしょうぐんになるんだ!」
負けず嫌いなレクスはちょっと泣きそうである。
「努力と研鑽を積めば、必ずなれますとも」
レクスの頭を撫でて、アグリッパさんは励ました。
「ワシの同い年頃と比べれば、とてもお強いのですからな!」
「うわあああん!」あーあ、ディーンが泣いちゃった。「かちたいよー、くやしいよー!」
「その向上心と反骨心があればすぐにワシも追い抜かれますぞ」
「ほんとう?」
「ワシはどうも嘘が苦手でしてなあ」
「ぼく、つよくなる!」
「うむ、うむ。その気合いが大事ですぞ!」
「いいなあ……」ぽつりとレクスが呟いた。「おれもディーンみたいなおとうとがほしかった」
「レクスにはいもうとがいただろ?」
違うんだ、と俺が訊ねたらレクスは悲しそうに言った。
「ヴァリアンナは……もうすぐ……しんじゃうから」
「どうして!?」
俺は仰天した。レクスの妹のヴァリアンナはディーンの初恋のヒロインのはずだ。
将来カインが娼館に落とすまでは無事に生きているはずである。
「どうしてって……そのままのいみだよ。ヴァリアンナはなぞのびょうきでもうすぐしんじゃうんだ。もうおきあがることもできない」
待て!聞いてないぞ。
大飢饉に伴う疫病が流行るのはまだ先だ。
まさか俺がカインの体にいる所為で、何か……異変が起きているのだろうか。
「しょうじょうは……?」
「……めのいろとかみのけのいろがちがうんだ。ひかりとやみのふたつのぞくせいがヴァリアンナのなかでたたかっているみたい。いろんなおいしゃさまをよんだけれど、みんな、それがげんいんだろうって……」
ヴァリアンナは純然たる光属性だったはずだ。何で闇が混じっているんだ!?
いや、それはひとまず置いておくとして、ヴァリアンナがディーンに出会う前に死ぬのはとてもマズい。
何故ならディーンは度重なるカインからの虐待に一度は心を病んで、それを救うのがヴァリアンナだからだ。
あれ、でも俺はディーンを『いいこいいこ』したことは沢山あるが、虐めたことなんて一度も無いぞ?
もしかして……それが原因か!?
ディーンの誕生に関して、俺が回避したと思ったのに結果的にサリナがあんなことになったように、この世界はディーンに関する筋書きが思いっきり変わると、何らかのつじつま合わせが起きる……としたら?
そうすればヴァリアンナの謎の病気の説明も付く。
ディーンにとってヴァリアンナの存在が全く必要じゃなくなったから、彼女を排除しようと何からの作用が働いているとしたら――ヤバい。
サリナに起きたような酷いことがヴァリアンナにも起きてしまう!




