ヴァロには後で謝っておく
「さてと、貴男の名前は何だったかな?」
丸一日かけて回復した後で(それでも食事を食べられる状態じゃなかった)、俺は魔法が使えないように魔剣で拘束した目の前の男を相手に、幾つかの確認作業を始めた。
「ひっ……!」
「答えないならそれで構わないですよ。戦化粧をしたオーガ族のみんなのど真ん中に放り投げるだけですから」
「ゲートだ!ゲート・セウェルス……!」
「へえ、貴男でしたか。ヴァロの遠い親戚で、今や一族から追放されて、家長であるヴァロの祖父によって見つけ次第殺すよう命令が下っていると聞いたことがあったような……」
「アイツを知っているなら助けてくれ!私は騙されたのだ!貴族派の連中に改良した魔幸薬を悪用されたんだ!」
「同情しますよ、酷い話だもの。それで、貴族派の誰に悪用されたの?」
「イアソンだ、ほら、エヴィアーナ公爵だったあの男だ!」
「公爵が相手じゃ、逆らえなかったでしょうね……」
「そうだ、ヤツはどうしてか魔幸薬の作り方を知っていて、更に改良しろと迫ってきたんだ!」
「どんな風に作り替えろって……?」
「幸福感の肥大や魅了効果だけじゃない、一時的な魔力の増大量を限界まで引き上げろと……だがそんな事をすれば一度の使用で廃人になる、何度もそう警告したのに……!」
「聞いて貰えなかったんですね……」
「そうだ!ヤツは『廃人の軍隊』を編成すると言っていた!」
「ええっ!?何それ!?」
「ほら、魔法は貴族しか使えないだろう?改良した魔幸薬は魔力を増大させて、服用した平民も魔法を使えるようにするんだ。だがその代わりに、一度薬効が切れた後は悉く廃人になる……!」
「何て酷い話なんだ。僕は貴男に心から同情します」
「そ、そうだろう……それが分かったら、目隠しとこの変な縄を……」
「ええ、貴男をいきり立つオーガ族のど真ん中には放り投げません。安心して下さい」
「う、うむ。だから、目隠しとこの縄を……」
「いえ、貴男にはこのままエルフ族の弓の訓練に付き合って貰います。それくらい良いですよね?」
「あんな奴隷共が、弓の訓練だと……?」
「なあ」俺は声音をがらりと変えて言った。「ヴァロが言っていたよ。貴男がどうしてセウェルス一族から追放された上に見つけ次第殺害しろと言う命令まで下っているか。とっても可愛い平民の男の子に手を出したんだろ?あのエルフ族の少年達みたいな、さ」
「なっ……どうしてそれを!?」
どうしてかって?
昔、プライドがあんなに高いヴァロが身内の恥を忍んで『見つけたならば教えて欲しい、吾輩が手を下しに行くのである』と打ち明けてくれたからだ。
俺は手を上げた。
目隠しされたままなので、気付かずにゲートは喚いている。
「貴様がどうしてそれを……ギャッ!」
――短い悲鳴と共に、一瞬で矢だるまになって絶命した。
うーん、やっぱり弓の名手揃いのエルフ族でも、子供だと的の貫通までは出来ないか。
「さて、矢は貴重だから回収、回収……」
俺は手を下ろしてから、最後の作業に移るのだった。




