主人公の誕生
俺が簡単な魔法を扱えるようになって、絵本なら1人で読めるようになった頃、ディーンが生まれた。
ディーンことドミナトゥス・コンスタンティン。
ディーンがほぎゃあ、ほぎゃあと泣きながらおくるみにくるまれて運ばれてきた日、デボラがサリナにとても長い手紙をしたためていた。
「デボラ様、レーフ公爵家の執事がお話があるそうです」
そこにポンポニアがやって来たので、デボラは頷いてマグヌスに会いに行った。
……戻ってきたら、デボラは涙ぐんでいた。地獄のような女官達の嫌がらせにも平然としていたのに。
「おかあさま?」
「マグヌスはね、何もかも捨ててサリナと共に市井に下って生きていくそうよ」
……そうか。俺はどこかで安堵して、マグヌスとサリナの苦しみと悲しみがどうか少しでも和らぐように祈った。
「マグヌスはレーフ公爵家の領地経営もやっていた経験を活かして、商人になると言っているわ」
俺は頷いた。どうか今度こそ2人とも幸せになって欲しいな。
「それで、私が2人の後見人になろうと思うのだけれど……商人には信用が必須でしょう、少しでも助けになりたいの」
「さんせい!おかあさま、さんせい!」
デボラは微笑んで俺の頭を撫でてくれた。
俺の殺された弟のことを思い出す。アイツが生まれた時もこうだった。
小さくてふにゃふにゃしていて、何か小さい生き物。
泣く、お乳を飲む、出す、寝る。その繰り返しなのにスゲー可愛いんだ。
俺はディーンに絵本を読んでやる。
「うさぎさんは、ぴょんぴょんかけっこがとくいです。とりさんは、ぱたぱたとぶのがとくいです。おさかなさんはすーいすい……」
早く大きくならないかなあ。いつか俺に推しの小説を熱烈に布教するくらいに……。